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リガク・ホールディングス 川上潤氏 |
カーライル 富岡隆臣氏 |
目次
案件概要
| 対象会社 | リガク・ホールディングス株式会社 |
| スポンサー | カーライル |
| 売り手 | 創業家 |
| 案件発表(年月) | 2021年1月 |
| 事業概要 | X線分析装置の開発・製造 |
| 業績推移 | 売上高 投資時 約442億円(2021年3月期) / エグジット時 約906億円(2024年12月期) |
| 主な価値創造 | 経営体制・組織運営の高度化(創業者主導から制度化された体制へ移行)、グローバル体制の強化、成長領域への戦略的投資、上場に向けた体制整備 |
課題は事業承継とグローバル経営体制の構築
―― リガク・ホールディングス(以下リガク)の事業概要を教えてください。

川上「リガクは1951年に理学電機として設立され2026年に75周年を迎える、歴史ある会社です。もともとは結晶学者らのR&D(研究・開発)に必要なX線分析装置を開発・製造する会社で、そこから最先端の半導体デバイスの開発・製造などへ事業領域を拡大してきたのがここ10年ほどの動きです。創業者の志村義博さんの跡を継いだ晶(ひかる)さんが長い間、経営トップとしてリガクの成長を支えました。
2024年12月期の売上高は約906億円です。主力は、X線回折や蛍光X線分析といった技術を通じて大学や研究機関、大手企業の研究所のR&Dニーズに応える『多目的分析機器』で、売上高全体の約45%を占めます。次いで、半導体製造の前工程で使われる『半導体プロセス・コントロール機器』が売上高の約26%を占め、これが成長のドライバーになっています。残りの約29%はメンテナンスなどのサービス、部品の外販、X線以外の分析機器などです。
日本でスタートしたファミリーオウンド(家族経営)の会社ですが、比較的早い段階で海外進出を果たし、海外での売上高が全体の7割超となっています。グローバル市場でのポジションで言うと、多目的分析機器はナンバーワンに近いナンバーツーです。半導体プロセス・コントロール機器は約40%のシェアを持ち、グローバルニッチの領域でナンバーワンになっています」
―― 2021年にカーライルの資本が入りました。どのような経緯で投資をされたのでしょうか。
富岡「2代目社長の志村晶さんと我々カーライルとの長年にわたる対話の結果、創業家から引き継がせていただいた案件です。志村さんは経営から離れる考えをお持ちでしたが、当時、後継者を会社に入れていらっしゃらない状態でした。志村さんはリガクの全株式を保有していて、この事業を誰にどのような形で引き継げばいいのか10年くらい悩んでいらっしゃいました。
リガクのX線の要素技術は世界最高水準です。高い専門性を持ち、かつニッチとはいえグローバルリーダーのポジションを確立した会社はそう多くはないので、このような会社は独立した形で将来に残すべきというお話をさせていただきました。また、リガクは欧米やアジアへ事業展開をしていて各地に現地法人と工場を持っているので、グローバル経営を円滑に行える体制をさらに促進する必要がありました。その点、カーライルはグローバルな投資ファンドですし、グローバルな経営体制の構築に関しては豊富な経験値があるので、そこをご評価いただきました。
リガクは当時からグローバルな事業会社から注目されていたので、志村さんもいろいろな選択肢を持っていたはずですが、最終的にカーライルを選んでいただき、エグジットとしてはIPOを選択する形になりました」
G1RとLab to Fab戦略の推進で経営を強化
―― リガクが当時抱えていた経営課題を解消するために、どのような体制を敷いたのでしょうか。
富岡「リガクの宝は何と言っても開発なので、開発部門の人たちが伸び伸びと力を発揮できる環境をつくることが重要で、そこは変えてはいけないと思っていました。一方で、人事を含め、経営管理能力は強化する必要がありました。経営力の強化を図るため、カーライルのグローバルなネットワークを活用して最高クラスの経営トップを各地域で採用しました。2021年に取締役として招聘した川上さんには2023年1月からCEOに就いていただき、組織経営への移行に向けてリーダーシップを発揮していただくことにしました。新生リガクの経営チームを機能させることが、グローバルガバナンスを発揮する上で重要でした」
―― 川上さんは新生リガクの経営強化に当たって、カーライルとどのような取り組みをしてきたのでしょうか。
川上「以前は戦略のクラリティ(明瞭さ、明確さ)がなかったので、現在、2つの大きな取り組みを進めています。1つはG1R(グローバル・ワン・リガク)です。G1Rとは、全世界の従業員がワンチームとなってグローバル全体でのパフォーマンスの最適化とグループ総合力の向上を目指す取り組みです。かつては国内と海外の拠点がそれぞれ独立した形で動いていましたが、国や法人の枠を越えて開発・製造・販売といった機能を横断的に統合し、グローバルな組織体制への移行を進めています。
もう1つはLab to Fab戦略です。これは、リガクが長年培ってきたX線の要素技術を基盤に、大学や研究機関などのR&D領域(Lab)で確立した解析技術をより大きな市場である産業分野の生産領域(Fab)へと展開することを指します。Labの装置とFabの装置は全く別ものです。わかりやすく言うと、今回ノーベル化学賞の受賞が決まった京都大学特別教授の北川進さんが行っているような研究を支えるのがLabの装置で、高性能な測定が重視されます。一方、Fabの装置は『24時間、全自動で動く、同じ結果が出る、一貫性がある』といった安定稼働を支える仕組みが重要になります。LabとFabとではビジネスも顧客も異なりますが、X線という共通の技術でつないでLab to Fabを推進しています」
富岡「タイムリーなニュースが出ているので少し補足をすると、北川特別教授は長年、リガクのX線回折装置や解析装置などを活用してR&Dを行い、数多くの素晴らしい成果を挙げられました。また、リガクは国際的な学術誌ネイチャーが毎年発表するネイチャー・インデックス(重要な科学論文の発表状況を国や研究機関ごとに評価する指標、データベース)の日本企業の化学部門でトヨタ自動車に次いで2位にランクインしたことがあります。日本を代表する大企業であれば多額のR&D費用を投入できますが、リガクのような中堅企業がその領域で存在感を示していることは、リガクの実力の高さを示すものです。技術を大切にするリガクの姿勢はカーライルの投資判断にもつながっています」
積極投資で国内拠点の製造能力を約2倍に増強
―― リガクは過去に海外企業を買収した実績があり、カーライルの資本が入ってからもオランダ企業を買収しています。インオーガニック戦略の支援も行ったのですか。
富岡「2021年に、オランダのライフサイエンス向けイメージング機器メーカー、MILabs B.V.の買収を支援しました。買収機会はそれ以降もずっと探っていて、経営陣ともいろいろと検討してきましたが、買収は相手がいないとできませんし、当初からIPOを念頭に置いていたこともあり、実現したのは1社だけです。リガクはM&Aを戦略の柱にしているわけではないので、専門のチームや組織はありませんが、経営管理チームのレベルが底上げされたことで、事業ポートフォリオを検討する役割が組織として機能するようになってきています。今後は、こうしたチームが中心になってM&Aを推進していくと思います」
―― 川上さんはこの4年間、リガクの経営改革を推進してきました。パートナーのカーライルからの提案や対話の中で印象に残っていることはありますか。
川上「PEファンドがリガクのような会社を買収し比較的短いタイムフレームで上場まで持っていこうとすると、R&Dや設備投資を積極的に行わず、お化粧だけして出ていくケースがあります。その点に関して言うと、今回それは全くなかったです。Lab to Fabを推進するには従来とは違うレベルのR&Dや製品開発を行わなければいけませんし、海外にも自前のコマーシャル・インフラを構築する必要がありますが、カーライルはそれを奨励してくれました。そこがトラディショナルなPEファンドとは違うと感じた部分です」
富岡「どの会社に対してもR&Dや設備投資を奨励するわけではありません。『その会社にとって何がベストか』で判断します。リガクには成長ポテンシャルがあり、R&Dや設備への投資による十分な成果が見込めたので、投資を通じてさらなる成長を促すことがこの会社にとってベストだと判断しました。むしろ技術の会社でありながらR&Dの投資は比較的少なかったので、もっと投資をしてもいいのではないかと進言したくらいです」
―― 売上高に占めるR&D比率はどのように推移していますか。また、製造能力の増強はどの程度行っていますか。
川上「R&D比率は2023年度が6.5%、2024年度が7.5%で、中期経営計画の最終年度に当たる2027年度に9%まで持っていく計画です。
生産能力の増強について言うと、リガクは国内外に生産拠点を8つ所有していますが、2025年に主力の山梨工場に新しい製造棟を完成させたほか、大阪工場や、外部委託先である協力会社の工場の製造キャパシティを増強しています。全体で生産能力が2倍程度になっています。2年くらい前までは製造キャパが一番のネックでしたが、それはこの中計期間中に解消しました。製造キャパを2倍にしたと言うと驚く投資家もいますが、リガクの場合、高額な設備を使って装置を製造するわけではないので、過大な投資ではありません。
なお、サプライチェーンの中心は日本なので、海外の拠点は増強していません。今後、製造キャパの拡大を考えるときには日本の外になるかと思います」
エクイティストーリーづくりに苦心
―― リガクは2024年10月、東証プライム市場に上場しました。当初からIPOを念頭に置いていたとのことですが、カーライルの投資から3年半でエグジットした格好です。
富岡「通常はエグジットまで4、5年かかるので、3年半というのは早いほうだと思います。カーライルが投資した時のリガクの売上高は440億円程度でしたが、2024年度は900億円超と2倍以上の成長を遂げています。通常、経営陣との取り組みが中途半端なままエグジットすると良い結果は出ません。リガクはここまで順調に成長してきているので、我々の想定よりも早くエグジットのタイミングを迎えることができました」
―― 投資期間中に新型コロナ禍をはじめいろいろな外的要因がありましたが、期間中に成長が止まるようなことはありましたか。
川上「部材の調達は大変でしたが、成長が止まることはありませんでした。リガクのビジネスはボラタイルではないので、一貫して年25%くらいの成長を実現できています。R&D用の多目的分析機器が止まっていたときも半導体がずっと伸びていたので、会社としては伸びたままでした。逆にコロナ禍が収束した後、止まっていたサプライチェーンが動き出して高成長になりました。イノベーションに対する需要はどんどん大きくなっていて、半導体プロセス・コントロール機器のビジネス浸透度も上がっていました」
―― IPOの準備を進めていく上で何か課題はありましたか。
川上「リガクのビジネスはBtoBのニッチ領域なので、誰もがすぐに理解できるものではありません。IPOを目指す上でも『どのような投資家に、どのような説明をして、値段を形成していくのか』というところが一番大きな課題でした。ポイントは、テックの知見を持つグローバルな投資家にまず理解していただき、狭い世界の中で“バズらせる”ことです。今回はグローバル上場でしたし、そこはカーライルの豊富な経験やグローバルなネットワークがなければ難しかったかもしれません」
富岡「リガクのビジネスは専門性が非常に高く、玄人受けする会社、知る人ぞ知る会社です。一般の投資家に理解していただくのは難しいので、エクイティストーリーづくりには相当力を入れました。これほどの労力を費やした投資先は他にないくらいです」
IPOでグローバルの土俵に上がる
―― IPOの規模は2770億円(時価総額)に上ります。そのサイズは直近10年のIPOでトップ10に入るもので、民間PEファンドのIPOとしては過去最大です。市場からの評価に対してどのような感想を持ちましたか。
川上「2024年の夏頃から半導体のマーケットにボラティリティが出始めました。一本調子で上がっていたのが一度大きく落ちたので、ローンチを少しずらしました。2770億円という数字についてはボラティリティが出始めた割には非常に良い評価をいただいたという印象です」
富岡「IPOにとってはボラティリティが最大の敵です。ボラティリティが高いと投資家もその会社を適切に評価できません。その意味で2024年のマーケットは非常に難しく、針の穴に糸を通すようなギリギリのタイミングで上場を申請した形です。市場環境が厳しいなかでもリガクはIPOを実現し、オファリングサイズは1100億円になりました。PEファンドが保有している会社の中では当時は日本最大でした。厳しい市場環境で1100億円を集められたのは投資家からリガクを高く評価いただいたからだと思っています」
―― カーライルとして今回の投資を通じてどのような付加価値を生むことができたと考えていますか。
富岡「リガクのような優れたテクノロジーを有する日本企業がグローバルに活躍するための機会を創出し、当社としてその一端を担えたことを大変嬉しく思います。リガクを通じて日本の技術力の強化・発展が進めば、より社会貢献につながります」
川上「良い技術や製品を持っているにもかかわらず世界の目から漏れている、という日本企業はたくさんあります。今、国内市場は小さく、グローバルに出ていかなければ大きな発展は望めません。技術力のある会社を1社でも多くピックアップしてグローバル企業に育てていくカーライルの取り組みには価値があります。リガクが世界の土俵に乗れたのもIPOをしたからです」
―― 最後に、リガクの今後の展望を聞かせてください
川上「リガクのLab to Fab戦略が花開くのはこれからです。半導体の微細化・多層化、パッケージ化が加速する中で、3次元DRAMやCFETといった半導体の新しい技術を実現するには計測技術が不可欠です。X線がより大きな役割を果たすことに世界が気付き始めていて、1年前とは全く違う状況です。
リガクはここまで良い軌道で成長を遂げてきていますが、時代の潮流に乗れば2030年に向けて大きく飛躍できます。短期的には業績の下振れが多少あるかもしれませんが、5年くらいのスパンで見たときには必ず成長する会社です。それを現実化することが私の仕事だと考えています」
