2024年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「エグジット賞」 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2024年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「エグジット賞」

奥ジャパン
代表取締役

野田泰介氏

エンデバー・ユナイテッド
ディレクター

吉田道弘氏

 

案件概要

対象会社奥ジャパン株式会社
スポンサーエンデバー・ユナイテッド2号投資事業有限責任組合
買い手株式会社西武ホールディングス
案件発表(年月)2025年1月
事業概要外国人観光客向けアドベンチャーツアーの企画・販売・運営
業績推移2019年5月期売上高 約10億円、2025年5月期売上高 約20億円
主な価値創造ガバナンス体制の構築
経営指標の見える化、計数管理体制の強化
外部招聘の社長を中心とした経営体制の構築
DXによるオペレーション改善
デジタルマーケティングの強化
新規ツアーの開発・販売による事業拡大
雇用創出、地域貢献

日本の地域に根差した、外国人観光客向けアドベンチャーツアーの先駆者

―― 奥ジャパンの事業内容や特徴を教えてください。

野田「中山道や熊野古道など古くから日本の人々の暮らしや文化を支えてきた道を徒歩で楽しむアドベンチャーツアー(AT:アクティビティ体験、自然体験、異文化体験で構成される旅行スタイル)を、外国人観光客向けに企画・販売・運営しています。欧米と異なり、日本では観光名所をバスで巡るパッケージツアーが隆盛です。複数の地域をまたぐ形で1本の道をツアー化し、外国人観光客向けに提供する旅行会社は日本にはほとんどありません。コロナ禍が収束して以降、円安の影響もあって外国人観光客が急増していますが、ATに興味を持つ方々は先駆者である奥ジャパンを選んでくれています

―― 奥ジャパンの独自性はどこにありますか。

野田「奥ジャパンは魅力的な地域を紹介する観光協会的な機能を有する上、ツアーとして販売して収益を上げられます。従業員の約半数が外国人であるため、ITやSNSを活用したデジタルマーケティング(デジマ)で直接集客できる上、外国人観光客のニーズを的確に把握してツアー開発に活かすことができます。競合は存在するため唯一無二とは言いませんが、日本に拠点を置き、地域に根差しながら外国人観光客向けに事業を行っている点でユニークな存在といえます

―― 奥ジャパンの設立からエンデバー・ユナイテッド(エンデバー)参画までの経緯を教えて下さい。

吉田「創業者は日本在住経験のあるイギリス人です。日本という国に魅了され、海外の方々に日本の自然や文化を楽しんでもらいたいとの思いから、2005年にロンドンでビジネスを立ち上げました。奥ジャパンはもともと、その日本法人として設立された会社です。日本におけるAT領域は競合が少ないこともあり、事業は順調に成長しました。その過程で日本におけるオペレーションの重要性が増し、イギリスに住む創業者が経営にタッチできる範囲に限界が見えたことから事業承継のニーズが生じました。将来の成長加速に向けて様々な提案とディスカッションをさせていただき、最終的にエンデバーをパートナーとして迎えていただきました

 

 

 

経営基盤をつくったところでコロナ禍が発生

―― エンデバーは奥ジャパンのどこに魅力や可能性を感じたのでしょうか。

吉田「当時、日本政府は2030年までに訪日外国人観光客を6000万人にすることを目指しており、インバウンドマーケットは継続的な拡大が見込める市場でした。その中で奥ジャパンはATの先駆者として一定の認知を得ており、外国人観光客にとってストーリー性のある魅力的なツアーを提供していました。さらに、お客様自身の体験に重きを置くことから、欧米では一般的なセルフガイドツアー(ガイドを付けないツアー形態)を採り入れていました。限りあるガイドがボトルネックとならない分、スケーラビリティのあるビジネスモデルである点にもポテンシャルを感じました。

 2018年に事業承継の文脈で仲介会社からご紹介をいただきましたが、当時は数字の面でも人員の面でもまだまだ小さく、ベンチャーライクな会社でした。創業から10年以上経っていたものの経営基盤が確立しているとは言い難く、社内のシステムやマーケティングにも改善の余地がありました。逆にこれらの課題を解決することで魅力的な会社像と成長ポテンシャルの解放が見えてくると考え、2019年4月に投資を実行しました。エンデバーはそれまで旅行会社に投資をしたことがなく知見の深い業界とは言えませんでしたが、ファンドの役割が成長支援に向かう時代の流れもあり、この投資はエンデバーとしても1つのチャレンジと捉えられていたのではないかと思います

―― 投資後どのような施策を打ち出したのですか。

吉田「最初に手をつけたのは経営基盤とガバナンスの強化です。それまで曖昧だった決裁権限を明確化し、会議体や規定の整備を通じて意思決定のレベルアップを図りました。また、日々の受注や月次業績など経営指標の見える化や、連結決算の導入なども実行しました。それらの取り組みを終えたのが2019年後半であり、土台となる経営基盤をつくったところでコロナが来た、という流れです。2019年12月から予約のキャンセルが出始め、2020年には国境封鎖となりました

―― ちょうどそのころに野田さんを迎え入れます。

吉田「創業者の退任は既定路線だったため、次の経営者の招聘に関する議論は投資直後からありました。奥ジャパンの課題の1つにマーケティングがあったため、マーケティング分野の知見が深く、周りを巻き込むリーダーシップもある野田さんが適任と考えました。野田さんは別案件でエンデバーとつながりがあった方で、野田さんの招聘はその後の事業成長に結び付いたと考えており、重要な成果であったと捉えています」

野田「私は大手海運会社で海外駐在を10年ほど経験し、最終的には経営企画や財務などを担当していました。40代を前に戦略を描いて事業に落とし込む仕事がしたいと考え、後にミスミグループ本社の中興の祖となる三枝匡さんに影響を受けてミスミに転じました。そこで子会社の経営に携わったのが転機で、外資系コンサルティング会社を経て自らコンサルティング会社を創業しました。奥ジャパンには最初はコンサルとして関与し、マーケティングなどを見ているうちに社長就任の打診をいただきました

コロナ後の再成長に向け、インフラ・体制づくりに注力

―― 当時の奥ジャパンにはいくつか課題があったとのことですが、具体的にお話をいただけますか。またそれに対してどういう手を打ったのでしょうか。

野田「解消すべき点は大きく3つありました。まず1つ目としてデジタル化が全くできていませんでした。業務オペレーションはエクセルベースで、汎用性がありませんでした。業務を円滑に回すためにDXを進めてオペレーションを汎用化する必要があったため、IT開発会社に依頼し、業務の入口から出口まで一気通貫のシステムをゼロから開発してもらいました。奥ジャパンはコロナ明けにグンと伸びますが、このシステムの寄与が大きかったと思います。

 2つ目は組織面の問題です。当時は創業者を含む中枢メンバーが従業員に直接指示を出す形で、中枢メンバーが1人でも休むと日々の業務が停滞する状況でした。そこで、営業部、マーケティングチーム、オペレーションチーム、デジタルチームといった具合に機能別組織をつくり、組織のマネージャーたちが自律的、有機的に動ける体制を整えました。


 3つ目はマーケティングです。奥ジャパンは当時、口コミとSEOの領域から抜け切れていませんでした。しっかり広告を打たないと大きな勝負をするときにリーチが利かないため、マーケティングの体制を整える必要がありました。そこで、コロナ下で日本人向け事業を立ち上げ、デジマを仕掛けました。まだ外部環境が厳しく売上は数年間で数千万円程度にしかなりませんでしたが、マーケティングの体制整備とノウハウ蓄積に寄与しました。


 もともとビジネスモデルは秀逸だと思っていましたし、国境規制の解除など外部環境が好転すれば再成長できると確信していたため、コロナ明けにスケーラビリティを爆発させられるようインフラ・体制づくりに注力しました

―― 2022年10月に水際対策が緩和されるまでの間、エンデバーは取引金融機関との交渉などに奔走したと聞いています。具体的にどのような支援をしたのでしょうか。

吉田「約10億円あった売上がコロナ禍でほぼゼロになり、資金繰りの問題に直面していました。奥ジャパンは財務の体制がまだ弱かったため、資金繰り対策には私がCFOのような役割で深く関与しました。様々なケースを月繰り日繰りでシミュレーションし、資金がいつまでもつのかを把握しながら、それを最長化させる方策を考え続けました。私自身も銀行に幾度も足を運び、借入金のリスケジュールをお願いさせていただきました。また、コロナ対策融資も始まっていたため、各種資金の調達に奔走しました。さらに、日本人向け事業のマーケティングコストについての支援も行っています

野田「DX、組織化、マーケティングの強化といったフロント面の整備を進められたのは、エンデバーのサポートがあったからです。エンデバーは奥ジャパンの未来や可能性を信じ、全面的に支援をしてくれました。経営と株主の関係としては理想的でした」

成長ストーリーの実証を経てエグジットを検討

―― 数々の取り組みは、コロナ禍が収束に向かう中でどのように花開いたのでしょうか。

吉田「我々が投資したときの売上は約10億円、EBITDAは約2億円でしたが、いずれもエグジット時には約2倍に成長しました

野田「コロナ禍の間にインフラはすでに整えていたため、インバウンドの回復に合わせて新規ツアーを増やし、デジマの予算もフルスロットルで踏みました。システムもオプティマイズを進めて汎用化していたため、人をそこまで雇わなくても大きな成長ができるようになりました

吉田「新規ツアーを開発できたことが大きかったと思います。コロナ前は売り上げのほぼすべてが中山道と熊野古道から生まれていました。その地域の『宿のキャパシティ』が売上の上限になっている状況でしたが、2023年末頃に発売したみちのくツアーが一定程度の売上規模となりました。これは三陸のリアス海岸を北から南へ下るツアーですが、新しい地域において有力なツアーを開発できたことは奥ジャパンの次の成長を示すもので、数字以上に重要でした

―― 最終的には2024年12月に西武ホールディングス(HD)に譲渡することになります。エグジットについてはいつから話し合いを始めたのですか。

吉田「コロナが明け、2024年5月期の通期決算が出るタイミングで、我々から一度ご相談をさせていただきました。その時点で一定の業績回復が確認できていた上、受注状況から2025年5月期の半期分の売り上げも見えており、当期の売上は過去と比較して2倍程度になると予測できました。『新規ツアーの開発・販売による事業拡大』という成長ストーリーの実証ができた事も踏まえ、エグジットを検討するタイミングだと判断しました

野田「お話をいただいた時は、オーガニックに成長できる道筋が見えていたため、ファンド傘下のフェーズから事業会社傘下のフェーズに移る良いタイミングだと思いました。特に異論もサプライズもなく、そこから二人三脚のような形でエグジットへの準備を進めました

―― どのような経緯で西武HDへの譲渡が決まったのですか。また、西武HDは奥ジャパンのどの部分を評価したと思われますか。

吉田「野田さんには『どのような会社が奥ジャパンのビジネスを評価してくれるか読み切れない部分もあるため、広く募りましょう』というお話をさせていただきました。その方針の下、業種はあまり絞らず、買い手になり得る候補先を幅広く探索しました。その中で様々な会社からニーズをいただき、その筆頭が西武HDでした

野田「地域を最大限リスペクトする奥ジャパンの事業は“絶対善”です。ツアーでは地域資本の旅館などを活用し、ふれあいや体験の要素を大切にします。近年はオーバーツーリズムの問題が指摘されますが、我々は地域の環境やコミュニティの保護を重視しています。例えば、中山道妻籠宿には『売らない・貸さない・壊さない』という町並みを保全するための三原則がありますが、それを守るNPOなどとも非常に良好な関係を築いています。そうした姿勢が西武HDに『正しいことをする会社』と映ったのかもしれません。ホテル・レジャー事業や都市交通・沿線事業を通じて地域の方々に幸せになっていただくという彼らの価値観と共鳴したのだと思っています

吉田「実は野田さんは、買い手候補先の担当者の方々を中山道や熊野古道のミニツアーにお連れしています。リアルな事業内容を知っていただくことは大切ですし、ミニツアーの中で中山道妻籠支店や熊野古道支店にも立ち寄り、従業員の方々がどのような地域貢献をしているのかも見ていただいています。奥ジャパンという会社の姿勢や価値を買い手に知ってもらえる良いプロセスだったと思います」

地域経済とウイン・ウインの関係を醸成

―― 奥ジャパンはどのような形で地域の方々との信頼関係を築いているのですか。

野田「中山道妻籠支店を開設する際には、それに先駆けて従業員が地域のお祭りに参加したり、草刈りを一緒にしたりしました。属人的ですが、信頼関係をつくってから支店を開設します。熊野古道でも同じようなアプローチをしています。次の段階では、地域に根付く継続的な活動をします。例えばその1つが英語塾です。世界遺産登録後、中山道や熊野古道に外国人観光客が急増し、土産物店や宿から彼らとどうコミュニケーションを取ればいいのかわからないとの声が届きました。そこで妻籠と近露にネイティブの英語講師として従業員を派遣し、英語教室の形で地域の方々と触れ合ってもらったり、ツアーのお客様と接点を持ってもらったりしています。これは我々にしかできない取り組みで、地域の方々からも感謝の言葉をいただいています

―― エンデバーは投資を通じてどのような価値を創出できたと考えていますか。

吉田「レジリエンス(回復力)とグロースという2つの要素が詰まった案件でした。投資直後から経営基盤を整備し財務面を中心にサポートをしたことによって、コロナの厳しい環境に耐えつつも再成長に向けた体制を維持することができました。これは大きな価値だったと思います。グロースという点では、野田さんを中心とした経営体制を構築できたこと、その上でコロナ後に向けた成長戦略のディスカッションを重ね、DXやマーケティング、新規ツアーの開発という施策を実行に移すことで事業ポテンシャルを開花できたことが大きな成果です。
 現在、従業員数は約2倍になっており、雇用創出にも貢献しています。また、新しいツアーをつくったことで、その地域への経済貢献もできました。みちのくは当時、観光客が少ない状況でしたが、奥ジャパンを経由してハイレベルな外国人観光客が訪れるようになりました。雇用創出と地域貢献も、本件の投資を通じた価値創造と捉えています」

―― 奥ジャパンの今後の成長戦略を聞かせてください。

野田「訪日外国人観光客は2025年に4000万人を超え、2026年には5000万人に届く可能性があると言われています。観光立国の実現が近づいてきていますが、日本にはインバウンドツーリズムの恩恵が届いていない地域がまだまだあります。
 東京、大阪、京都などの都市部や観光地が注目されがちですが、我々は『Off the beaten track Japan』、つまり人里離れた日本の奥へお客様をお連れし、地域の方々と経済を回しながらウイン・ウインの関係をつくっていきます。その世界を我々が真っ先につくるというのが事業の根幹で、そのために今プロダクトを拡充しています。今後は東北、山陰、北陸といった地域に新規ツアーを積極的につくっていく方針です」

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