第23回『PEファンドによるIPO EXIT』 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第23回『PEファンドによるIPO EXIT』

大和証券株式会社
執行役員(事業法人担当 兼 企業公開担当) 和泉 憲治

はじめに

私がスポンサーカバレッジに就任したのは2016年10月、新設されたフィナンシャル・スポンサー部長としてのスタートでした。あれから約7年が経過し、PEファンド業界は日本の産業の中で数少ない成長産業として大きく進展しています。一番の大きな変化は、社会的な認知度や知名度の飛躍的な向上です。今では、企業の方々だけでなく個人レベルでも「PEファンド」という言葉を様々な場所で発しており、耳にするようになりました。
私は、PEファンドのカバレッジをする前はセクターカバレッジをしており、2013年頃から一部のPEファンドへ出入りしていました。当時はセクターカバレッジで出入りしている人がそれほど多くはなかったこともあり、重宝されていたことを懐かしく思います。そして、あの時にカーブアウトを中心とした議論ができ、一緒になって案件創りをしていたことは、私のインベストメントバンカーとしての礎を築いてくれたと思っています。一方で「もう少し若い時にPEファンドと案件創りに勤しんでいればおそらくもっと違うインベストメントバンカーになっていたのでは」と思います。今、各証券会社のセクターカバレッジやファンドカバレッジの方々が皆様と案件発掘に向けて様々な議論を日々重ねている光景は羨ましい限りです。
そして、何よりも事業会社への面談数や提案数が飛躍的に伸びているのではないでしょうか。一昔前に、事業会社のマネジメントと初めて面談をする際は、「常に新調したYシャツで行った」という話がネタに思えてきます。今、Yシャツを新調していたら年間の購入費はいくらになるのでしょうか。

日本のPE市場

最近、SWFやファミリーオフィス、そして海外の年金基金が来日した際に、日本のPE市場に対して非常に関心が高いため、我々証券会社のスポンサーカバレッジとの議論の申し出が増えています。彼らは、北米・欧州・その他というセグメントで投資対象を考えていますが、その他において今まで中心だった中国への投資が難しくなってきています。一方、日本は先進国であり、ビジネスはクリーンで、金利も低く、日銀への信用も高く、足元では円安ということで、安心して投資できる先として更にクローズアップされています。
さらに、投資機会としては、M&A案件におけるPEファンドのシェアが低くまだ伸びそうであること、PEファンドの認知度が高まっていること、アクティビストの活動が活発であること、東証の市場再編やPBR1倍未満への対処など、日本のPE市場の成長を牽引する要素が多く存在していることが認識されています。彼らの目には、日本のPE市場はLP投資や共同投資を通じて投資額を増やせる魅力的な市場に映っています。

日本のPE市場は順調に成長していますが、危惧すべき点があります。それは、今回の寄稿文のお題である「PEファンドとIPO」に関することであり、ファンドIPOのパフォーマンスです。

ファンドIPOのパフォーマンス

当社のフィナンシャル・スポンサー部が創設された2016年10月以降、ファンドIPOは41件ありました。そのうちマイノリティ投資上場の7件を除くと、分母が34件になります。IPO価格に対して初値割れが23件(68%)あり、上場日の終値割れが21件(62%)でした。マイノリティ投資を含めた場合は、初値割れが25件(61%)、終値割れが23件(56%)でした。株価を上場日という「点」で評価すべきではないと理解しつつも、高い確率で下がる可能性があるならば、別に上場日以降に買えば良いという理屈も投資家側に生まれます。また、現在19件(56%)がIPO価格を割れ、5件(15%)が上場後にIPO価格を一度も超えたことのない状態であり、企業価値を高めるPEファンドのIPOとしては残念な数字になっています。
トレードセールは、しっかりとした情報開示を行い、買い手に十分な検討時間を持たせ、最終的には一人の買い手の声で価値が決定できるので、皆様にとって正当と思える評価を得やすいと言えます。一方、IPOは情報開示の制約から将来業績への信頼を得づらいことや、限られた時間で様々な考えの投資家の意見を集約して株価を決めるため、トレードセールと比較して相対的に皆様が考えている正当な評価を得づらいと思います。ただ上場後のパフォーマンスの結果を見ると、資本市場が許容している以上のIPO価格で上場しているとも言えます。
成長する会社であれば、IPO後には情報の非対称性も徐々に解消され、会社が正当に評価され、株価が右肩上がりに推移することがファンドIPOにとって理想の株価形成だと言えます。IPO価格とIPO後の株価の差分が結果的にIPOディスカウントになることが理想です。その意味で、IPO時はできるだけ少数の売出し株で上場するという考えもありますが、オーバーハング懸念や東証の流通株式比率に関する形式要件から上場時に大株主が売却せざるを得ない仕組み等、難しい点は多々あります。
また、PEファンドの存在意義が大きくなることにより、アクティビティに対する分析も施されています。非公開化から再上場について、ROAは上昇しておらず、総合的な経営効率の改善はあまり見られず、ROEは上昇傾向なもののレバレッジ要素が大きく、収益性や効率性の改善が乏しいという分析意見がでたりしています。PEファンドの社会的必要性が高まれば、様々な分析がなされていくのは必然です。
いずれにしても、「ファンドIPOは儲からない」というレピュテーションを資本市場に根付かせるとエグジット戦略に支障が出ます。何よりも、社会が抱くPEファンドへの期待や信用を損ねる足かせにならないよう、そしてIPOによるエグジットはPEファンドにとって意義ある手法の一つとして、我々証券会社サイドもファンドIPOをしっかりサポートして参ります。

PEファンドへの期待

PEファンドの社会的認知度の上昇は、企業変革を通じた社会への貢献が期待され、持続可能な社会を創る一役を担っている証左だと思います。
皆様方が投資された会社や従業員の多くは皆様と一緒になって自らの企業を変革し企業価値を高めた結果、日本経済の課題の一つである所得増に対してソリューションを提供しています。
また、投資先にとっても皆様のエグジットは「中間」ゴールでありますが、IPOであれトレードセールであれ、投資前では到底享受できないレベルの果実を得ており、エクジットパーティーで投資先企業の方々の達成観のある充実した顔を何回も見て参りました。
しかし、持続可能な社会を創ることへのPEファンドに期待する貢献はエグジットという「点」で終わる話ではなく、企業が継続的に成長していくことを期待されています。IPOの場合は資本市場を通じて日々評価が明らかになっており、モニタリングされています。
当然、皆様がフルエグジットした際に経営への関与はなく、企業経営への責任はありませんが、上場後1,2年で業績が低迷したり、上場後の株価形成が低調したりするのであれば、厳しい目を向けられます。PEファンドが社会の公器となるにあたっての宿命といえます。
今後、さらにPE業界が発展していく上で、PEファンドが世の中の期待に応えるリトマス試験紙として、IPOのパフォーマンスは重要な評価軸となると思います。
我々も皆様の投資先が上場後に成長を継続し、株価形成が右肩上がりとなり、資本市場そして社会全体から高い評価を得られるIPOになるように皆様方と一緒になって頑張って参ります。

著者プロフィール 和泉 憲治(いずみけんじ)

大和証券株式会社 執行役員(事業法人担当 兼 企業公開担当)
2016年10月同社フィナンシャル・スポンサー部長就任、新規投資からEXITに至るまで数多くのPEファンド案件を主導、2023年4月より現職。

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