第18回『 独立・公正な企業評価の重要性―プライベートエクイティ案件の裾野拡大も視野に―』 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
Site Overlay

第18回『 独立・公正な企業評価の重要性
―プライベートエクイティ案件の裾野拡大も視野に―』

光定 洋介(みつさだ ようすけ)
産業能率大学 経営学部 教授
あすかコーポレイトアドバイザリー株式会社 取締役・ファウンディング・パートナー
あいざわアセットマネジメント
証券アナリストジャーナル 編集委員会 小委員長 等

1) 利益相反取引の事例

 利益相反のある取引の中でも、利害対立のある当事者同士における多額の資産の売買は最もその影響が大きいものとなろう。例えば、REITがそのスポンサー企業から資産を買い入れるケース、親子上場企業において親会社が子会社株式を100%取得するケース、MBOにおいてバイアウトファンドと経営陣が、当該経営陣が経営する上場企業を100%子会社にするケースなどがあり得る。いずれのケースでも公正な価格から逸脱した価格で取引することによって、少数(マイノリティ)株主が損失を被ることになる。そこで重要になってくるのが、双方の当事者が相手の影響を受けずに資産評価を行う独立した評価機関である。評価機関は、情報劣位で弱い立場に陥り易い少数株主の立場にも立って公正な評価を行う必要がある。
 こうした中で、中部電力系のJ-REITであるエスコンジャパンリート投資法人の運用を担う「エスコンアセットマネジメント」が不動産鑑定会社に不適切な働きかけを行い、親会社(日本エスコン。日本エスコンは中部電力の子会社である。)からの物件取得にあたり、不当に高い評価書を書かせるように誘導し評価書を入手していた。具体的には、不動産鑑定業者から提示された鑑定評価の概算額が、親会社が希望する売却希望価格に満たない場合に、親会社の売却希望価格を伝達するなどして、鑑定評価額が当該売却希望価格を上回るものとなるように依頼していたという。また、親会社から物件を取得する場合、複数の不動産鑑定会社に評価額の概算をヒアリングした上で、最も高い評価額を提示した不動産鑑定会社の不動産鑑定手数料が最も廉価になるようにして、当該不動産鑑定会社を選定していたという。最も安い鑑定評価手数料を提示した鑑定会社を選定したことで、不正の隠蔽を図ったものと考えられる。取締役会では、当該不動産鑑定会社の評価額が最も高かったということを伏せた上で、手数料が安いことを理由として取締役会での決議をとっていたという¹。これは、エスコンジャパンリート投資法人の少数株主が高い価格で物件を取得させられていることになり、親会社が利得を得て少数株主に損害を与えている。評価や鑑定を行う会社は公正・中立でなければならず、また、その評価会社を選定するプロセスも少数株主の利益を最大限に考慮することが必要である

¹当該不正は証券取引等監視委員会によるエスコンアセットマネジメントへの検査で発覚し、2022年6月22日に金融庁に行政処分するように勧告。

2) バイアウトでの利益相反の可能性と「公正なM&Aの在り方に関する指針」

 同じような利益相反の可能性は、M&Aやバイアウトにおいても起こり得る。例えば、親会社がその上場子会社を100%子会社化する場合や、MBOにおいて経営陣自らが、その企業の買い手となる場合などは明白であろう。また、経営陣が自らの利益を優先して経営陣に対して²有利な条件を提示した買収者に対して株式譲渡を行う場合などが考えられうる。こうした場合に、少数株主にはM&Aやバイアウトまでの経緯は知らされず、結果のみが知らされ、少数株主はTOBに応じるか、裁判に持ち込んで適正な評価額で自らの株式を買い取ってもらうしかなかった。このような利益相反問題が生じやすいMBOや親子上場による100%子会社化などにおいて、公正にM&Aが行われるように、2019年に経済産業省は、「公正なM&Aの在り方に関する指針」(以下、本指針) を出している。本指針が出たお陰で、これまで述べたような利益相反問題は一定程度解消されたと言えるだろう。本指針では、M&Aの公正性を担保するために主として以下の6点の実施を求めている。①経営陣から独立した特別委員会の設置、②外部専門家の独立した専門的な助言等の取得、③他の買収者による買収提案の機会の確保(マーケット・チェック)である。③のマーケット・チェックとは、一旦、会社を売却すると決めた以上、可能性のある他の買収者にも買収提案を行う機会を与えるようにするものである。マーケット・チェックには積極的なものと、間接的なものがありえるが、積極的なマーケット・チェックとしては、オークションの開催や複数の買手候補への打診、また、案件公表後に対象会社が積極的に対抗提案を勧誘するゴーショップと呼ばれるものがある。間接的なマーケット・チェックとしては、公表後に対抗提案が可能な期間を比較的長期間確保すること、対抗提案者が実際に出現した場合に当該対抗提案者が対象会社と接触等を行うことを過度に制限するような内容の合意等を行わないこと、といったことがある。次に、④マジョリティ・オブ・マイノリティ(MOM)の条件の設定である。これは、親子上場などで例えば51%保有する親会社が子会社株式の49%の株式を一般のマイノリティ株主から取得する場合、マイノリティ(=49%)の過半数(=24.5%)を超える応募が無ければ、マイノリティ株主が同意している買収価格ではない(=買収価格が低すぎる)と判断する基準である。さらに、⑤一般株主への情報提供の充実とプロセスの透明性の向上、⑥強圧性の排除である。強圧性とは「公開買付が成功した場合に、公開買付けに応募しなかった株主が応募した場合よりも不利に扱う」という圧力をかけることである。
本指針で③他の買収者による買収提案の機会の確保が導入されているので、バイアウトファンドにも一旦公表された案件でも後から買収できるチャンスが出てきたとも考えられる。また、本指針後に公表された案件では、少数株主に配慮して株価の引き上げ交渉を何回程度行ったかを開示したり、MOMに基づいて最低のM&A成立要件を設定したりする案件なども出てきているので、少数株主や公正な資本市場にとって良い傾向であろう。MOMの問題点を挙げるとすると、パッシブの機関投資家がTOBへの応募ができないといわれている点がある。日銀のETF買いやグローバルでのパッシブ化の流れが進み、今や株式市場のパッシブ化比率は数十%と相当高くなっていると思われる³シブ運用者はそのTOBへの判断は下さずにその銘柄を持ち続けることになる。もし、上限の定めの無いTOB(100%取得を買収者は目指している)があった場合には、その時点で指数の算出から除外されるように指数の算出方法が変更されると、パッシブ運用者はTOB発表と同時に株式を売却するだろう。そうすると、TOBに対する様々な思惑を持ったプライベートエクイティファンドやアクティブ投資家などが⁴そのTOB価格の正当性を巡って当該株式を売買し、株式市場の価格発見機能を発揮できるようになるので、こうした制度変更を期待したい ⁴。

²般株主に対して有利な条件を提示してきた買収者に対して株式を譲渡すべきである。
³日本経済新聞「「タダ乗り投資」市場蝕む パッシブ化の弊害強く」2021年7月18日
⁴万一、TOBが不成立になった場合には、その時点(または、次回の指数銘柄の更新時)でまた指数採用銘柄とするなどの手段をとった方が、トランザクションコストが増加するというデメリットはあるが、市場の価格形成機能を十分発揮され、少数株主が保護されるメリットの方が高いと考える。

3) 事例紹介(伊藤忠によるファミリーマート買収)

 この観点から、ファミリーマートの親会社の伊藤忠が行ったTOBに対するプレスリリースは興味深い。概略を紹介すると、2020年7月、伊藤忠商事(公開買付者)は、伊藤忠が50.1%保有するファミリーマートの株式を1株あたり2,300円でTOBを行うことを発表した。TOBの成立要因として本指針の④マジョリティ・オブ・マイノリティ(MOM)の条件について、ファミリーマートを保有する株主の約30%がパッシブ運用(インデックス運用)でパッシブ運用はTOBへの応募ができないため、実質的な応募可能な部分(100%―伊藤忠保有分50.1%―パッシブ運用部分30%)である約20%の過半数をTOB成立の要件として9.9%以上の株式の応募があることをMOMの条件とした。ところが、ファミリーマート(同社)経営陣が設置した特別委員会による算定してもらった同社株式の評価価格は、2,472円から3,040円で、伊藤忠によるTOB価格(2,300円)を上回るものであった。同社経営陣は伊藤忠のTOB価格が下限を下回っていたことなどから、TOBには賛同しつつ、株主への応募推奨はしないという異例の声明を発表した。最終的に、約15%の株主からの応募がありTOBは成立し、ファミリーマートは非公開化されることになった。本件は、MOMの設定条件の考え方、及び、TOB価格が会社の独自に算定された評価額を下回っていたという点が特徴的だ。一方で、TOBと同時に指数から除外されパッシブ保有者がいなかった場合に、果たして、会社が評価した株価よりも低い価格でのTOBに対して少数株主の過半数の支持を得られたかどうかと考えると興味深い案件である。

4) 事例紹介(島忠に対するDCMとニトリのTOB)

 別案件であるが、島忠を巡るDCMとニトリによる争奪戦も、本指針前であれば、後から買収を仕掛けたニトリは敵対的な買収者という烙印を押されそうなものだが、本指針があったお陰でそういう烙印を押されず友好的買収となった。案件の概要は以下のようなものだ。2020年10月7日にホームセンター業界No2のDCM社が、ホームセンター業界第7位の島忠に対してTOBを行うと公表した。DCM社が提示した1株あたりの買収価格は4,200円であった。島忠の経営陣はDCMの買収提案に賛同を表明して、本件TOBは友好的なTOBとして成立するものと思われた。しかし、その約3週間後、2020年10月29日に家具業界の大手のニトリが、島忠に対して1株あたり5,500円でTOBを実施すると発表した。当初、島忠経営陣がニトリの提案に反対をして敵対的なTOBに発展するかとも思われたが、島忠の第三者委員会が、株主にとって有利なニトリの提案を支持、その結果、島忠の経営陣はDCMのTOBへの賛同表明を撤回して、ニトリの提案に賛同表明し、ニトリによる友好的な買収案件となった。これは、本指針の①独立委員会が機能した事例ではないかと思われる。また、本案件では、ニトリの買収資金をメガバンクが拠出すると表明していたことは大きな変化である。なぜなら、メガバンクは敵対的な買収の場合には資金を拠出しないことが多いからだ。本指針のあったお陰で、メガバンクは最終的にこのTOBが友好的な提案となることを予想していたのかもしれない。このように本指針は、バイアウトファンドにとって案件の幅を広げる可能性をも想起させる。すなわち、極端に廉価なTOBが行われた場合、大幅に引き上げた価格でTOBを行い、第三者委員会の判断に委ねて友好的な買収に変化させる可能性を持っているということである。

5) まとめ:PEの案件増加の可能性と健全な資本市場の発展に向けて

 いずれにしても、公正な価格で資産や経営権の移転を伴う株式売買がなされることが、少数株主の権利が保証された健全な資本市場の発展にとって不可欠だと考えている。そのためにも、独立した評価会社の存在と、利害対立を生じている当事者がそうした評価会社を公正に活用することを期待したい。また、プライベートエクイティファンドも、本源的な企業価値や自ファンドがより高いシナジー効果を発揮できるような割安なTOBに対しては、価格だけでなく事業プランについてもより良い条件での買収提案を行って資本市場の活性化にアンダーライン寄与することを期待している。こうした提案に対しては、島忠のケースで見られたように第三者委員会も支持して友好的な買収となり、企業価値の向上後にはファンド業界への評価も更に高まるであろう。

以上

著者プロフィール 
光定 洋介(みつさだ ようすけ)
産業能率大学 経営学部 教授
あすかコーポレイトアドバイザリー株式会社 取締役・ファウンディング・パートナー
あいざわアセットマネジメント
証券アナリストジャーナル 編集委員会 小委員長 等

光定 洋介(みつさだ ようすけ)
産業能率大学 経営学部 教授
あすかコーポレイトアドバイザリー株式会社 取締役・ファウンディング・パートナー
あいざわアセットマネジメント
証券アナリストジャーナル 編集委員会 小委員長 等
 早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院ファイナンス研究科(MBA)を首席修了後、東京工業大学にて博士号取得。CFA協会認定証券アナリスト。30年以上の投資経験があり、大手都長信銀、外資系運用会社を経て、ユニゾン・キャピタルで1999年から2005年に勤務。その後、2005年に上場株式にPE運用手法を組み合わせたエンゲージメントファンドを創業メンバーとして立ち上げ、ファンド運用責任者に就任した。同ファンドは、「ユーリカヘッジ」により2011年に「ベストアジアンイベントドリブンファンド」を受賞、また、2015年「AsiaHedge」 に最終ノミネート、2016年には「ユーリカヘッジ」 最終ノミネートされた。あすかアセットマネジメント(現あいざわアセットマネジメント)とあすかコーポレイトアドバイザリーにてファンドマネジメントや企業価値向上支援に従事。
出前館の独立社外取締役(2017年まで)、アマゾンの倉庫運営などを行うファイズホールディングスの独立社外取締役、TOMOWELの共同印刷の独立社外取締役。
講演では、『一橋大学政策フォーラム「持続可能な戦略実行力と情報開示力」COEプログラム「日本企業のイノベーション」』、IR協議会後援・インベスターインパクト主催のセミナー「企業経営のためのコーポレート・ガバナンス強化とROE向上~グローバル投資家から見る優れた経営、ガバナンスとは~ 」、金融財政事情研究会「第1回グローバルマネーフローセミナー 世界の最新投資ファンド動向と今後の投資戦略」、内閣府経済社会総合研究所「M&A研究会」などで講演多数。
著書、論文も執筆多数。代表的著書には「完全版 投資ファンドのすべて(共著、金融財政事情研究会 2014)」、「【新版】ファンドマネジメントのすべて(共著 東京書籍 2022)」、「銀行のグループ経営(共著、金融財政事情研究会 2016)」、論文には「株主構成と超過収益率の検証‐市場志向的ガバナンスのわが国における有効性‐(2008年度証券アナリストジャーナル賞受賞)」などがある。

PAGE TOP