ベーシック・キャピタル 代表取締役社長 金田欧奈氏 |
株式会社WorkVision 代表取締役社長 大和田昭彦氏 |
ベーシック・キャピタル ヴァイスプレジデント 宮田知明氏 |
案件概要
対象会社 | 株式会社WorkVision |
スポンサー | ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社 |
売り手 | 東芝デジタルソリューションズ株式会社 |
案件発表 | 2018年7月 |
資本移動先 | 2021年10月 芙蓉総合リース株式会社 |
事業概要 | 中小企業向けソフトウェアの設計・開発、販売、運用・保守サポート |
業績概要 |
2018年3月期:売上高14,790百万円、営業利益666百万円 2021年3月期:売上高12,407百万円、営業利益476百万円 |
主な価値創造 |
・現場の中堅・若手社員を巻き込んだ複数プロジェクト立上げ ・細かい現場での施策積み上げによる風土改革 ・成果主義をベースとした新雇用体系の導入(年功序列体系からの一新) ・新卒採用の大幅拡大 ・自社クラウド製品開発への戦略投資 ・ファンドによるクラウド開発資金の増資引受け |
ー ファンドとしての本件についての投資テーマを教えてください。
宮田:東芝の子会社だったWorkVisionが独立して成長できるようにすることがテーマでした。そのためには自由度を上げて従業員の動きを活性化させるための施策を打ち、その上でビジネスとしても大きく方向転換する必要があると感じていました。具体的にはオンプレミスのビジネスからパッケージソフト主体に、さらにはクラウドビジネスに方向転換していくことです。5年に1回のリプレースで契約をとれなかったら儲からないという狩猟型のビジネスではなく、ストック型のクラウドのビジネスに転換していくことを念頭に置いていました。
まずは社員のやる気を引き出して動きを活性化させるため、人事制度の改革から始めました。いわば年功序列の流動化です。そこには3つの意味があります。1つ目は若手の抜擢。2つ目はシニアの活用。実力はあっても、55歳の役職定年で自動的に給与が落ちてやる気も落ちてしまう方をより会社に貢献できるよう処遇を直しました。3つ目が外部採用。これも「この年齢なのでこれくらいの年収でこの役職ですね」という型通りのやり方だと良い人材の採用は難しい。柔軟な制度設計にして、これから進めていくクラウドの取り組みにも必要な人材をうまく採用できるようにベーシック主導で提案をして、実際に1年ほどかけて導入していただきました。
資本が変わり文化を変える
大和田:東芝は歴史のある大きなグループですから、本当の意味で年功序列的なところが残っていて、若手を早く引き上げることがしづらい制度になっていました。制度というよりむしろ文化と言うべきかもしれません。
宮田:根底にある文化や考え方をどう「解きほぐしていくか」が1丁目1番地でしたね。資本が変わるタイミングを上手く利用して、社員の方に「会社も変わっていくべきだ」という意識を広めていきました。
大和田:社員の意識改革をしていかないとダメだとは私も考えていました。資本が変わる話を聞いたときに「東芝に入ったはずなのに」という意味でショックを受けた人間もかなりいたと思います。東芝からの出向者は全社員500人中20人くらいですから実際にはほとんどプロパーなんですが、やっぱり長い間グループにいたので「東芝」なんですよね。歴史のある大きな傘に安心感を抱いている。東芝がバックだったら守ってくれるはずという意識は従業員にもあったと思います。大きい組織の中で昔からの事業を長く続けているとそれが当たり前の意識になってきます。そうした風土を変えるために、ベーシックさんからの提案もあり、社内の制度や営業のやり方などについて、自分たちでものを考え、決めて、実行に移すことができるよう、若手を中心にいくつかのプロジェクトを立ち上げました。
宮田:投資をしたのは18年の7月ですが、当初は、幹部というよりも次の世代を担っていく中堅や若手の層を引っ張り上げることを目的にしました。まず、改革意識の高い層から7人を指名して、自社の事業と組織に関するそもそもの課題は何かを3ヶ月かけて議論してもらいました。そこで6つの課題を洗い出し、課題ごとのプロジェクトを立ち上げて、3ヶ月かけてそれぞれのプロジェクトの結果を持ち寄ることにしました。各プロジェクトのメンバーは社内で公募し、各々8人前後、総勢50人くらいを巻き込んで進めました。ここまでが最初の6ヶ月です。
大和田:若手が中心に議論してくれたものですから、もちろん全てが実行可能なものとは限らないわけですが、最初の段階から、小さいことでもいいので、提案されたものはできるだけ会社として取り上げて実現していくように努めました。
宮田:3ヶ月って長いようで短いんですね。通常の勤務の後に皆さん取り組んでくれていたので、まだうまくまとまっていないものもありましたが、このまま続けていくと面白そうなものについては「ワークショップ」という呼び名をつけて組織化し、引き続き出てきた課題を中心として、解決策を練ってもらいました。また、本格的にリソースを張って取り組むべく、部署の新設に発展させたものもあります。
プロジェクトメンバーは、滑り出しから動きがとてもよかったですね。思った以上に「乗ってきた」という印象でした。公募だからというのもありますが、みんな意欲も高く、自分の強い思いを持っていて、どんどん前向きに議論してくれました。その輪を広げることを大事にしてプロジェクトを進めました。
金田:いろいろなケースを見てきましたが、変化を起こすとき、人の行動は3種類に分けられる。改革に乗ってくる人、全然乗ってこない人、そして乗っているフリをしながら様子を見ている人です。やっているフリのうまい人とだけ仕事していると、上手くいっていそうで、全然前に進まない(笑)。変化を起こそうとしてくれている人たちと話を進めながら、様子見の方々を巻き込むこと、そのためには我々の真剣度を伝えることが肝要で、具体的にはPDCAを高回転で回すこと、これはやり切らないと終わらないのだなと分かってもらう(笑)。最初は違和感を覚える人も多いのですが、習慣化すると意外と皆快適に取り組んでくれるもので、そうなるとより高回転で事が進みます。オンプレミスからクラウド化の流れが進む中で、足元の収益は出ていても、この流れに乗り切れないと会社の将来はない。なんとしてもいまこのタイミングで変えなくてはいけない。こちらの切迫感が伝わっていたら良かったですが、どうだったでしょうか?
大和田:例えばですが、クラウドの事業を伸長させるのは非常に難しいところがあります。営業担当者にしてみればオンプレミスで売ればイニシャルの売上で利益が出ますが、クラウドにシフトすると売上が毎月に分散されるので、なかなかシフトが加速しない課題がありました。そういう中でベーシックさんからの増資を頂いて、既存のパッケージのSaaS化に重点投資して、お客様だけでなく売る側のクラウド化によるメリットを現場の営業に理解してもらうことを進める必要がありました。5年、10年の時間軸で見たときには絶対にやっておかなきゃいけないことですから、いまやっておいてよかったなと思います。
宮田:投資先行というのは、ファンドとしては勇気のいるテーマです。極論したらファンドとして投資している間に収益が上がらなくても、その先の時点で誰かが評価してくれる事業体にすることが大切です。クラウド化については二段階で話を進めました。必要資金を最初から入れずに、社内の意識変革が進んでクラウド化に本格的に取り組める状態になってから増資をして、その資金を使ってもらうようにしました。逆に言えば、その状態を早く作 るためのプロジェクトだったわけです。業界として不可避の構造変化に乗り切るために、株主が変わったという緊張感をうまく使って社内の変革を一気に進める必要がありました。社名も変わりましたし、引っ越したり、服装もカジュアルなものにしたり、身の回りでわかりやすく多くのことが変わっていく中で、プロジェクトを立ち上げ、社長直轄で若い人が率直に意見できるようになった。そういう準備が出来て初めて増資を実行し、クラウド化を推進してもらった。収益については、この後伸びると私は信じています。我々がいなくなった後に伸びてもらうと嬉しいですね。ファンドがいた時には収益が上がらなかったけど、その時にこれをやったから今があるんだなっていう状態を作りたいと思ってやってきました。
資本が変わっても終わらない仕事
金田:クラウド化、将来に向けた人材投資、これらの投資ストーリーにめどがついてきたタイミングで、次の株主探しを進めることにしました。結果的には3年と3ヶ月の投資期間になりました。本件にかかわらず、エグジットについては、自分たちが大事に思ってお付き合いしてきた会社ですから、ちゃんと大事にしてくれる先を選定します。「大事にする」というのは会社のことをしっかりと理解してくれているだけでなく、さらに変化が必要だったら後押ししてくれる、良し悪しを分かり合えているからこそ化学反応を起こせるといった意味です。そんな中で芙蓉総合リースさんとのご縁をいただきました。当時副社長で現社長の織田寛明さんがわざわざこちらに出向いて来られて、まず芙蓉総合リースの将来像を話してくれました。その将来像の中で、WorkVisionに期待する役割はこうで、一緒にやりたいことはこれだということを具体的且つ簡潔に話してくださった。「これは良い組み合わせになる」と直感し交渉を進め、トントン拍子で決まったという感じです。リース会社として彼らが持っている豊富な資金をどう振り分け、彼らが面として持っている法人営業にプロダクトとして何を足していくかというシナジーの観点から、システムに注目された。そういうことなら、WorkVisionも自主性を保ちながら仕事の幅を広げてさらに成長していけると思いました。
大和田:芙蓉グループさんもまた大きなグループですけど、事業は重なりませんので、我々の自主性を尊重してくれる部分もあると思います。芙蓉総合リースさんからは「目先のシナジーを追うよりもお互いの事業を理解し、まずは自分たちの土俵できっちりと仕事をしてください」と言われています。
金田:芙蓉総合リースさんは企業買収の上手なタイプの会社だと思います。リース以外の事業を強化していくという方針で多くの会社を買収されていますが、一貫した全体戦略と個別の買収先との関わり方のバランスがうまく取れていると感じています。WorkVisionには、今回のように資本的に安定している中で、じっくりと果実をとってもらいたいと思います。
きれいごとに聞こえるかもしれませんが、エグジットがファンドの仕事の終わりだとは思っていません。投資期間中と同じぐらいエグジット後に会社がうまくいくかを大事にしています。エグジットした瞬間に業績が上がり始めるようなことがあったら、私からするとそれは大成功です。
人が変わり会社が変わる
宮田:プロジェクトリーダーをされた方はそれぞれ皆さん、当時率いていたポジションから違うポジションに移って、幹部人材となるべく新しいチャレンジをされていると聞いています。これには二つの観点から嬉しく思っています。一つは当時頑張ってくれた方々がいまも活躍されているということ。もう一つは長く縦割り型だった組織で、人材育成のために社内のいろいろな場でキャリアを積ませて育てていくやり方が根付いていることです。会社も個人も上手くいっているのだなと。
大和田:そこで活躍していたのは当時30代40代前半くらいの若い層だったんですが、当時からリーダーシップを発揮していましたし、将来組織を引っ張っていける期待の持てる面々でした。いまでは彼らが本当に組織長になって組織を引っ張ってくれています。非常に柔軟にものを考えられるメンバーですので、彼らに改革を引っ張ってもらうことにしたのは正解だったと思います。一方で年齢が高めの層ではこの変化についていくのが大変だった人もいた様です。これからは年齢層の高い人にいかに活躍してもらうかがどの日本企業にとっても課題になると思いますが、55歳で役職定年になり、60歳から65歳までの再雇用で終わってしまうのも人材活用の観点からはもったいないですよね。
以前は50代後半の社員が多かったのですが、それは東芝時代には若手が採用できなかったからなんです。東芝から離れたことによって、採用の自主性を手にすることができ、ここ3年で50人ほど新卒採用をした結果、全社の平均年齢も下がりました。採用が非常に柔軟にできるようになったことは、変化の速いこの業界でこの先も成長を続けていくことを考えた時にとても大きいです。またこの3年間は自分にとってもすごく大きな意味を持っています。我々はこの事業にどっぷりつかって当たり前のように同じことを継続して来ましたが、べーシックさんが現れて「これからの自分たちの成長のために何をすべきか。制約はないんだから自由に考えて自由にやりなさい」と言ってもらったのは大きかったです。この3年がないまま東芝からいきなり芙蓉総合リースさんのグループに移っていたら、今みたいには自分たちの仕事は出来ていなかった。頭の固い人間たちが集まって、ずっと既存事業だけ引きずっているままだったんじゃないかと思います。うちの社員たちも同じ想いだと思いますね。
金田:私としては、先ほども申し上げましたけど、エグジット後に成長するところまでが仕事だと思っているので、そう言っていただけると嬉しいですし、この後も長く成功を収めてもらいたいです。