2024年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「ESG賞」 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2024年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「ESG賞」

じじやコーポレーション
取締役CFO
元 資さん 執行役員管理本部長(ESG管掌)

石川愉基氏

ユニゾン・キャピタル
パートナー

後藤玲央氏

 

案件概要

対象会社株式会社資さん
スポンサーユニゾン・キャピタル
買い手株式会社すかいらーくホールディングス
案件発表(年月)(投資開始)2018年3月
(投資完了)2024年10月
事業概要外食チェーン「資さんうどん」の直営展開
業績推移(投資時)売上高71億円、(投資完了時)同153億円
主な価値創造企業基盤作りを通じた地方有力ブランドの全国進出(店舗数・地域の拡大)
経営理念の策定、人事制度構築
外食事業のベストプラクティス導入(店舗オペレーション改善、商品・マーケティング強化等)
生産キャパシティ増大・衛生水準引き上げを企図した自社工場への大型投資
サプライチェーンの再構築

強みと改善点が明確だったことから投資を実行

―― 石川さんは2025年3月まで資さんの執行役員管理本部長を務めていました。まずは資さんの事業内容を教えて下さい。

石川「資さんは外食チェーンの『資さんうどん』を直営する会社です。ユニゾン・キャピタル(以下ユニゾン)が投資を実行した2018年3月の段階では北部九州のみで39店舗の展開でしたが、九州全域から中国地方、関西、そして関東へと順次進出し、2024年10月に株主がすかいらーくホールディングスに交代するまでの約6年半で72店舗にまで拡大、売上高はユニゾン投資時との比較で2倍以上になりました

 

 

 

―― 当初、資さんにはどのような経営課題があったのでしょうか。

後藤「資さんは、創業者の大西章資さんが40年超にわたって築いた会社ですが、カリスマ的存在だったその大西さんが2015年に他界された後は、成長をけん引するリーダーが実質的に不在の状態となっていました。従業員は『資さんの味』を提供することに誇りを持っていましたが、会社が向かうべき方向性や将来像については定まっていませんでした。
 機能不足の脆弱な本社体制、人手不足に代表される外部環境変化に対応できないマンパワーに依存した店舗オペレーションなども、さらなるチェーン展開に向けては課題となっていました。資さんはフルサービスのレストランでメニュー数も多く、厨房とホールの負担が重い業態ですが、店長やベテランの『背中を見て』仕事を学ぶカルチャーが強く、新人にとってはハードルが高い環境でした。ハード面でも、店舗にタッチパネルなどのITツールの類は一切導入されておらず、決済も現金のみ。自社セントラルキッチンの衛生管理も十分とは言えない状態であるなど、全体的に過少投資の状態でした

石川「店舗は24時間営業がベースで従業員は3交代制なので、大きい店舗をロードサイドに出店する場合、パート・アルバイト含め、100人近くの人員が必要になります。会社を成長させるためには多くの人材を採用・育成しなければいけませんでしたが、当時の資さんには働きやすい環境がありませんでした。店舗仕事の大変さに加え、休日日数は極端に少なく週1休が基本。男性がモーレツに働く極めて昭和的な世界観の労働環境だったと思います。離職率を抑えながら、女性やシニアも活躍できるような体制を整えていく必要がありました」

――ユニゾンはそうした課題を改善できると踏んで投資を決断したわけですか。

後藤「資さんは、良い味とサービスが長年にわたって支持され、『北九州のソウルフード』とも言われる稀有なブランドです。我々のようなPEファンドが大西さんと同じようにそれをゼロからつくれるのかと言えば難しいでしょう。ただ、既にあるブランドを広めたり、事業の拡張性を高めて会社をより良くしたりすることは得意です。資さんの場合は強みも改善点もはっきりしていたので、投資を実行しました

投資後初期のターニングポイント

―― 投資後はどのようにしてこれだけの成長を実現したのですか。

後藤「出店拡大による成長、というのが結果的・表面的な捉え方ですが、そこには、店舗オペレーション改善、大規模工場投資とサプライチェーン改革、マーケティング強化など様々な取り組みがつながっています。例えば、店舗のオペレーションを標準化し生産性も上げないと、新店を出すことの負荷が大きすぎて、これほどの出店はとてもできません。また、従前の工場キャパシティとサプライチェーンの仕組みでは北部九州近郊への一定程度の出店が関の山で、関西や関東含めた他地域に展開できる状態ではありませんでした。さらに言えば、そうした成長のための改革と投資を行うための企業基盤が全くと言ってよいほどなかったので、まずはそこから着手しました。投資初日から参画いただいたCEO・COOのお2人とともに、会議体の設置や事業数値管理の仕組みづくりといった基礎的な経営基盤整備を始め、また外食事業のベストプラクティスを少しずつ取り入れていきました。石川さんに入社いただいたのもこの初期フェーズでした

―― 改革が進むターニングポイントのようなものはあったのでしょうか。

後藤「投資後の初出店となった2018年11月の飯塚穂波店(福岡県飯塚市)オープンと経営理念の策定ですね。当時の社内には、漠然と事業を拡大したいと考える従業員と、『守ってきた味が変革で失われるのではないか』と変化に躊躇する従業員とが混在していました。また、店舗の立ち上げには相当な労力がかかるところ、創業者の他界後、出店をしない期間が何年も続いていたので、飯塚穂波のような(当時の)空白地への出店は従業員にとって心理的にも大きなチャレンジでした。ところが蓋を開けてみれば想定以上の繁盛店となり、この成功体験が一種の着火点となったように思います。

 経営理念の策定はこれと並行する形で丸1年をかけて行いました。ワークショップ等を通じて多くの従業員が参加する形で、創業者である大西さんが遺した言葉を紡ぎつつ、今の従業員が自分たち自身についてどう思っていて、これからどうありたいかということを言語化し、結晶化させていきました。それまでは、ある意味で『創業者が主語』の会社でしたが、資さんという会社自体、そして今の従業員たちが主語となった瞬間でありプロセスでした」

石川「経営理念が定まったことで社内がまとまり、また私の後にも次々と入ってきていた外部採用メンバーと既存従業員との間でも共通認識が生まれ、会社の成長に向けた時計が動き出したという感覚でした。

資さんの経営理念では、時代や場所を問わずに『最高の一杯』を通じてお客さまと従業員とで幸せを分かち合いたいという想いを核に、会社として目指すことや従業員としての約束事を定めています」

企業価値向上の鍵となる「人」と「地域」

―― 会社が動き出し、企業価値向上を追求していくフェーズでのポイントはありましたか。

後藤「資さんの企業価値向上における主たるドライバーは、1つが、日常食であるがゆえのリピート顧客の積み上げとライフタイムバリューの向上。もう1つが、フルサービスの直営店舗オペレーションを可能とする人材の採用・リテンションです。この2つを新たな地域の新たな店舗で再現していくことによって企業価値が大きくなっていきます。資さんの事業は、お客さまと従業員双方が主にその店舗のある地域に住む人たちで構成されているので、地域に良い形で受け入れられ、根付いていくことが重要とも言えます

―― 「人」についてはどのような施策を行ったのでしょうか。

石川「まず人事制度自体が、今の時代、そして人手不足の環境下では無理のある昭和型のものだったので、抜本的な見直しを図りました。短期的にはコスト増となる改定がほとんどでしたが、経営理念に沿って中長期で企業を伸ばしていく視点で必要な改革を推し進めることができました。極端に少なかった休日日数を昨今の一般企業のレベルまで改善し、年間休日日数は当初の平均66日から104日まで増えました。

 高かった離職率については、新スタッフの入社後のトレーニングやフォローを拡充しつつ、離職が起こりやすいタイミングでのモニタリングにも注力していきました。また、ESサーベイ(アンケートなどでの従業員満足度の可視化)を実施して従業員の声を定期的に吸い上げました。例えば『店長にはなりたいけど大変さが勝るから昇進したくない』といった不満や課題が浮き彫りになったので、すぐに解決すべき課題と中長期で解決する課題に分け、期限を切って改善を図りました。後年にはESサーベイの一種として目安箱を置き、従業員の要望などを常に吸い上げられるようにしました。責任者を決めた上でそうした仕組みを回すことによって、従業員の間に『適切な要望であれば会社はすぐに改善してくれる』という納得感や安心感、やりがいが生まれました。それは離職率低下につながる要素の1つでした。結果的に、さまざま見ていた離職率系指標のうち最も重視していた新スタッフの入社3ヵ月後離職率は3割程度低下させることができました」

―― 女性やシニアが働きやすくなるような施策には、どのようなものがあったのでしょうか。

後藤「店舗のオペレーションが根性論で成り立っていると女性やシニアを含めた多様な人材の活躍機会を逸します。そうした精神面・カルチャーの見直しから始め、またハードの面でも、味に影響を出さず現場を楽にし、生産性改善につながるような機器類への投資を積極的に進めました。例えばご飯を自動で盛る機器や厨房・ホール両方でのITツールの類です。投資期間後半では、コロナ禍を経てテイクアウト需要が増えたことなどもありましたが、店舗の動線設計そのものも見直し、従前の店舗からは大きく進化を遂げたと言えます。投資期間中にパート従業員の平均時給は2割上がったのですが、このコストは同じく2割の生産性改善によってカバーできたほか、多様な人材が活き活きと働ける環境を整備できました

石川「子育て世代の従業員も多かったため、出店地域の企業主導型保育所と交渉し、優先的に受け入れてもらえる契約を結ぶなどの取り組みも進めました。『働きやすさ』の向上については本当に多種多様な施策を行いましたが、結果的に従業員数は、ユニゾン投資時の1500人から投資終了時には3300人にまで増え、またわずか1人だった女性管理職も13人にまで増えました」

「子ども」に着目した活動を通して地域社会から受け入れられる

―― もう1つのキーワードである「地域」との関わりについては、どうですか。

後藤「発祥の北九州ではソウルフードと親しまれ、お客さまの会社・お店へのロイヤリティ(愛着)が非常に高い状態でした。シンプルに言えば、他の地域でもそうなっていきたいというのが、経営理念に沿った方向性です。新たに進出していく地域の社会から受け入れられ、愛されるには、地域にとって『助かる存在』、『なにか良いお店・会社』であることが大事だと考えました。それが具体的にどんなものかと言われれば、地域によって違う部分もあるのかもしれませんが、例えば1つの共通点として、地域の宝である子どもや子育て世帯にとって良い存在になろうという議論になりました

――「子ども」に着目して具体的にはどのようなことを行っているのですか。

石川「店舗での子ども向けサービスやお子さまメニューの拡充を行ったほか、店舗外の活動としては、例えば、児童養護施設へのキッチンカー訪問があります。これはもともと福岡のプロレス団体が施設を回り、現役レスラーが子どもたちとふれ合う活動をしていたのですが、汗をかいた後は一緒にうどんを食べてもらうことにしました。コロナ禍で外食が難しくなっている時期にこのコラボを開始し、福岡県内の全施設を回りました。

 出店地域の子どもたちに資さんの仕事を体験してもらうイベントも実施しています。子どもたちが店舗の厨房で資さん名物の『ぼた餅』を握り、それをお客さまに扮した保護者に配膳・接客するというイベントです。保護者の評判は良く、着用した制服をプレゼントするので子どもたちにも喜んでいただけました。

 また、幼稚園や保育園での食育教室も主要な取り組みの1つです。例えばサプライチェーンをテーマとした回では、資さんの人気メニュー『肉ごぼ天うどん』を題材にして、園児たちは生産(紙芝居でごぼうについて学ぶ)、加工(園庭に埋めたごぼうを掘り出し、梱包する)、物流(梱包したごぼうを作業台へ運ぶ)、外食(製麺工場で出た端材を活用してうどんをこねる)といった一連のプロセスを体験し、プロセスごとにおもちゃのお金を受け取ります。最後に自分が稼いだお金をキッチンカーのスタッフに渡し、うどんをもらうというイベントです」

後藤「こうした活動には、子どもたちに資さんに親しんでもらい、大人になったらお客さまとして来店いただく、もしくは従業員として一緒に働く仲間になっていただく、そういう素敵な循環が生まれればいいなという願いも込められています。資さんという会社の長期目線での企業価値向上というのは、本質的にはそういうことだと考えています」

回り道を経てたどり着いたESG経営への納得感

―― 資さんではESGの視点をどのように経営に取り入れていったのですか。

後藤「資さんは、投資時点では正直サステナビリティの文脈とは距離のある会社でした。ESGやSDGsについての会話がなされることはなく、自社の『人』についてさえも、お話した通りの状況でした。当時、ユニゾンとしては既にESGへの意識は高かったので、まずは経営陣の定性評価の項目にESGの要素を入れ込んだうえで、投資後半年頃から石川さんを含む経営チームとともにESG視点で何ができるかを議論しはじめました。大手企業のサステナビリティ活動の事例を参考にしたこともあり、食品ロスの削減、レジ袋のエコ素材化、廃油のリサイクル、店舗で使う電力のグリーン化等、環境関連の取り組みが多かったですが、手広く色々取り組みました。世の中的にはSDGsがより馴染みのある言葉として拡がっていたので、SDGsのフレームワークで活動の整理を行い、最終的には『資さんSDGs宣言!』としてホームページ上でも取り組みの方向性を公開するに至りました。ですが、取り組みがあまりにも多岐にわたっており、追求したいことの輪郭がぼやけており、SDGsのためのSDGs活動という雰囲気から脱しきれていないのが実情でした

石川「ESGやSDGs関連については私が管掌していたのですが、社内の理解や温度感は当初バラバラで、無関心あるいは冷ややかに見ているメンバーもいたと思います。ただ、何度も何度も色々な議論を重ねていくなかで、要素を整理することができ、最終的にはシンプルなストーリーとして分かりやすくまとめることができました。それがさきほどの『人』と『地域』の話であり、『資さんにとって一番大事なのは街の人たちに愛される存在になることだ』という整理です。

 環境関連の取り組みについても、資さんのような中堅企業がCO2排出量の削減やリサイクルの追求などの一つひとつで社会にもたらせるインパクトは必ずしも大きくはなく、それ自体を目的としてしまうと、どうしても社内の温度感にバラつきが出てしまいます。まさにSDGsのためのSDGs活動という見方です。他方で、人、地域、環境などの取り組みを全部まとめて捉え、地域社会から『資さんは地域の人たちを幸せにしようとしている。従業員の労働環境づくりにも注力し、多様な雇用も実現している。環境にも優しい。良い会社だ』という1つの大きなイメージを持ってもらえるとしたらどうでしょう。これは、『お店へ行ってみよう』、『働いてみよう』につながり、事業の観点でも良循環が回り始めます。言われてみれば何でもない整理ではありますが、ストーリーとして明確になったことで、ESGやSDGsの取り組みに賛同する声が多くなり、社内で自然と熱量が上がっていきました」

後藤「その後、更新した『資さんSDGs宣言!』では、会社として『この街に誇れる企業』、『この街に来て欲しい企業』を目指すと宣言しています。これは実は、投資後初期に1年かけて皆でつくった経営理念のなかにある、『「この街に資さんがあってよかった!」と、すべての地域に元気とぬくもりをお届けします。』というフレーズとほぼ同じことを言っています。ESGの取り組みについては紆余曲折がありましたが、実は経営理念のなかに答えがあったというわけです。さらにこれが資さんの事業特性を踏まえた企業価値向上戦略とも符合しているというのがポイントで、こうなると当然、社員の多くが腹落ちします」

ESGは会社の力を引き出す有力な経営フレームワーク

―― あらためて、企業価値とESGの関連性をどのように捉えていますか。

石川「私は経理、財務、経営企画など管理部門の出身だったので、当初はESGなどの非財務要因が企業価値にどのような影響を与えるのか実感がありませんでした。しかし資さんのESGの取り組みは最終的に非常にパワフルかつサステナブルなものになりました。新経営体制の前半戦の取り組みが徐々に実を結び、コロナ明けに店舗数や売上高が一気に伸びました。経営理念との整合性や、従業員と本気で議論をして腹落ちしていくプロセスが大事だったと今改めて感じています。

 資さんでの取り組みや考え方には汎用性があり、他の会社でも活用できます。資さんに在籍した6年半でESGの効果をはっきりと体感したので、現在の会社でも同じような取り組みを始めています

後藤「どんな事業も最終的には『人』であり、その能力発揮の度合いで企業のパフォーマンスは変わります。社員のエンゲージメントはそこに深く影響し、そして一人ひとりのエンゲージメントが高まっていくためのピースの1つが、自らの存在意義や誇りだと思います。

 従業員が自分の仕事を誇りに思える、その何かは会社によってもちろん違いますが、資さんの場合は、お店のある地域の社会との、温もりのあるつながりでした。『なにかいいお店・会社だよね』と受け入れられていくうちに、お客さまは増え、働き手も増える。シンプルなようで、そこに行きつき、価値創造戦略のど真ん中に置くまでにはとても時間がかかりました。従業員が誇りに思える小さなストーリーを見つけられると、会社全体では大きな力になります。ESGは時として中堅中小企業にはハードルが高く感じられます。しかしそうしたストーリーを見つけ出すためのとても良い経営フレームワークだと感じた体験でした」

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