左から中嶋将良氏、櫻井秀秋氏、柳原明人氏、中西広幸氏
J-STAR 取締役 パートナー レナタス 代表取締役社長 執行役員 櫻井 秀秋氏 J-STAR プリンシパル レナタス 監査役 中嶋 将良氏 |
レナタス 取締役 執行役員 営業戦略本部長 ジャパンウェイスト 代表取締役社長 中西 広幸氏 レナタス 事業戦略本部 事業企画部長 柳原 明人氏 |
目次
案件概要
対象会社 | 株式会社レナタス |
スポンサー | J-STAR No.5 Fund Series、J-STAR Environment Funds等 |
売り手 | J-STAR No.3 Fund Series、J-STAR No.4 Fund Series等 |
案件発表(年月) | 2023年11月 |
事業概要 | 環境関連事業、環境整備・ビルメンテナンス事業、コンサルティング事業 |
業績推移 | 売上高569億円(2023/12月期)※合併前のジャパンウェイスト社も含めた単純合算 |
主な価値創造(予定含む) | 本邦初のスキーム(コンティニュエーション・ファンド)を用いた投資先企業の集約による有力企業連合体の樹立 ロールアップ戦略支援を通じた業界再編のさらなる促進 企業の壁を越えた連携(営業面、技術面)体制構築によるサービスの高度化・効率化 IPOを目指すことによる社内体制の高度化 CEOをはじめとするキーマネジメントの招聘、採用 |
国内初のスキームで複数ファンドの投資先企業を集約
―― レナタスはJ-STARによって2024年8月に設立された後、2024年11月にJ-STARの既存ファンドで投資していたハリタ金属(現HARITA)、新日本開発ホールディングス、シンシアホールディングス、サンワグループの全株式を取得し、レナタスを持株会社とする企業グループを結成しました。まずはグループ設立の経緯を教えて下さい。
中嶋「J-STARでは投資テーマの1つにロールアップを用いた業界再編を掲げています。創業からのプライマリー投資企業数60社に対して、ロールアップを含めた総投資企業数は140社を超えます。つまり1社に対して1社以上のロールアップを実施していることになります。
ただ、レナタスの事業領域である産業廃棄物処理業やリサイクル業の投資先には地域の有力企業が多く、事業規模が比較的大きいため、時間軸や投資額を踏まえると1つのファンドだけでロールアップをやりきることは困難でした。
また、これら業界の特徴として、事業の地域性がとても強いことが挙げられます。
そのため、4号ファンドまでの投資先だけでは事業エリアが離れていてシナジーが見込めず、当初は再編に二の足を踏んでいました。そうした中、5号ファンドで中部・北陸・関西圏に廃棄物の収集・運搬・処理のネットワークを持つサンワグループへの投資機会を得たことで物流面や営業面のシナジーが期待できるようになったため、企業グループ結成に向けた検討を開始しました」
―― レナタス設立にあたっては、本邦初となる「GP主導型コンティニュエーション・ファンド」というスキームが使われています。このスキームがどのようなものかや、その仕組みを教えて下さい。
中嶋「レナタスグループの構成企業は3号~5号ファンドにまたがっていましたが、各ファンドのLPは一致していません。こうした状況で単純な企業統合を選んでしまうと、投資家間で利益相反が生じる可能性がありました。この懸念を払拭するために、コンティニュエーション・ファンドという仕組みを使って新たに『環境ファンド』を組成し、このファンドから持株会社のレナタスにエクイティ出資をする形をとりました。
詳細を説明すると、3号と4号ファンドで投資していたハリタ金属、新日本開発、シンシアの投資持分をレナタスに移すことでLPにエグジット機会を提供するとともに、継続投資を希望するLPには環境ファンドにもLPとして参加いただいています。なお、設立から日が浅い5号ファンドについては、投資先であるサンワグループの持分をレナタスに移すとともに、その対価である売買代金債権をレナタスに現物出資しました。従って、レナタスの資本の多くは環境ファンドと5号ファンドからの出資で構成されることになりました。
また、環境ファンドにはレナタスの成長に向けた追加投資枠を確保する狙いもあり、新規LPからの出資も受け入れています。その際は入札形式で企業価値を評価してもらうことで、既存LPとの利益相反を緩和する仕組みにしています」
2017年頃から業界でPEファンドに対する認知が向上
―― J-STARはいつからこれらの業界に着目していたのですか。
櫻井「2006年の当社創業直後に、2番目の投資案件として廃プラスチックのリサイクル企業に投資しています。
この投資で業界にネットワークを作ることができたので、その後も関心を持っていたのですが、先述のように各地域の有力企業が多く、かつ参入障壁が高いこともあり、なかなか投資機会には恵まれませんでした。状況が変わったのは3号ファンドでハリタ金属に投資した2017年頃からです。業界でPEファンドに対する認知が広まったこともあってか、以降は継続的な投資ができるようになっていきました」
―― 投資にあたってはESGに対するコミットメントも意識したのですか。
櫻井「最初の投資時点で、次世代に必ず引き継がなければいけない、社会に不可欠な産業であるという認識はありました。
一方で、例えば廃棄物処理では焼却工程をともなうので、投資に際して環境負荷の観点から社内で議論を重ねました。その結果、CO2は発生させるものの、有害物質の除去によって公害の拡大を防ぎ、住環境や人々の健康を守る役割もあることから、『他で代替できない社会的な価値がある』との結論に至った上で投資を実行しています。
ESGは社会にとって重要な課題であり、取り組む意義は大きいと考えています」
全国区の企業がグループに参画
―― その後、ジャパンウェイストが2024年3月、親会社のAREホールディングスとレナタスの株式交換によってレナタスの完全子会社となりました。ジャパンウェイストはどのような経緯でPEファンドをパートナーに選んだのですか。
中西「ジャパンウェイストは2023年4月にAREホールディングスから分社化した後、当初は単独IPOに向けた準備を進めていたのですが、そのタイミングでJ-STARからレナタスの構想を伺う機会がありました。
話を聞く中で、私は、『レナタスの事業価値をある程度の規模まで拡大できなければ、業界に一石を投じるような存在にはなれない』と感じるとともに、単独IPOよりもレナタスに参画して上場を目指す方が結果的に事業価値を高めることができる、との考えを持ちました。
別の側面として、ジャパンウェイストは分社化前からM&Aを活用した成長に積極的で、買収した企業は10社以上にのぼります。しかし、近年は事業承継の際にオーナーがPEファンドのスピード感やファイナンスプランを選ぶケースが増えていて、M&Aの実行が非常に難しくなっていました。こうした環境ではジャパンウェイスト単独でM&Aのアプローチを続けるよりは、PEファンドと一緒になって事業価値の拡大を図る方が望ましいと考えたのです」
櫻井「グループの他の企業は、事業承継で世代交代するタイミングでJ-STARを選んでいただきました。
PEファンドにとってM&Aは本業です。年金や保険など公共性の高い投資家から資金を預かり運用するという社会的な意義も持っています。また、投資後のアプローチについても、強力なリーダーシップの発揮より、高いガバナンスに基づく永続的な組織運営体制の構築が企業からより強く求められています。こうした点が、私たちをパートナーに選んでいただく際や、レナタスのような参加型の組織を作る上でも訴求したのだと思います」
―― レナタスグループへの参画を決めた後、ジャパンウェイストの社内からはどんな反応があったのですか。
中西「もともと単独上場を目指していたところからの方針転換だったので、プロパー社員はM&Aの観点ではこれまでとは全く逆の立場になりますし、『ファンド』という言葉に対して『ハゲタカ』のイメージを抱いている社員もいました。
そこで、昨年10月にグループ参画のプレスリリースを出してからグループ入りするまでに、全国の拠点を回って社員と対話する機会を設けました。その間J-STARとさまざまな交渉を行う中で、私には櫻井さんや中嶋さんを始めとするJ-STARの誠実さが伝わってきました。もちろんこれだけでグループ入りを判断することはできませんが、社員に自分の考えを正直に伝えたことで『レナタスグループの一員となれば、先行する競合企業を追いかけることができる』という認識が社内に広がったと思います。その結果、もともと高かった社員のモチベーションが一層向上しました」
ビジネスモデルの違いがシナジーを生む
―― J-STARによる投資先企業のサポートにはどのような特徴がありますか。
中嶋「個別企業レベルでは、幹部層や社員にも業績が見えるように経営を透明化し、人事制度と連動させる仕組みを取り入れています。これによって株主・会社・従業員それぞれの目線を合わせることができるようになりました。
また、一部の企業には管理職を対象にしたコーチングの実施や、IT活用による工場管理の効率化なども進めています」
―― 成長に向けたグループでの取り組みとしては、どのようなものがあるのでしょうか。
中西「ジャパンウェイストは全国15拠点に150名の営業メンバーが在籍する強みがありますし、他の4社にはそれぞれの事業エリアに特化しているという強みがあります。そこで、まずは各社が持つ営業・技術・安全面のノウハウを共有し、相乗効果を生み出していくところから始めています。
さらに、将来のIPOを目指した体制構築も進めています。ジャパンウェイストでは単独上場を目指してある程度の準備を整えていたので、レナタスにもその体制や人員を提供しています」
櫻井「レナタス設立当初はグループ各社の拠点が離れていたのですが、全国に拠点と営業網を持つジャパンウェイストの参画によって、グループ内の連携が一段と取りやすくなりました。
特に、地域特化型の各社では自社処理施設の稼働率を高める営業が中心であるのに対し、ジャパンウェイストは顧客から処理が難しい案件を預かり、それを適切な施設で処理できるようにコンサルティングを行う営業スタイルです。この2つのビジネスモデルを連携できる点がグループ化で最もシナジーが出ている部分です。
また、これまで各社が取り組んできた技術開発や事業開発についてもグループ内のリソースを配分しながら加速していきます。こうした機能の提供もレナタスの重要な役割です」
グループ成長の手段としてM&Aに注力
―― J-STARはロールアップによる企業価値向上を得意としますが、今後はレナタスでもM&Aを加速させていくのでしょうか。
柳原「グループへの参加企業の増加はレナタスの成長戦略においても重要で、今後も積極的にM&Aを実施していきます。
レナタスグループがユニークなのは、1つの大きな会社が企業を吸収するのではなく、各社が集まって一緒に成長しながら将来的な上場を目指しているところです。そのためM&Aの対象企業には『レナタスというプラットフォームをうまく活用しながら、一緒に成長していきましょう』と伝えています。
この業界では事業規模がお客様に対する信用につながりますし、技術的なノウハウをお互いが提供し合うメリットもありますから、グループへの参画も検討しやすいと思います」
―― 今後のJ-STARとレナタスの連携については、どのように考えていますか。
櫻井「J-STARはM&Aを行う会社なので、一番の支援はレナタスと一丸になってグループに参加いただく企業を探していくことだと思います。私たちに集まる様々な情報の中で、レナタスの成長に寄与するものについてはしっかりつないでいきます」
中嶋「もっとも、PEファンドは投資先に永続的なサポートを提供するわけではありません。いま櫻井さんが挙げたことをレナタスグループで回せるようにしていくのが、J-STARのミッションです」
櫻井「皆が共同作業を始めた初期段階では、私たちのような事業会社ではないプレーヤーがまとめ役を担っていくことには意義があると思いますが、段階的に自立できる体制を築いた上で、最終的にJ-STARから卒業していただくことが最大の目標です。先ほどIPOに向けた準備の話もありましたが、上場に向けて不足している機能があれば、それを補う人材を紹介するなどしてレナタスを支援していきます」
―― レナタスグループが描く成長戦略を教えて下さい。
中西「廃棄物処理業には過去に起きた不法投棄問題のイメージが根強くあり、これまでは『いかに法規制に則った適正な処理をするか』に注力することがほぼ全てでした。しかし、今はそれだけでは駄目で、脱炭素に向けた取り組みやサーキュラー・エコノミーへの移行が必須となっています。
グループの中で、私たち事業サイドに課せられた使命は、すでに存在するリソースと今後新たに提供されるリソースを最大限に活用していくことです。この点を意識しながら、廃棄物処理業界が果たすべき役割の変化に合わせて企業価値を高め、事業への信頼性を高めます。それが結果的に優秀な人材の獲得につながりますし、人材を活用して新たな技術を取り入れたり、メーカーや小売など『動脈産業』サイドにもアプローチしていくことが、さらなる企業の成長につながっていくのだと考えています」
柳原「この業界は社会的インフラとして非常に重要な役割を担い、さらには社会的な関心の高まる環境課題の解決を行う上で重要な役割を果たしているにも関わらず、ステータスが決して高いとは言えません。将来的な上場を踏まえてグループ各社の従業員の待遇改善や社会的地位向上を図っていくことは、私たちが掲げる目標の1つです。
M&Aを通じた成長については、私たちは事業会社なので同業他社から事業承継の相談が入りにくい側面がありますが、J-STARであればそういった話も集まりやすいので、しっかりとファイアーウォールを引いた上で、J-STARと連携しながらM&Aを進めていきます。実際、J-STARはM&Aの経験が豊富で実務のスピード感が段違いなので、連携はソーシングの面でも、エグゼキューションの面でも大きなメリットがあります。
一方、レナタスは設立から間もない会社ということもあり、企業成長を図る上では認知度の低さが課題です。将来的にはレナタスの名前を出すことでM&Aの話が集まるようにしたいです。政府や自治体との連携を進めてビジネス機会を増やすためにも、レナタスの名前を一層広めていく必要があると考えています」