2023年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「エグジット賞」 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2023年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「エグジット賞」

モリテックス 代表取締役社長
コグネックス 代表取締役社長

佐藤 隆雄氏

トラスター・キャピタル・パートナーズ・ジャパン
日本代表 パートナー

伊藤 政宏氏

 

案件概要

対象会社株式会社モリテックス
スポンサーTrustar Capital Partners Limited
買い手Cognex Corporation
案件発表(年月)2023年8月30日
事業概要マシンビジョン事業向けのレンズ、照明など高品質な光学部品の開発・製造・販売
国際的な業界トップ企業を含む強固な顧客基盤に向けた幅広く高度なソリューションの開発・販売
業績推移投資時:売上高約75億円、EBITDA一桁億円前半、エグジット時:売上高約100億円、EBITDA二桁億円中盤
主な価値創造市場戦略の見直し(半導体中心から他分野(電子部品、スマート関連分野、再生エネルギー、電気自動車、自動運転等)へ進出、国内中心から海外への事業・製品展開)
収益性改善(価格戦略の見直し、海外への生産移管推進、調達網の見直し)
旧親会社からの独立支援(業務や意思決定プロセス、評価体系、システム等全般の見直し)

製造業としてのポテンシャルに着目

―― 最初に、モリテックスの事業概要と、トラスター・キャピタル・パートナーズ・ジャパン(2023年にCITICキャピタル・パートナーズ・ジャパンから社名変更)の傘下に入るまでの経緯を教えて下さい。

佐藤「モリテックスは産業用レンズや照明の設計から販売までをワンストップで手掛ける企業です。従来の製品用途は、画像センサーから入力された情報を解析して産業製品の検査や測定を行う『マシンビジョン』向けが中心でしたが、近年は他の様々な領域に活用が広がっています。

 2015年1月にトラスター・キャピタル・パートナーズ・ジャパンがスポンサーになる前はドイツの産業用ガラスメーカー、ショットが株式の約7割を保有していました。ショットは自前でレンズや照明のビジネスを持っていたので、モリテックスを通じて日本で彼らの製品を売っていくことを目指していたのですが、私たちが日本で支持されるのは製品が評価されているからで、ショットの製品をそのままモリテックスの商圏で扱っても思うようには売れません。そのため、モリテックスの収益は悪化していました。

 さらに、ショット本体でも事業戦略の見直しが行われてメイン事業にフォーカスする方針に変わったことで、モリテックスの売却が検討されるようになりました」

―― トラスター・キャピタル・パートナーズ・ジャパンは2015年にショットが保有していたモリテックスの全株式を取得した後、2016年に追加でTOBを実施して完全子会社とし、その後非公開化しています。投資を決めた要因は何だったのでしょうか。

伊藤「当時のモリテックスは東証1部上場企業でしたが、継続企業の前提に注記が付いているような財務状況で、投資対象としては非常に厳しい状態でした。そうした中で私たちはモリテックスの技術力に着目して接触したのです。そこで、技術者のレベルが非常に高い典型的な日本の製造業であることと、資本や経営の問題で潜在能力を十分に発揮できていないことがわかりました。

 また、モリテックスの製品が使われるマシンビジョンは多くの産業にとって不可欠であり、かつ、大きな成長余地がありました。工場の自動化はもちろんですが、AIやIoTの発展に伴い映像センサーにも高い機能が求められていくことが予想できたので、モリテックスの事業が社会に対する重要なソリューションの提供につながる可能性を感じたのです。

 当社はこれまでの投資先の約半数が製造業で、一般的なPEファンドよりも製造業に対する造詣が深く、技術や市場を見極める力があると自負しています。さらに、当社の設立に関わったCITICグループは中国有数のコングロマリットであり、そのネットワークを生かした海外展開のサポートを得意としています。私たちが提供できる価値とモリテックスが抱える課題が一致したことで、投資を決めました

短期間で収益性改善を達成

―― 投資開始後、最初に着手したことは何でしょうか。

伊藤「大きく2つあります。

 まずは資本と経営が『事業』と噛み合っていなかったので、そこを整理し、技術者を中心とした従業員の方々が力を発揮しやすい環境を整えました。従来は意思決定の進め方や社内のシステムが複雑でした。一方でモリテックスはいわゆるスタートアップから成長を遂げて上場した企業で、メンバーの方々にはアントレプレナーシップがあったので、この良さを引き出すためにも意思決定を迅速化する仕組みを取り入れていきました。

 2つ目は成長の追求です。以前は日本でモリテックスの製品を自由に売れないとか、海外にチャンスがあっても親会社の事業と重なる場合は制限されるなどの制約がありました。それらを勘案しながら成長余地を見極め、戦略を立てていきました。

 特に中国については自社工場があるにも関わらずほとんど市場開拓ができていない状態だったので、1から市場を調査し、顧客を特定してモリテックスに紹介するなどのサポートを実行しています。

 こうした取り組みの結果、投資開始から1年ほどの期間で目標としていたEBITDAマージン10%を達成することができました

―― 短期間で目覚ましい成果が出ていますが、特に効果が出た取り組みは何ですか。

佐藤「私はモリテックスが復活できた最大の理由は中国市場の開拓だと思っています。それまでのモリテックスのビジネスは日本が中心でしたし、中国特有の事情もあって市場開拓は困難でしたから、CITICという強力なブランドで足場を固めてもらえたことは大きな力になりました」

伊藤「中国市場の開拓に加え、佐藤さんがリードして収益の改善を進めていったことも大きいです。正確な数字をベースに利益率の目標を立てて売値やコストを設定したり、プロジェクト受注時にどのくらいの収益を前提に考えるかといったことを徹底していただきました。

 また、中国工場では現地サプライヤの利用率が低いことが調達コストの上昇を招き、粗利率を低下させていたので、佐藤さんに現地サプライヤと矢継ぎ早に契約していただいたことで一気に収益が改善へ向かっていきました。

 これらの取り組みと技術者の方々が働きやすい環境の整備を同時に進めたのが成功につながったのだと考えています。どちらか片方だけではうまくいかなかったでしょう

―― 「技術者が働きやすい環境」とは具体的にどのようなものでしょうか。

佐藤「モリテックスの技術者は様々な製品を作れる技術を持っているので、上から『これだけをやりなさい』と指示されるのを嫌がります。ただ、『自分はもっとできる』と考えて製品を作っても売れなければ意味がありませんから、営業と一緒に動いて顧客のニーズを聞き取った上で、『さらにこんな工夫ができないか』『コストを下げられないか』といったチャレンジングな依頼を投げるようにしました。

 技術者には達成感を得られると燃えるタイプが多いので、難しい要望に応えて感謝の言葉をかけてもらうことがモチベーションに直結します。技術者が顧客を訪問して、声を聞き、最適な製品を提案するという仕組みを整えました。そうすることで、顧客とWin-Winの関係になれるプロセスがうまく作れました

緊密なコミュニケーションが企業価値を高める

―― 収益改善後は企業成長に向けてどのような取り組みを実施してきたのですか。

伊藤「モリテックスから新しい領域に進出するための提案をたくさんいただき、それを一緒に検証しながら進めていきました。特に、周辺領域へ進出する場合は海外がメイン市場になるので、その際は私たちが得意とする海外展開のサポートを提供しています」

佐藤「もともとモリテックスは日本で既存製品を売ることに注力してきました。しかし、事業機会はグローバルに存在していて、日本企業がまだ弱い領域もあります。それを見つけてきて技術者に『やったことはないけど、できる?』と聞くと、やはり燃えてくれるわけです。この相乗効果によって新しい領域にも進出できるようになりました。

 もう1つ伊藤さんたちと取り組んだのは、地域や業界ごとに異なるニーズに合わせて製品を作る仕組みに変えたことです。以前はスタンダードな製品の数を揃えて顧客にその中から選んでもらっていたのですが、このやり方では顧客のニーズに合わず売れない製品も大量に抱えてしまいます。今は技術者が顧客のニーズを聞いた上で『売れると分かっている製品』を作れるようになったのが大きな違いです

伊藤「その結果、従来は半導体関連が中心だった製品の活用領域がエレクトロニクス、物流、農業や食品などへと次々拡大していきました。使われている製品は領域ごとに調整されているものの重なる部分が多いので、製品のバリエーションはあまり変わらずに応用する領域が増えていったイメージです」

佐藤「例えば、モリテックスはもともと『テレセントリックレンズ』と呼ばれる検査用特殊レンズの製造に強みがあるのですが、2016年により計測精度が高い『バイ(両側)テレセントリックレンズ』の製造にトライしています。これはエンジンの部品など検査に高い測定精度が求められる企業の声に応えたもので、リリース後はオートモーティブや外観検査の領域にビジネスが広がりました。

 さらに、2017年からはCCTV(closed-circuit television)レンズの製造にも力を入れています。CCTVレンズは製品検査のほかにも監視カメラや防犯カメラなど用途が広く、グローバルに巨大なマーケットが存在します。もっとも、一般的な用途のレンズでは先行企業がすでに安価な製品を出しているため、そこでは勝負ができません。そこで、交通監視システムやEVバッテリーの検査など、ニッチ向けのハイエンドな製品に特化することで利益を出す方針とし、伊藤さんとも話し合ってGOサインを出してもらいました。

出資時と比較して中国市場の売上は10倍程度に成長していて、その最大のドライバーになったのがCCTVレンズです。普通に考えれば難しい提案だと思いますが、それでも聞いてくれるような関係性を作っていただいた伊藤さんには本当に感謝しています

伊藤「当社はもともとCCTVとは異なる領域のニッチトップとしてモリテックスに投資したので、提案された時の衝撃はまだ覚えています(笑)。その時に技術的な説明を受けましたが、顧客のニーズが技術者にしっかりと伝わり、それをどういった形で提供するかというイメージがすでに完成していました。これがモリテックスのすごい所です。

 ファンドの目線では、既存事業の見直しで10%のEBITDAを出して2~3年で売却すればある程度のリターンは出せますから、こうしたお話を断るファンドもあると思います。逆にモリテックスもハイエンドのCCTVレンズにチャンスがあると考えても、普通はファンドの手を離れてから取り掛かると思います。お互いにそうはならなかったのが良い結果を生みました

エグジットで全ての関係者が「ハッピー」に

―― エグジットについてはいつから、どのような議論があったのですか。

伊藤「本格的な成長が始まった後の2018年頃からエグジットに関するディスカッションは始めていました。ただ、この時期は成長の起爆剤が次々と生まれて将来に対する期待が大きかったのと、外部環境では米中貿易摩擦が激化していった時期なので、エグジットは急がずに当面は地力を高める方針で合意しました」

佐藤「早い段階でそのような話ができていたので、経営でもどのようなステップを踏んでいけば良いのかが常に分かっていました。これがなければ、その後のLiDARや自動運転分野への挑戦は難しかったと思います。伊藤さんたちがスポンサーの間はエグジットへの不安や距離感を感じることはなかったですね」

―― その後、2023年8月に米国コグネックスコーポレーションにモリテックスの全株式を譲渡しています。何がエグジットの決め手になったのでしょうか。

伊藤「タイミングについてはコロナ禍も収束していたので特に議論はありませんでしたが、手法については様々な議論がありました。大きな選択肢としては再上場するか否かがありますし、他社への譲渡を考えた場合、当社がこれまでに実施したエグジットは日本企業によるM&Aが大半なので、そちらの方が進めやすさもありました。

 しかし、モリテックスの事業領域が拡大する中で市場は海外に移っていますし、顧客にトータルソリューションを提供するために海外企業と組んで開発するニーズが増していました。こうした理由から、グローバル体制の構築につながるエグジットこそがモリテックスのさらなる価値を生み出すと考え、海外企業にも積極的に打診を行いました。

 エグジット先に決まったコグネックスコーポレーションは、モリテックスとは同じマシンビジョン業界のグローバル企業です。私が彼らを選んで良かったと感じたのは、同社には豊富なM&A経験があり、モリテックスのような高い技術を持つ企業をグループに取り込む際に細心の注意を払う必要があることを最初から理解していたことです。経営幹部からはどのような体制にすればシナジーを生み出せるか、事前に多くの質問を受けましたし、こちらの意見も柔軟に取り入れてくれました

―― 佐藤さんはモリテックスに加えコグネックス日本法人の代表も務めています。両方の立場からこのエグジットをどのように評価していますか。

佐藤「コグネックスとしては、従来他社から調達していた照明やレンズのパーツを内製化できるメリットがありますし、この分野ではトップと評されるモリテックスがグループに入ったことでシナジーが期待できます。

 モリテックスの立場では、ショット時代は本体と組織が分かれていたので、切り離されてしまうことへの不安が常にありました。その点、コグネックスではすでにグループに不可欠なメンバーとして扱ってくれていますからそうした不安感はありませんし、従業員が存分に力を発揮できる環境も整っています。コグネックスとモリテックスの両方にとってWin-Winの結果になったと感じています。

 また、モリテックスのM&A後もグローバルの経営陣は伊藤さんとコミュニケーションを続けていますから、関わった全員がハッピーになれた案件ではないでしょうか

伊藤「譲渡先企業の方々に、継続的なコミュニケーションを取りたいと思っていただける案件にできたことは大変誇りに思います。

 M&Aにおいては買収後のPMIが最も難しいので、当社としてもどうやれば統合がうまくいくか、様々なアドバイスをさせていただき、良い形の譲渡につながりました。私たちとしては、そこに大きな価値があり、リターンが結果として付いてきたと考えています。こうした形のM&Aをこれからも続けていきたいと思います

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