第33回『PE業界のDEI推進に向けて』(2024年 年次総会パネルより) | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第33回『PE業界のDEI推進に向けて』(2024年 年次総会パネルより)

はじめに

今回のオンラインコラムは、本年9月の日本プライベート・エクイティ協会の年次総会関連イベント、若手交流会/女性交流会内で開催されたミニパネルディスカッション「PE業界のDEI推進に向けて」についてご紹介します。当協会ESG委員の片柳 淳子 氏をモデレーターに、パネリストとしてMPower Partners Fund L.P.のキャシー 松井 氏とアスパラントグループ㈱の長谷川 奈々 氏、カーライルグループの山田 和広 氏をお招きして、プライベート・エクイティ業界のDEI推進に向けて、主にダイバーシティの重要性と、女性の採用及びキャリア支援の観点から具体的に何をすべきか議論が進められました。

PE業界のDEI推進に向けて

片柳:本日は若手交流会と女性交流会の合同企画として「PE業界のDEI推進に向けて」というテーマでミニパネルを開催します。ご登壇いただくのはMPowerのキャシー松井さん、カーライルの山田さん、アスパラントの長谷川さんです。DEIといっても女性に限らず、若手の躍進であったり、国籍の多様化であったり、幅広い観点で話ができればと思っています。DEIに関してはいろんなところからプレッシャーがありますが、まず「DEIは何のためにやるのか」を皆で腹落ちをしたうえで話を進めたいと思いますので、キャシーさんにトーンセッティングをしていただいてもよろしいでしょうか。


松井:皆さん、こんにちは。MPower Partnersのキャシー松井です。25年前に前職のゴールドマンサックス証券でウーマノミクスというリサーチを出しまして、25年の間に何が変わったのかとよく聞かれます。ご質問に対するお答えは非常にシンプルで、もちろん人権とか平等とかの問題はあるのですが、日本で一番の資源は何かと考えたときに、それは人材であり、労働人口が減ってしまう中で、人材×生産性がGDPを作っています。AIが生産性の改善に寄与するかも知れませんが、AIで全てができるわけではありません。その人材をどこまで生かすことができるか、というのがDEIです。私どものリサーチでは、日本のIPOで2000年から2023年の23年間、女性創業者と男性創業者を分けた場合、もちろん女性創業者は少ないし資金調達額は小さいのですが、上場時の平均時価総額は女性が創業した企業は1.5倍高いのです。実は似たような調査が海外でもあり、PEの投資チームに一人の女性が加わるとIRRが1.5%高くなるという調査もあります。いろいろと数字を使って「これはいいですよ」というのは簡単ですが、ジェンダーだけではなく多様な考え方が入ることでポジティブなリターンにつながるというのは、違ったパースペクティブが加わると、リスク管理だけではなく、新たなイノベーションやアイディアを生み出せる機会になります。質問への回答に戻りますと、まずは人材確保、またそのリテンションのために最も重要なファクターと考えていますので、そのためにDEIをやる、ということです


片柳:チームや組織の力を強くするためにDEIをやっていくべきと我々も思っていますが、自然にはなかなか女性が応募してくれない業界の中で、カーライルは投資チームの2割を女性にした、と伺ったので、カーライルの山田さんから、どんな経緯でこの目標を設定し実際にどう進めたのかお話しいただければと思います。


山田:ありがとうございます。今日のパネルはおじさんひとりで居心地が悪いです(笑)この10年くらい、いかに女性を採用して育成していくかに力を入れてきました。元々意識が高くて自分たちでやりました、と言いたいところですが、2014年15年くらいから、特にヨーロッパ・アメリカ・年金等の投資家が、ESGに加えてDEIに非常に関心を向けており、特に投資をするときにGPでどれくらいダイバーシティが進んでいるか、というところを一つの指標として見始めたという動きがありました。我々カーライルもグローバルにそれに応えていく、となってDEIチームが始まりまして、私が日本でのメンバーになりました。ご存じのように日本の投資チームには当時は女性が1人しかおらず、グローバルでも最も成績が悪いチームでした。これは何とかしないといけないということで、2割、最終的には3割という目標を立ててアクションを取っていきました。当然まず採用をしないといけないわけですよね。採用しようと思って、リクルートのエージェントに話をしたのですが「カーライルは評判が悪い。縦型の男性社会で」というか、そういうイメージがあってですね。まずはイメージチェンジをしないといけない、ということになりました。何が我々の組織の中でそういうイメージに持たれるようになったのか、どういう風に変えていったら皆さんが来ていただけるような組織になるだろう、とそこから始めました。社内でカルチャー委員会をたてて、オープンでコラボティブなカルチャーにしていこうと。組織の各層から一人ずつ参加してもらい、従業員からフィードバックもらって、というところから始めました。そして女性プロフェッショナルの採用強化を始めたのですが、次は採用した女性プロフェッショナルをどうリテンションしていくか、社内でどうキャリアパスを築いていくかが議論になりました。社内はおろか、日本ではPEに女性のシニアはほとんどいない。入ったけど自分の行き先が見えませんとなってしまう。これはグローバルの力を借りようということで、グローバル・チームの方にメンターになっていただき、取り組みを始めたっていうのが本格的DEI推進のきっかけというところです。


片柳:今日は会場にGPの採用担当の方も来ていると思いますが、実際に2割達成するまでにどれくらい時間がかかって、どれくらい大変だったのでしょうか。


山田:5年の目標で始めたものを4年で達成しました。今はたぶん23%になっているのですが、これを三割にしていこうと。次は女性のシニアを育てようと目標を立てました。海外のメンターとともに、女性のプロフェッショナルが何に困っているのかというのをちゃんとマネジメントが理解しないといけないということで、四半期ごとにチェックインをやっています。女性プロフェッショナルと、私と人事が「何に困っているのか」という話をするのですが、みなさん共通に抱えている課題は子育てが多いですね。ご主人との役割分担とか、共働きで、仕事と子育て両立するには部屋が小さいとかいろいろ悩みを抱えていますね。我々がサポートできることと、できないことがあるのですが、まずは会社ができること、サード・パーティーのヘルプで解決できることを取り組んでいます。PE協会にも協力をお願いしている育児サービス、病児保育の取り組みなどがその例です。まずはおじさんが何が問題なのかを理解することが重要です。先ほど控室でも言われたのですが、我々の世代は奥さんのワンオペだったので、育児がどれだけ大変かは全く分かっていない。まずは現状を理解した上で、会社としてサポートできることを着手していく必要があります。


片柳:リアルなお話をありがとうございます。JPEAでは昨年ESG委員会を発足し、業界中での女性の数が少ないということで、GPの女性プロフェッショナルが集まる懇親会を企画しています。毎回70-80名いらっしゃって、お互いに感動しながら喋りまくるのですが、そこで長谷川さんをご紹介いただき、本日ご登壇いただきました。


長谷川:アスパラントの長谷川でございます。私は一昨年に第一子を出産し、今一歳10ヵ月ですが、5か月半くらいの産休育休を経て去年4月に復帰して現場に戻っています。私はなんとなくサバイブして今この場にいるという感じです。さきほど山田さんがおっしゃっていた話につながりますが、会社の中で育児の話とか、仕事と両立するにあたって何が今障害になっていて、例えばミーティングの開催はこの時間を避けてほしいとか、そういう細かい話でもいいんですけれども、そういう話をオープンに会社でできるカルチャーというか、それが許される雰囲気が大事なのかなと思っています。これは女性に限らず、若手の育児に携わっている男性陣の皆さんもそうだと思うんですけれども、そういう話を普段からオープンにしていると、育児に携わってこなかったおじさま方も「育児に携わるとかこんなことが大事なのか」とか、わかってくださる。復帰してから一年半ぐらい経ちますけれども、そういう職場の雰囲気やサポートもあり、なんとかやっていけていると感じております。


片柳:ありがとうございます。ユニゾンでも男性の育休取得を奨励しているのですが、なるべく奥さんが職場復帰するタイミングで一度ワンオペをやってきてくださいとお願いしています。経験者からは「仕事より辛かった」という声もありますが、そのリアリティをみんなで分かち合うことが大事かなと思っています。また男性社員にも家族の予定、保育園の送迎とか今日は風呂当番、とかなるべく見える形でスケジューラーに入れてくださいとお願いしています。そういうのがお互いに見えることで、産休から復帰したメンバーが気兼ねなく家庭の事情を言えるようになるといいなと思っています。

もうひとつ業界での取り組みなのですが、先程キャシーさんから日本ベンチャーキャピタル協会では、いろんな目標を置いた上で管理されていると伺ったので、どんな取り組みをされているのを教えてください。


松井:理事会メンバーの認識としてやはりメンバーシップの多様性を促進すべきという話になりました。理事会及び委員会のメンバーシップの三割を多様化するという目標を置いて、両方達成済みです。もう一つはイベントポリシー。JVCAが主催するイベントでは登壇者を多様なスピーカーにする、女性やLGBTQ、外国籍、障碍者を含めて最低10%、目標20%として、これも一年目から達成できました。理事会全員でびっくりしました。私が思うのは、やればできるんですよ。もちろん反対意見はありました。私の前職のゴールドマンサックスでも同じ議論を繰り返しましたが、何もしない、このまま自然体で待てばパイプラインから上がってきますから、我慢すればいずれなりますよ、って。いや、それは100年以上かかるじゃないですか。目標を設定すること自体は悪いことではない。その目標を達成できなかった場合、なぜ達成できなかったかっていう経緯を分析できますし、インセンティブがすごく大事かなと。理事会の議論はものすごい活発になっています。女性だけではなく若手も理事会メンバーも入れています。昔はずっと業界十年目以上だけだったんですけれども、若手の声も初めて入り、より健全になったかなと思います。決してこれはパーフェクトではないし、まだ問題はありますけれども、新しい方向に向かっているということは健全の動きかなと。


片柳:ありがとうございます。やっぱり目標設定をすると、じゃあ一体どうしようかっていうふうに発想が変わってきますよね。数値目標にはどちらかというと皆さん抵抗があると思いますが、投資先ではKPIの設定をしているので、自分たちのKPIも設定をしていくべきだろうなと思います。では最後に、後進の方へのアドバイスやファンド経営者に向けたアドバイスを一言ずつお願いします。


長谷川:そうですね。これはマネジメント層へのお願いですけれども、やっぱり子育て中はご家庭の事情もバラバラですし、どうしてもいろんなハプニングがあります。仕組みづくりは大変ありがたいですし大事ですけれども、フレキシビリティを持っていただくっていうのは非常に大事かなと思っていまして。お願いするだけじゃなくて、働く側からも、何故それが必要なのかという説明やアピールとかも必要と思うんですが、フレキシビリティがあるとより働きやすくなります。


山田:今日は若手の会ですが、やっぱりトップのコミットメントが一番大事だと思っています。そのためには皆さんからも声を上げていただく。聞く耳を持つリーダーにちゃんと伝えて、会社を変えていく、諦めずにしっかりやっていく、っていうことが大事なんじゃないかなと思います。あとは自分がロールモデルとして後進を育てる。残念ながら本当にシニアの女性があんまりいないので、自分がその先人となって、後ろ姿を見せていくという風に、是非皆さんには思っていただきたいなと思います。


松井:私はよく大企業の方にこの話をするんですけれども、トップのコミットメントも大事ですが、冒頭で申し上げましたように「そもそもこれは何のためにやっているんですか」をはっきりさせる。女性の間からも反対意見が出ますので「これは本当に経済合理性に基づいてやっているのです」という腹落ちが必要です。メンタリングはどっちかっていうと上から下ですが、ダイバーシティではリバースメンターできる機会がいっぱいあります。前職で全然違う部署のLGBTQの方にリバースメンターしてもらい、ものすごい変化につながりました。私はLGBTQの友達はいっぱいいますが、こういう組織で働く辛さ、いろんな場面の辛さには気づかなかった。若手からシニア層へのリバースメンタリングは非常に有効です。また研修は時間はかかるけれども効果があります。男性だけではなく、私たち個々人は皆無意識バイアスを持っているので、研修は効きます。


片柳:自分たちが意思決定者ではないから諦めるというのはあまり生産的ではないので、リバースメンタリングでもアンコンシャスバイアスの是正もやって、自分ゴトとして業界を変えていけたらと思います。本日はお話ありがとうございました。

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