はじめに
今回のオンラインコラムでは、プライベート・エクイティ(PE)業界の様々な女性プロフェッショナルをお迎えし、「PEの変える力で女性活躍推進を!」をテーマに対談いただきました。
<対談者>
三井 麻紀氏 Carlyle Japan Equity Management LLC マネージング ディレクター パートナー 当協会理事
鈴木 良枝氏 株式会社産業革新投資機構 ファンド管理室長 マネージングディレクター
田中 洋子氏 スリーファ株式会社 スーパーバイザー
中野 和美氏 ゆうちょキャピタルパートナーズ株式会社 取締役副社長
林 智子氏 オリックス生命保険株式会社 プライベート・アセット運用部 マネージング・ディレクター
左から(敬称略):中野、鈴木、林、田中、三井
1:国内PEファンドには女性が少ない
三井:カーライルでIRを担当している三井と申します。国内金融機関が本格的にPE投資に取り組み出したのは1990年代後半ですが、当時グローバルにPEや不動産ファンドのプレイスメントを展開していたメリルリンチ証券に在籍しており、国内でも業務拡大したいとの動きでPEの世界へ入りました。国内PE業界夜明け前でしたので、当時は海外大手ファンドを国内大手機関投資家の皆様へ紹介していました。その後2002年にカーライルへ転職し、現在は国内バイアウトだけでなく、多岐に渡るオルタナティブ投資ファンドを国内投資家様へ紹介しています。カーライルの東京オフィスでは2020年よりDEI(ダイバーシティ、エクイティ、&インクルージョン)へ本格的に取り組み始めたのですが、米国バイアウトのチームの半数が女性を含むマイノリティーで、投資先企業の取締役会ダイバーシティが進んでいると、業績に好影響を与えるとのデータに衝撃を覚えたのを今でも覚えています。大手米国バイアウトとして初の女性ヘッドがカーライル社内におり個人的にも親しくしていたので、彼女にもサポートしてもらいながら日本バイアウト共同代表の山田と共に社内DEIを推進し、現在では国内バイアウトチームの25%が女性で、ほぼ全ての投資先取締役会に女性取締役がいます。昨年からPE協会の理事になり、所属するESG委員会で正会員投資先の雇用創出とDEI促進データを集計しましたが、幅広い業務で雇用を創出し、DEI指標は改善しているものの、ファンドから派遣された取締役が大半を締める投資先取締役会では逆にDEI指標は低下しています。
鈴木:産業革新投資機構(JIC)の鈴木と申します。投資家であるLPのミドルバック業務を15年ほどやっております。JICはPEやVC(ベンチャーキャピタル)のファンド投資を通じてリスクマネーを供給し、企業の成長や競争力強化を支援しております。また、JICの投資により民間投資を促すとともに、投資人材の育成や知識共有を積極的に行い、リスクマネーの好循環を創出していくことを目指しております。 海外も含め50近いファンドに投資を行っているのですが、全投資先ファンドに、従業員・キャピタリスト・意思決定者における女性割合をヒアリングしたところ、どの切り口でも海外が国内に比べて女性割合が圧倒的に高く、その差がはっきりしておりました。想定通りといえば想定通りではあります。ただ、海外でも女性の意思決定者は10%台前半にとどまり、女性割合の低さを改めて実感しました。
田中:2002年後半よりメリルリンチ証券にてGloba Private Equity Fund Teamに参加して以来, 2009年にそのグローバル メンバーと独立しMercury Capital Advisor の日本代表としてプレイスメントの仕事を担当してきました。大手から中小型のプライベートエクイティ、プライベートデット、不動産、インフラアセットの世界様々なファンドを国内投資家様に案内してきました。プレイスメントというお仕事を通して日本含め世界のLP, GP, サービスプロバイダー含め全体を見てきました。最初はグローバルチームでも女性はわずかでしたが、時を経て特に2000年後半からは随分と、特にLP、女性の活躍を見ることとなりました。しかし皆さん感じていらっしゃる様に、GP側の女性は特に増えていないように思われます。
中野:証券会社でPE含むオルタナティブ投資関連全般に携わり、その後保険会社に出向してLP、商社に転職後はAMにも従事、2017年にゆうちょ銀行に移ってからは資金運用の高度化・多様化としてPEへの投資を推進する一環でJPインベストメントを設立、そして今は地域へのエクイティ性資金を供給する新たな法人ビジネス(Σビジネス)推進のためにGP業務に関与と様々な立場を経験してきました。ゆうちょ銀行では中堅若手では女性もそれなりにいるのですが、LP、ミドルバック業務あたりが主であって、GPで投資業務に携わるとなるとやはり少ないですよね。ゆうちょ銀行では女性活躍推進にむけた取り組みとして今年女性リーダーネットワークが発足しましたが、今年設立したゆうちょキャピタルパートナーズでも女性を増やすことが課題になっています。
三井:コロナ後、海外の同僚が来日してLP訪問する度に驚くのが、面談出席者が男性だけというケースがかなり減っており、時には女性や外国籍の方が過半を締めることもあるという事実です。米国ナスダックが2021年に上場企業に対して女性や非白人の登用を義務付けましたが、ナスダックのCEOは以前カーライルのCFOだった女性です。米国の同僚はLP訪問する際には同行者を多様なメンバーにしないと面談をしてもらえない先もあるという話も聞きますので、国内GPや投資先の女性を増やすには、ロールモデルとなるシニアな女性の活躍はもちろんのこと、LPの皆様からの声が必要なのかもしれません。
林:オリックス生命は2020年より、純投資目的で国内外のPE、プライベートデット、インフラ、不動産等、プライベート・アセット(PA)ファンドへの投資を本格化したLPです。私はその前年にスターティングメンバーの1人として入社し、社内体制を整えながら、主にPE分野で新規投資を進めています。
PA運用チームは当初は社外採用をベースに、近時は社内異動を加えて構築しています。新興LPにとっては性別にこだわる以前に人材確保自体がチャレンジなのですが、現在、過半が女性となっています。 投資先については、生保会社として長期的な視点で運用していますので、景気サイクルに関わらずファンドレベルのLPネットリターンに一貫性、持続性があることが望ましいです。リターンの再現性のカギの1つが人ですが、外部環境が悪化したビンテージのファンドでも底堅いパフォーマンスを挙げてきた欧米GPのチーム構成や変遷を掘り下げると、ジェンダー以外のファクターでも多様性があり、世の中的にESGが注目されるより以前からカルチャーとしてそうだった、ということがよくあります。
2:過去に比べると女性活躍は進んだ?
鈴木:私はもともと、金融機関の総合職としてキャリアをスタートさせたのですが、総合職を選んだのは、実は地方出身で一般職として応募できなかったからです。当時の金融機関における一般職の条件のひとつに、「自宅から通えること」があったのです。 当時に比べれば、女性の活躍は進んでいるとは思います。ただ、私が管理職になり部長になったときも、女性の部長は1人で、意見を言いづらかったり、やりづらい思いをした経験があります。
田中:私は男女雇用機会均等法前夜の卒業でしたので、自宅通勤はもちろんの事、通勤時間制限60分以内、会社訪問もコネがない限り門前払い、そして25歳で寿退社(死語)を期待されておりました。結果、私は外資系金融機関に参加しました。(外資しか機会がなかったのが実情でした)当時は日本の外資でも、出産後にそっと条件をだされ退社していった先輩もいましたが、2000年に入りあっという間にオフィス環境・条件は変わり、サポート体制はできてきました。また部に営業担当女性私一人であったのに6-7年後には半数近くとなっておりました。日本における外資系会社では日本の企業より少し早く2000年の世紀を超えて女性活用が進んだように思います。最近はコロナの副産物?ではありますが、リモートワークや働き方の多様性が社会として認められてきましたので、女性の活躍する場、時間も確保されてきていると思います。実際、産休で余儀なく一度キャリアを休まなくてはならない女性もいろいろな働き方で参加できる社会に(ようやく)なってきたかと思います。
中野:私はスタートが外資系証券会社でしたが女性フロントは何年振りかの採用でした。あとで「この子は死なない」といったような話だったと聞きましたが、女だからと言われるのは嫌で、がむしゃらに働きました。今は時代も変わって、ゆうちょ銀行では男性社員が普通に育休を取得しています。若手世代では昔採用や昇進その他で差別があったなんて想像もつかないかもしれません。コロナ以降はテレワークも普及して様々な働き方ができるようになり、後押しになっていますよね。
林:私は振り出しが都市銀行で、転職した生保会社で2000年に配属された部署がたまたまPE投資を開始したばかり、というきっかけでPEと出会い、以降、年金、現職の生保会社と、日本のLPがPE投資を新たに始める場面に関わってきました。自社の誰にとっても前例や正解がないタスクが多過ぎて、性別によらず誰もが活躍しなくては困る環境です。
伝統的な日本の金融機関からの転職は、かつては限られていましたが、特にプライベートマーケットでは、グローバルな資金流入が加速する中で増え始め、今では珍しくなくなりました。日本の機関投資家がPEを含むPA運用に力を入れ、経験者の採用を進めてきたこと、これに呼応するように外資系GPやプロフェッショナルサービス等が日本のカバレッジを強化してきたことも関連しています。
女性にも男性にも、若手にも、活躍の機会が広がっていますね。
3:女性はコミュニケーション能力が高い
田中:女性は英語が話せる方が多いため、海外のGPが来たときに、まず投資チームのトップがコメントや質問をしたあと、臆する事なく若い女性がどんどん質問をする場面を見ることが増えたように思います。
中野:英語だけでなく、女性は行間を読むことに長けていて、コミュニケーション能力が高い方が多いと感じています。会議でも女性のコメントの方が鋭く本質を捉えていることも多く、控えめな方も多いですがもっと自信をもって良いのではないかと思っています。
林: LPとしてGPとお会いするときは、双方に有意義な時間になるようインタラクティブなセッションを目指し、チームメンバーにも発言を促しています。
4:ファーストペンギンが必要
中野:ゆうちょキャピタルパートナーズでは取締役副社長を務めることになりました。これまで仕事を通じて沢山の役員の方々にお会いしましたがみなさんすごい方ばかりで自分にできるのか、と思いましたが、よく考えてみたら誰にでも最初はあるわけでして、ポジションが人を育てるとも言いますが、できないとは言わずにチャレンジしてみようと思っています。私の世代はそもそも女性総合職が少ないですが、今の中堅若手世代では女性比率も高くなってますから、女性の比率を上げたい、というよりは、経営の若返りの実現が一番の近道かもしれません。
鈴木:中野さん、取締役副社長ご就任、おめでとうございます!確かに誰にでも最初はありますよね。ポジションが人を育てるというのも、その通りだと思いますが、男性は期待感で昇格するのに対し、女性は実績を出さないと昇格できない印象がありました。私は以前の会社で、部付部長になったとき、もうこれ以上は良いと満足しておりました。その会社では女性で初のポジションでしたし、子育てしながらそこまで到達できたのであれば十分だと。でも、シェリル・サンドバーグの「LEAN IN」を読んで頭を殴られたような衝撃がありました。もっと上を目指せるポジションにいるのに、私が諦めては後の女性の道を断ってしまうのではと。 その後、ラインの部長になることができ責任は重くなりましたが、裁量は増え見える景色がすっかり変わったことに驚きました。無理に背中を押すつもりはないのですが、チャレンジできる女性に諦めてほしくはないと思います。
三井:鈴木さんと同じく私も「LEAN IN」を読み、女性の社会進出が進む米国の話であって、日本では無理と思った自分がいましたが、「女性は会議室で好んで隅の席に座るが、自分を奮い立たせてテーブルの真ん中に座った」という下りだけが不思議と心に残りました。その後多くの書籍に目を通し、一般的に男性よりも女性の方が自信がないと言われ、私自身も能力を過小評価するインポスター症候群であると気づきました。若い頃は面談は私だけ名刺をもらえず、同席する男性の同僚が助け舟を出してくれなかった等の経験も影響していると思います。私は2010年にカーライルのパートナーになり、グローバルに女性パートナーは6名しかいなかったのですが、自分からその話はしませんでした。同僚がプロモーションする際は取引先から胡蝶蘭が届きますが、私が胡蝶蘭を受け取ったのは後にも先にもプレスリリースを読んだ前職で付き合いのあった海外GPからだけです。その社内の女性ネットワーキングに参加する機会が増え、自分の経験を話し、欧米やアジアの同僚や若手女性からポジティブな言葉をもらうことで自信を少しずつ取り戻すことが出来ました。 2020年から社内でDEIを進めるにあたり、自分自身のトラウマをまずは克服し、次世代、そして大学生の娘にも同じ思いをさせないためには自分がリーダーとなることが必要だと腹に決め、行動に移すようにしています。昨年PE協会から理事のお話を頂戴した時も、最初に心によぎったのは実は「私には出来ない、ふさわしくない」でしたが、「私がファーストペンギンになることが必要」と何度も自分に言い聞かせて今に至っています。理事に就任した際、NYにいるカーライルの社長から直筆の祝辞を受け取り励みになると共に、リーダーが発する言葉のパワーを実感しました。
林:日本の金融機関は新卒一斉採用、終身雇用を前提に、数年毎のジョブローテーションを経たゼネラリストを管理職に登用する傾向がありましたが、現在は資産運用部門を含めてジョブ型雇用を導入する社も増えつつあります。ライン長としてステップアップする道と並行して、高度専門人材、スペシャリストとして経験と専門性を磨きながら昇進する道も開けてきました。
田中:皆さんのご意見に納得です。昔から女性はサポート的な役割を期待され、田舎の社会でも「女の子はこうあるべき」と育ってきたので、一歩前に出ないように刷り込まれていました。以前の会社でManaging Directorになった時も、昇進試験(米国大学の応募のように、数名の推薦者、パフォーマンス、エッセー、面接等々時間をかけて準備するものでした)も上司に推薦され準備するようにと言われましたが、「私が?面倒だ」と暫くおいておきました。一方男性はちゃんと手を挙げるのです。「そうか!今までの実績を見てくれではなく、今後の自分のキャリア・将来性をアピールしないと、今後のキャリアのルートを考える又会社側にも知っていただくには大切な事だ」と思いなおし、「私なんぞが」という考えに反省しました。このプロセスは自分を見直すにもとても為になりました。米国人上司には機会をいただいた事に感謝です。皆さんの周りにもちょっとばかり手を差し伸べれば一歩踏み出してみようという女性もいるのかもしれません。
5:女性活躍推進は PEの力で
鈴木:PEに出会ったのは、元上司や元同僚のお誘いによるもので、当初はレポートなどのフォーマットがバラバラだし、数字も合わなかったりで、ミドルバックとしては苦労しましたが、すぐにPEの魅力にとりつかれました。勝ち負けではなく、関係者がみんなWin-Winになれる可能性があるということ、そしてPEの力で世の中を良い方向に変えていける力があることを知ったからです。
林:LPの業務は投資フロント、オペレーション、ミドル機能など幅広く、多様な得意技・特性を有するメンバーのチームワークが欠かせません。性別に関わらず長い期間にわたり専門性を追求し、魅力的なプロフェッショナルから学び、グローバルなリレーションを築き、第一人者として成長する機会があります。興味をもって門をたたいてくださる方が増えることに期待しています。
田中:はい、そうですね。業界に参加した2000年初期、プライベートエクイティと言われるだけあり、情報がとても少なかったです。米国本社のチームにいろいろと教えてもらいながら日本のLP様、GP様と情報交換をしてきました。会えば皆さん集まって情報や知恵を出し合っておりました。海外GPには日本の投資家状況を説明してきました。まだ日本は小さなPE投資国でしたが、なぜこの情報が、対応が日本の投資家には必要なのか話をゆっくりよく聞いてくれていたと思います。 PE参加者皆様そこにはお互いの国・ポジションを超えたリスペクトを感じました。例えば、プライベートエクイティが株式・債券等の証券への投資ではなく投資先ポートフォリオ会社への社員・人への投資、踏み込んだvalue up投資なのであるかと思いました。このように全員参加でプライベートエクイティ投資を通じ最初に鈴木さんがおっしゃていた社会がwin-winになれるのではと感じます。
中野:国内機関投資家のPE投資残高が増えましたが投資先の大半は欧米です。国内にリスクマネーが供給されないから日本の経済が低迷しているのかもしれません。ゆうちょ銀行ではチャレンジングかもしれませんが次期中計以降(26年度以降)にΣビジネスで1兆円規模の投資確約を目標に掲げています。もちろん数字ありきではなく、将来的に国内PE市場が欧米並みに成長することを想定しての数字なのですが、Σすなわち総和とあるとおり、当行が単独で行うということではなく、地域金融機関やGP会社、パートナー企業の皆さんと一緒に、総力を結集して国内市場を作っていけたらいいな、と思っています。日本経済の発展には女性活躍推進も不可欠ですので、PEの変える力で取り組んでいきたいですね。
鈴木:PE業界には、女性の会としてNPel(Nippon PE Ladies)があり、この場にいらっしゃるみなさんはNPelを立ち上げた方、事務局として関わってきた方、アドバイザーとして運営を支えてきた方など、関与の深いメンバーです。昨年15周年記念として、業界の男性もお招きし、約270名ご参加いただく会を開催したのですが、女性の参加者はシニアで上のポジションの方から若手、ワーキングマザーなど幅広く活躍されている印象でした。私がこの仕事を続けてこられた要因の一つとして、NPelの会で、パワフルで素敵な業界の女性陣にお会いするたびに、元気と勇気をいただけたこともあります。事務局は昨年世代交代をしましたが、これからも業界の成長・発展に寄与し、PEの変える力で、女性だけでなく多様な方が活躍できる世界になるような取り組みを、推進していきたいと考えております。
【発言は個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません。】