気が付けば、協会長としての2年間の任期を終えてからもうすぐ1年が経とうとしています。先例に倣い、退任協会長としての所感を述べます。
私の任期は、コロナ禍から徐々に社会が復旧したり新しいあり方に慣れたりする時期と重なり、協会の活動もオンラインから実際に集まって交誼を深めたり議論したりするフォーマットに徐々に重心を戻していく過程でもありました。協会長就任時に、せっかくなのでと当時の正会員の代表の方を個別訪問してご挨拶をしたのですが、多くの会社でリモート勤務体制がとられていて、そのためにわざわざ出社していただいた方が多かったことがありがたく思い出されます。
会長任期(2021年9月~2023年9月)を振り返って
さて、就任時の所信表明で、「協会の活動により多くの人を巻き込む渦の中心としての役割を果たす」と述べた通り、私の任期中には本当に多くの方に厚かましくも多くの新しい役割をお願いしてきました。プライベート・エクイティのように小さな業界の団体は、いわば駅前商店会のようなもの。互いに同じアーケードに軒を並べて競いつつ商売をしている店主たちが、商店会全体の振興のために集まっているのが理事会。そこでは同じ問題意識を持つ顔見知り同士ならではのざっくばらんな議論が毎回交わされます。提案される新しい活動内容は多岐にわたり、各委員会がそれを引き取って展開していきます。
会員拡大・交流委員会の馬力はすさまじく、2年間で正会員・賛助会員が89社から160社を超えるまでになりました。そのおかげで、協会の財政基盤は充実し、活動の幅を大きく広げることができています。
ナレッジシェアリング委員会が運営するオンライン勉強会は月例化し、外部講師として有名企業の経営者の方々に登壇いただく企画も加わって、取り扱うテーマの幅が一段と広がっています。さらに協会外の企業経営者等の方々にも視聴の機会を開き、毎回100人規模の参加を得ています。新しい企画である法務実務研修では、正会員24社から参加した若手投資プロフェッショナルたちが迫真の模擬交渉に臨みました。
PR委員会では、JPEAアウォード受賞案件インタビュー、オンラインコラム(本稿もそのひとつです)など、充実した協会オリジナルコンテンツをホームページで広く発信しています。ニュースレターも年2回の定期刊行となり、巻頭言の執筆に追われることが協会長の仕事に加わりました。
新設したESG委員会では、執行部として初めて女性委員が3名参加しています。新たに正会員34社の協力を得て、投資先企業の雇用データの集計を行いました。そこでは278社で24万人以上が働き、投資後に人数が増えていること、全社員・管理職ベースのいずれにおいても投資後に女性比率が増えている姿が見えてきました。また、プライベート・エクイティ業界における女性のいっそうの活躍を推進する取り組みの嚆矢として、GP/LP双方から女性プロフェッショナルが集う初の懇親会を開催しました。
国連のPRI(責任投資原則)in Personというイベントが2023年10月、東京で初めて開催されることになりました。それに合わせ、世界中から参加する投資家の方たちに日本のPE業界としてのESGへの取り組みを知ってもらうべく、PRIとのコラボレーションイベントを開催しました。
毎年9月には年次総会を開催していますが、拡大した会員ベースを反映して、その規模も大きくなりました。22年からは新しくパネルディスカッションを実施しています。初回は『日本のPEビジネスのこれから』『PE投資におけるESGの潮流』(オンラインコラム第19回~21回)、翌年には『女性プロフェッショナルの活躍推進』『PEガバナンスの射程』オンラインコラム第27回、第28回)。当業界ならではの強いキャラクター揃いの登壇者の間で相互に触発されて展開される迫力ある議論が面白くないはずがなく、自画自賛要素を差し引いても、聴衆を魅了し、刺激したことは間違いありません。
このような形で、多彩な活動が自律的に展開されている現状は、少し前には想像もできなかったことですが、各委員会を中心に精力的に協会のための仕事を引き受けてくださった方々には本当に感謝しています。
事務局長のこと
在任中は、多士済々の業界をまとめて引っ張っていく協会長の仕事はさぞかし大変でしょうと多くの方々に労われたのですが、これだけ自律運転モードになった協会の日々の活動を牽引すること自体は、大変さよりも面白さが勝っていたように思います(退任した立場からの感覚値なので現会長は同意しないと思われますが)。それよりも、こうした協会の活動全体に、しかも協会長と異なり細部まで目配りをし、一部の隙も無く多岐にわたり同時多発する事象を調整し、前に進める要の役割は事務局長が担っています。
事務局長は協会長社から任命され、任期中は大きなことから小さなことまであらゆる協会の仕事を差配します。協会長になることは、自社の将来有望な中核人材を、本来の重要かつ多忙な職務に大きな負荷を純増する形で2年間差し出すことを意味します。これが協会長を引き受ける際に覚悟を決めなければならない、経営者としての最大の試練です。私の場合には頼りにしているディレクターが二つ返事でこの役割を引き受けてくれた(すがるような思いの当時の私にはそう見えた)ので、自信を持って協会長の任に当たることができました。
事務局長の任務は大変です。一方、日頃接する機会のない同業他社の経営者と日常的にコミュニケーションをとり(人となりがだんだん見えてきます)、業界全体としての問題意識に接し、他社の様々な職種のスタッフと共同で幅広い仕事に取組み、ベンチャーキャピタル協会や金融庁・経済産業省、メディアなどとも業界を代表する立場で関わることは、プライベート・エクイティ業界に身を置くものとして、これ以上ない貴重な学びの機会であり、キャリアとしても貴重なステップとなることは間違いありません。2005年に当協会が発足した際の初代事務局長である私が言うのですから間違いありません。
そろそろ現体制での折り返し地点が見えてきてお疲れの出てきたはずのこの時期、現事務局長への限りない敬意とエールを込めて。そしてこれからの事務局長が当業界の有為の人材がこぞって目指す立場となることを願って。
著者プロフィール
林 竜也
ユニゾン・キャピタル株式会社 代表取締役
ヘルスケア、コンシューマー関連ビジネス等、幅広い分野への投資経験を有する。日本プライベート・エクィティ協会会長(2021-2023)。以前は、ゴールドマン・サックス証券にて投資銀行業務に従事。