第30回 GP主導のセカンダリー / Continuation Fund | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第30回 GP主導のセカンダリー / Continuation Fund

シンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所 パートナー アザキュー・デビッド (David Azcue)


1. GP 主導セカンダリトランザクション(「GP led secondary transactions」)とは何でしょうか? そして、どのような場合に有効でしょうか?

「GP主導セカンダリー・トランザクション」とは、プライベート・エクイティ・ファンドのファンド・マネージャー又はスポンサー(つまり、「GP」)による流動化(「Liquidity」)を指す包括的な用語です。典型的な場合、GPが運営しているファンドのポートフォリオ企業[1]を、自らが新たに設立した継続ファンド (「CF」) に売却し、新たな投資家がそのCFの有限責任組合員(LP)となる取引です。売却されるポートフォリオ企業は一つ又は複数の場合があり、また、売却側ファンドの既存の投資家もCFにLPとして参加するオプション(いわゆる「ロールオーバー権」)も与えられます。[2]

GP主導セカンダリー取引は、GPにとって魅力的な点がいくつかあります。典型例は、運営しているファンドの存続期限が近づいているにも関わらず、何らかの理由でポートフォリオ企業を最適な条件で譲渡することができないという時です。このような場合、一旦ポートフォリオ企業をCFに売却し、後により良い条件での売却を試みることができるようになります。ポートフォリオ企業は出口の機が熟していない、又はそのポートフォリオ企業の価値を向上させるため更なる時間が必要なケース、例えば、新型コロナウイルスなどの状況です。 GPとしてポートフォリオ企業の拡大や収益向上を支援する計画を立てていたものの、コロナ禍により企業を存続を優先させその計画を中止しなければならなかったかというような場合、GP は価値向上をまだ実現できると感じていても、ファンドの期間終了が近づき、それを効果的に実行する時間がない可能性があります。価値向上完了前に企業を売却することは、企業にとってもファンドの投資家にとっても最良の結果ではありません。このような場合、ポートフォリオ企業をCFに売却することにより、GPは価値向上の取り組みを継続し、最終的にはファンド期間内での譲渡と比べてより高い価格で企業の売却を達成する為に必要な時間を得ることができます。

価値向上を完了するために多くの時間を得ることだけがGP 主導のセカンダリートランザクションを選ぶ唯一の理由ではありません。他には、ファンドのポートフォリオ企業の 1 つ以上でいわゆる「バイ・アンド・ビルド戦略」[3]を実行しようとすることや、2 つ以上のポートフォリオ企業を合併し、その合併したポートフォリオ企業が既存のファンドが保持できる限度を超えて(例:既存ファンドの投資ガイドラインの集中制限を超える)大きな企業になることで相乗効果を生み出す機会を作るというのも理由となりえます。)

既存ファンドのLPがポートフォリオ企業の譲渡価値を最大化するというGPの計画を信頼したら、そのLPは継続ファンドへロールオーバーすることを選ぶだろうと思われるかもしれませんが、そうならない場合も多くあります。LPが資産(ポートフォリオ企業)を CF に移すことでその価値が解放され、より良い高い値段でエグジットが可能になることを信じたとしても、LPは流動性を優先し、速やかなエグジットすることを優先する場合などです。

譲渡されるポートフォリオ企業の購入に資金を提供してくれる新しい投資家を見つける必要が生じ得ます。こうした新たな投資家は「セカンダリー投資家」または「セカンダリーバイヤー」と呼ばれます。セカンダリーバイヤーは、売手のファンドやそのポートフォリオ企業について深い理解があるわけでは必ずしもないため、一般的にはその譲渡されるポートフォリオ企業の適切な価格を解明するため、そのポートフォリオ企業に対して広範なデューデリジェンスを実施して、その譲渡取引に関して通常のM&Aの買主としてアプローチします。

[1] この記事はバイアウトファンドに焦点をするため、ここでは「ポートフォリオ企業」を指します。 但し、他の資産の種類も GP主導セカンダリー取引の対象となる場合があります。 その場合、譲渡される対象は「ポートフォリオ企業」ではなくただ「資産」と呼ばれます。
[2] Pitchbookによると、2022年にこのようなCFを設立した形の取引は全GP主導セカンダリー取引の約80%以上を占めています。
[3] 規模の拡大や競争力を高めるために、同じ業界又は関連業界の他の企業を買収し統合していくことで企業価値を高める投資戦略

2. GP 主導セカンダリ トランザクションに於いて、GPは売手と買手として取引の両側にいます。その利益相反は既存(売手)ファンドのLPとセカンダリーバイヤーにどのような影響を及ぼすでしょう? そして、GPはその利益相反をどのように解決できるでしょうか?

既存(売手)ファンドのLPの利益は、ポートフォリオ企業の売却により最大な価格を実現することです。他方、CFのLP(つまり、とセカンダリーバイヤー)の利益は、ポートフォリオ企業をより安い価格で買収することです。その売手側と買手側の競争利益により、売手と買手両方にも、取引の公平性が実現されます。

しかし、取引の両側に買手と売手がいるだけでは、通常、価格が妥当で取引が公正であることを双方に完全に満足させるには十分ではなく、一般的にはさらなる対応が求められます。

売手側では、GPが主導セカンダリ トランザクションを実施するのに、通常、既存(売手)ファンドのLPA上によりLPの同意が求められています。そして、LPに取引に同意してもらうために、(A)セカンダリーバイヤーを特定するための徹底的、競争的なプロセスが実施されている、(B)公正意見「fairness opinion」や独立な評価者「independent appraiser」によるポートフォリオ企業の譲渡する予定の価格が公正であるという客観的な証拠がある、そして(C)LPにポートフォリオ企業の売却から現金を得るか(「cash out option」)、又は売却で得た収益をCFに再投資する(「roll-over option」)の選択肢が与えられる、この三つのうち少なくとも複数が同意の条件となることが多いです。

(A)セカンダリーバイヤーを特定するためのプロセス

通常、徹底的、競争的なプロセスを行うため、セカンダリトランザクションに関心を募る為にプレースメント・エージェント(「placement agent」)が活用されます。有能なプレースメント・エージェントは、セカンダリーバイヤーの候補者から関心を募り、ポートフォリオ企業と該当取引について事前のデュー・デリジェンスをサポートし、候補者から提案の投資条件を定めるタームシート(「term sheet」)を回収します。GPはその候補者の中からとセカンダリーバイヤーを選びます。セカンダリーバイヤーが決められてから、GPとセカンダリーバイヤーはより詳細にCFがポートフォリオ企業を買収する条件を交渉し、CFのLPA及びサイドレター(「side letter」)を交渉します。

(B)公正意見と独立な評価者の価値の検定

近年、GP主導セカンダリートランザクションで譲渡される資産の価格が、独立した鑑定会社により評価され、取引のフェアネス・オピニオン(つまり、取引の公正意見)が発行されることが一般的になりつつあります。実際、1940年米国投資顧問法に基づき、登録済投資顧問(「Registered Investment Advisers」)は、原則としてGP主導セカンダリの取引に公正意見を取得することが義務付けています。日本に特化したファンドであっても、GPがフェアネス・オピニオン「fairness opinion」を取得することは現在では比較的容易であり、日本でも評価者が投資先企業の評価を提供することは現実的です。譲渡される資産の価格に関するこの種の客観的な証拠は、セカンダリーバイヤー候補者との価格交渉の根拠とすることができ、売手ファンドのLPに取引が公正であることを納得させる役割を担います。

(C)LPのcash outとroll-over option

ロールオーバーオプションは、LPに選択肢を与えることで、根本的な利益相反を軽減する効果的な方法となり得ます。LPが価格は公正だと考える場合、CFへの資産売却による現金収入の按分を受け取ることが選択できます。もしLPが価格は低過ぎると思う場合には、売却で得た収益をCFに再投資することにより、CFが最終的に資産を売却する際の資産の価値向上(又は低下)として受け取ることを選択できます。

時折生じる課題の1つとして、セカンダリーバイヤーがCFに投資する必要最低額があります。セカンダリーバイヤーの必要最低額が大き過ぎ、他の投資家が投資できる金額が不十分になる場合があります。つまり、全ての(あるいは大部分の)LPがロールオーバーすることを選択したら、受け取る現金収入の全てを再投資できない場合です。実際にロールオーバーするLPの数は少ない傾向にありますが、上記のような状況によっては利益相反に対するロールオーバーオプションの緩和効果が弱まる可能性があることに留意が必要です。

3. セカンダリーバイヤーは、通常、CF に譲渡される資産に関してどのような権利を取得することがありますか?

セカンダリーバイヤーはGP 主導セカンダリートランザクションについてM&Aの買主としてアプローチします。従って、セカンダリーバイヤーは、第三者が管理する資産への共同投資に関連してM&A買手が求める典型的な権利を求めることになります。つまり、セカンダリーバイヤーが通常求めるのは、例えば、(A)売買契約(「PSA」)に於いての表明と保証、(B)財産の購入に関わる除外された義務、(C)GPとスポンサーなどから、売手ファンド及びその他の関係者がクレームに対する補償、(D)タグアンドドラッグ権利(「tag and drag rights」)を含む、希薄化防止の権利(「anti-dilution rights」)、(E)終了の条件に関する権利、(F)セカンダリーバイヤーが受け入れられる経費の割り当て等があります。

4. GPセカンダリーの取引は最近世界に普及しているのに、なぜ日本ではまだそんなに普及していないでしょうか?

GP主導セカンダリーの取引は、世界で最も急速に成長しているオルタナティブ資産クラスであります。新型コロナウイルス感染症後、世界のインフレ、PE比率の上昇、全体的な流動性不足により、ここ数年間、エグジット環境が困難になりました。そして、PEファンドのGPがポートフォリオ企業を継続保有して価値を高め続けたいと考える一方で、LPに対してより大きな流動性を提供しようとしているため、GP主導セカンダリーの取引高は過去5年間で約5倍に増加しました。

他の先進国に比べて、日本のインフレ率は割と低く、日本の上場会社のPE比率も相対的に低いままです。一方、東京証券取引所での新株発行とM&A件数の増加により、PE ファンドのGPには、他の国のGPより多くのエグジットの選択肢があるため、日本は他の国よりも流動性が高い状況です。つまり、世界の他の国々で GP主導セカンダリー取引を推進する主な要因は、日本においては、現在のところそれほど顕著ではありません。

また、GP主導セカンダリー取引は日本では比較的目新しいものであるということも一要因かもしれません。

しかし、恐らく、最大の理由は、日本の税制と関連規制面でのハードルだろうと思われます。日本の税務規則、特にいわゆる「25/5%ルール」は、GP主導セカンダリー取引を税務上最適化した方法で取引をストラクチャーするのに、大きな障害となっているでしょう。25/5%ルールに基づき、外国の投資家は、その投資家の特殊関係のある株主(「specially related shareholders」)と合わせて日本の投資先企業の株式の25%以上を所有するとみなされると、ある特定期間以内にその投資先企業の株式の5%以上を譲渡した場合には、日本のキャピタルゲイン税の課税対象となります。セカンダリーバイヤーが通常にCFを通じて日本のポートフォリオ企業の25%以上を取得することで、25/5%ルールにより、その日本のポートフォリオ企業が譲渡される際のキャピタルゲイン税の課税対象となり得ます。

外国法人の投資家は租税条約によるキャピタルゲイン税の軽減・免除を受けることも可能で、「事業譲渡類似課税の特例」により免除を受けることも可能ですが、その対策には限界があります。つまり、日本との租税条約がある国は限られて、投資家がよく使うケイマンとシンガポールなどの管轄はそのような租税条約がありません。しかも、租税条約の改正可能性も否定できません。そして、「事業譲渡類似課税の特例」の免除を満たすのに外国法人の投資家の持ち分はとにかく25%以下ではないと適用不可能になります。持ち分は25%以下にストラクチャーリングができても、ある日本の税理士によると、セカンダリーバイヤーが通常に求める典型的な権利(特に、タグアンドドラッグ権利と希薄化防止の権利)は事業譲渡類似課税の特例に適用不可能となるリスクがあると思われます。そのリスクは最小限に抑えることができますが、そうすることは負担がかかり、コストがかかる可能性があり、最終的には一方の当事者(つまり、GP又セカンダリーバイヤー)がそのリスクを負うことになるでしょう。さらに、セカンダリーバイヤーが必要とする典型的なタグアンドドラッグ権利は、日本の特定の企業形態で有効にするのが難しい場合があるため、これがさらなる課題を引き起こす可能性があります。

このハードルを越える新しいストラクチャーを構築することは可能かもしれませんが、現在のところ、日本の税制と関連規制はGP主導セカンダリ取引―に引き続き大きな課題となる可能性があります。

それにも関わらず、ファンド期間終了頃の流動性とファンドの継続(例えばCF)のオプションを求める日本のGPにとっては、他のセカンダリー取引・流動性ソリューションも検討可能です。例えば、セカンダリーバイヤーは一つのリード・バイヤーではなく、複数のバイヤーを勧誘します。そして、ポートフォリオ企業に対する各バイヤーの持ち分が 25%未満の場合、取引に対するバイヤーのアプローチはM&A 買い手というよりも、共同投資するLPに近くなるでしょう。さらに、25/5 ルールにまつわるリスクも大幅に軽減できます。


著者プロフィール

アザキュー・デビッド (David Azcue)
シンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所 パートナー

David Azcue (アザキュー・デビッド)はシンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所のパートナーであり、外国法事務弁護士(米国ニューヨーク州)の資格を有しています。この記事は日本の法律上又は税務上のアドバイスを構成するものではありません。 日本法に関する情報やアドバイスが必要な方は、日本の弁護士にご相談ください。 日本の税法に関する情報やアドバイスが必要な方は、日本の税理士にご相談ください。
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