第28回『女性プロフェッショナルの活躍推進』(2023年 年次総会パネルより) | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第28回『女性プロフェッショナルの活躍推進』(2023年 年次総会パネルより)

はじめに

今回のオンラインコラムは、昨年9月の日本プライベート・エクイティ協会の年次総会で行われたパネルディスカッションから、第二部の「女性プロフェッショナルの活躍推進」についてご紹介いたします。当協会ESG委員の片柳 淳子氏をモデレーターに、パネリストとして女性プロフェッショナルとして、プライベート・エクイティ業界に深く携わっておられる、コトラ 代表取締役 大西 利佳子氏、インテグラル パートナー 二井矢 聡子氏、産業革新投資機構 ファンド投資室長 秦 由佳氏のお三方をお招きして、プライベート・エクイティ業界における女性の活躍推進が実現する多様性の価値をどのように具現化するかについて議論を深めていきました。

女性プロフェッショナルの活躍推進

片柳:皆さま、こんにちは、ユニゾンキャピタルの片柳です。お忙しいところ、大勢お集まりいただきましてありがとうございます。2つ目のパネルは、ESG委員会主催で、「女性プロフェッショナルの活躍推進に向けて」と題して始めたいと思います。今年の初めにESG委員会が発足し、その初年度の仕事として、多数の正会員の皆様のご協力を得ましてESGの雇用統計という調査をやってみました。まず、冒頭にその概要について、ご説明をさせていただきます。

1つ目、PE業界が全体でどれだけの雇用を生んでいるのかということで、統計によると、24万人を超える雇用を生んでおります。参画いただいたGPさんは、正会員約60社中34社だったので実際にはもっと多いと思いますが、これだけ多くの雇用を生んでおり、なおかつプラスに変化をしているということが無事に確認できました。
2つ目、投資先の多様性の確保、DEIの推進がちゃんと投資期間中に前向きに進んでいるのか、ということも確認しました。無事に全従業員においても、管理職数においても前向きな変化が見られます。ただし、政府目標である、例えば管理職で女性3割というのは、まだまだ遠いところにあります。我々は組織に変化を起こすというのがある意味本業ですから、コントロールを持つ投資家として腰を据えて、責任を持って前向きな変化を促していきたいと思います。この統計は毎年取って、ゴールが見えるようにして行きたいと思いますので、皆さまぜひご協力をお願いいたします。
ここまでは想定の範囲だったんですが、もう1つデータが出てきています。ボードのダイバーシティで、これは逆に低下をしておりました。何故かと思って裏のデータを確認したところ、やはりGP派遣の取締役が過半数を取る、というガバナンスをとっているファンドがほとんどですので、そうするとGP側から送り出す人に男性が多いということがあり、却ってこの点はダイバーシティを引き下げる結果になっています。これは大変問題で、どうしたら業界として、より多様性を確保した形で仕事がしていけるだろうかという問題意識で、今日はこのパネルを皆さんにご協力いただいて始めたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、自己紹介をお願い致します。


大西:コトラの大西でございます。私は大学を卒業した後に長銀に入行しました。長銀はその後破綻をしたので、そのプロセスの中で人材ビジネスを志しました。長銀というのは変わらなければならなかったけれども、なかなか変わることができないように私には見えていましたが、人が変わった瞬間に組織が変わりました。その経験を通じて、組織が変わるというのは人材だなと思いまして人材ビジネスを起業し、今21年になります。最初に始めたのが長銀の流れもありましたので、プライベート・エクイティないしは不動産ファンドの投資ファンドのプロフェッショナルを対象とした人材紹介の事業でした。ここにいらっしゃる皆様には大変お世話になって20年経ったというところでございます。今、私もプロ向けの人材紹介というのを長らくやっておりますが、その中でも女性に対して、組織に対して色々課題感を持っておりますので、今日はいろいろ議論できたらと思っております。


二井矢:二井矢聡子と申します。インテグラルのパートナーをやっておりまして、またインテグラルにおけるESGプロジェクト室の室長を務めております。私は1994年に弁護士登録を致しまして、今の森・濱田松本、当時の森総合法律事務所に入所しまして15年ぐらい所属し、その後独立しました。駆け出しの弁護士の頃から、実はインテグラルの創業メンバーである佐山氏や山本氏とはM&Aの分野でリーガルカウンセルとして一緒に仕事をさせていただいておりまして、そのご縁あって2015年にインテグラルに入社させていただきました。やはりM&Aというものをロイヤーの立場でやるのと、PEの立場でやるのでは全く面白さが違います。本当に社会に変革をもたらすという意味で、PEは、圧倒的に面白い仕事だなということを、外からいつも見させていただいておりましたので、そのようなチャンスをちょうど子育てが一段落ついたぐらいのタイミングでいただいたということで、ジャンプインして、そこで今8年ぐらいが経過しているところでございます。


:JICの秦と申します。政府系のファンドでファンド投資室長を務めております。このフロアにいらっしゃる方で私のことを知っている方も知らない方もおられるかと思いますが、LP投資を始めて20年経ち、長くこの業界に属しております。私は新卒の時PE、LP投資というよりベンチャーキャピタリストになりたかったのですが、当時ベンチャーキャピタリストの名前も知られてない時に私はシリコンバレーに憧れを持ち、キャピタリストになりたいと思い、JAFCOという会社に入社しました。その時私がイメージしていた世界との違いを感じる中でキャピタリストの夢を諦めて、外資系の投資顧問に転職しました。そこで外資系の世界を経験し、最終的に日系のゲートキーパーというポジションでLP投資を長年行って参りました。直近では2020年7月にJICに参画しLP投資を行ってきた中で、日本の本来の底力が産業やスタートアップの世界でまだまだ充分に発揮されていないのではないかと感じています。私自身も子どもができて、その子どもの未来を考えた時に、プライベート・エクイティ、それからVCの業界は本当に日本の産業を変えていけるのではないか、という思いが強くありまして、このような立場で仕事をいたしております。


片柳:今日会場にいらっしゃっている方は議題が議題なので、比較的女性の集まりがいいのかなと思いますが、確かに私はアソシエイトから17年間プライベート・エクイティの業界にいるんですが、男性ばっかりなんですよね。今期の改選でようやくプライベート・エクイティ協会のいわば幹部のところに、初めての女性の理事としてカーライルの三井さんが入られ、初めての女性の監事にも岡さんが入られましたが、どうしてこんなに男女比のバランスが悪い業界なのか、というのは結構不思議に思っておりました。ところが先日、ESG委員会の企画でGPの女性プロフェッショナルで集まってみようかという懇親会を開催しましたら、かなり盛況で70人近くの方が来てくださって、業界としても少しずつ変化の兆しが見えてきているのかなという気がしております。
本日はまず、何が業界としてボトルネックになっていて、今までどんなことをやってきて、うまく行っていたりうまく行っていなかったりしたのかという話をできればと思うんですが、まず二井矢さん、インテグラルには8人中2人女性パートナーがいらっしゃるので、むしろ成功事例だというふうに拝見しているんですが、いかがでしょうか。


二井矢:よく先行事例だって言われるんですよね。しかしながらこれは本当に先行事例と言えるかどうか、今日のところは正直にお話しをさせていただきたいなと思うところなんです。確かにインテグラルは今8名のパートナーがおりまして、2名が女性でございます。私とあとは早瀬という者がいて25%という割合で、これをもってして私どもは今日もここにいらっしゃるLPの皆様にも、そして各方面のセミナーでもうちはダイバーシティがすごいんですよというふうに申し上げているところではございます。しかしながらよくよく中身を見ると、コントローラー室、これはバックオフィスの方なんですけれども、ここの管理職に関しては、女性の人数が半分に迫ろうというところまで来ているんですけれども、投資プロ、インテグラルは割と大所帯で、今36人の投資プロがおりますけれども、その中で女性は何人いると思いますか?答えは1人です。しかもその1人はまだアソシエイトのレベルでございまして、これから管理職の階段を上がっていくのにしばらく時間がかかるという状況で、本当にこれはもう厳しい。本当にこれはなんとかしなきゃいけない。というようにみんな頭を抱えているというのが現状でございます。

おそらくここに今日いらして頂いている方は、山本礼二郎や佐山展生を知っている方もいらっしゃると思うんですけども、非常に平等の精神に長けているものでございまして、一切男性だとか女性だとか、どんな信条だとか国籍だとか、そういうことにとらわれるような人間ではないです。多分、これはもう山本、佐山、インテグラルだけではなくて、今日の蓑田さん、安達さんのようなPEを卒業された方のお話を聞いても、一切そういうものがなくて、すごく先進的なお考えを持った方々であるにもかかわらず、なぜ少ないのか、ということをよく考えます。この問題は、旧態依然とした組織に対抗して、それを打ち砕いて女性を増やすぞとかという問題ではないような気がするんです。しっかりと女性が希望して頑張って働けば、しっかり人数が増えてくるのかなというようにも考えられるんじゃないかと、私は割と楽観的に思っております。何が問題かというと、まずその入口のところであまりにも女性応募者の絶対数が少ないというところだと思います。この辺は大西さんのほうから、より詳しい説明を頂けると思うんですけれども、まず中途採用というのが原則で、その中途採用の面談の担当者も私はやっていて、書類選考で女性はお願いだから落とさないで、というようにお願いして通してもらっているんですけど、その数すら非常に少ない。そしてパートナーひとりひとりと1時間ずつ議論して決めるんですけれども、結局やはり最後まで残る人というのは、別に差別しているわけでもなんでもないんですけども、自然に少なくなってしまう。まずはこの絶対数を上げていかないと話にならないというように思います。私も早瀬も女性のキャリアセミナーとかに出て、お話をするようにはしているんですけども、やはりこれでは足りない。やはり個別の会社でやるのではなくて、PE協会や業界として団体として一致団結して、みんなこの仕事を魅力的だと思っているわけですから、それをやはり外にアピールして行って、学生さんなり、就職したての若い人なり女性でも男性でもいいんですけれども、もっともっと知ってもらうことが必要かなというふうに思っております。

そして第二段階目の問題として、数少ないその入っていただいた女性も、実は過去において、残念ながら1人辞め、2人辞めということになって、今1人になってしまっているという状況なんですけれども、そのリテンションのところの問題で、ここは別に女性だからということはほとんど無くて、お辞めになる方もみんな、「すごいインテグラルのことが好きだったんだけど」というふうにおっしゃるんです。ここは、今日私自身がご意見をいただきたいところなんですけれども、中途採用で30歳前後で入ってきて、新しい環境で新しい仕事、新しい人間関係という中で、特に30代から40代の女性はむちゃくちゃ忙しい中で、私自身もつい調子に乗って4人ぐらい子どもを産んでしまったんですけれども、そういう中で何故できたかというと、やはり駆け出しの弁護士の時に非常にどっぷり浸かって仕事をやって、その時に仕事をよく覚えたし、人間関係もしっかりと作ったというところが、やはり今でもそこが一生の人間関係として続いているというところがありまして、当時一緒に仕事させていただいていた林さんも先日十年以上ぶりでお会いしたんですけど、やはりすごい親しみを感じちゃったのは私だけでしょうか(笑)。やはり、そういった環境を作る期間が短いかな、という感じはしています。もしもう少しどっぷり浸かって人間的なチームを作れば、その後すごく忙しい時を迎えて仕事をできる時間が少なくなった時でもチームがあるんだからチームに甘えて、でもチームの誰かが助けを求めている時には自分もそれに貢献するという環境ができるので、きつくなってきた時も、今は繋ぎ程度しかできないけど辞めないで頑張ろうという気持ちになるんじゃないかなというように思いまして、もう少し若い時に入って来てくださるという方がいてもいいのかなということを検討しているといった状態です。ただ、なんといってもここにいる女性みんなそうですけど、多分男性よりも男性的なところをもってして今までやってきたみたいなところがあるので、本当に若い女性の意見をしっかりと聞きながら、今回片柳さんもそういった形でGPの女性の会を立ち上げていただいて、たくさんの若い方に入っていただきましたので、今後率直に意見交換しながらどうやったら増やせるかというところにチャレンジして行きたいなと思っております。


片柳:応募者が少ないというのは、どこのファンドも抱えてらっしゃる問題だと思うので、大西さんから採用市場とか人材マーケットから見た時に、この業界がどう見えているのかというのを教えていただいてもよろしいでしょうか?


大西:ファンド業界に何故女性が少ないんだ、何故応募が少ないんだ、と言ってもこれはファンド業界に限らず、全会社がそうでございまして、特段ファンド業界だからということではありません。私も何かにつけ女性を連れて来いと言われるわけで、私、慶應大学出身なんですけれども、大学の集まりでもやはりビジネスパーソンが集まるようなところだと、女性が少ない訳なんです。
そもそも慶應はだいたい中学校ですと男女比8:2ぐらい、大学でも7:3ぐらいです。また、大学を卒業する時にビジネス系の学部の女性の割合は、慶應でも30%、東大で19%ぐらいなので、そもそもビジネスの学位を持って社会に出るという人の数がやはり圧倒的に少ないというところからまず入口があります。私の時代はおそらく20%ぐらいだったと思います。仮に学位を持っている人たちが、現在30%ですから、そのまま誰もやめずに管理職になって、ようやくいわゆる政府の言っている7:3という達成目標になるわけでして、これは一業界一会社が取り組むような問題ではないんだろうなと思います。ではこれをどうするのかというのは、いくつか解決策あると思うんですけれども、1つには学位を持って出ている人が少ないのであれば、やはり社会が教育していかなきゃいけないんじゃないかということで、今盛んにリスキリングというのが言われているということではあります。何故そうなっちゃうのか、私も子どもがいてサピックスに行きますと大体男女同じぐらいの成績にもかかわらず、大学になるとそういう比率になるのは何故なのか。これはおそらくアンコンシャス・バイアスみたいなものはあるんだろうなと思います。さっき二井矢さんがおっしゃったように育児のことでもありますけれども、私は子どもを産む時に既に会社をやっていて従業員も何人もいるという状況で、子ども産みますと言うと、じゃあ会社辞めるんだねと言われるんですよね。世の中で最も辞めそうにないステータスの私ですら言われたということで言いますと、世の中の女性たちはどれだけ多くの人たちがそれを言われて来たのかということを感じます。

もう1つ、今日も入口のところで違和感を覚えてらっしゃる方がいるかどうか分かりませんけれども、受付にいらっしゃる人たちは全員女性で、大企業の入口にいくと制服を着た綺麗な若い女性たちがずらっと並んでいる。これにやはり違和感を覚えなければならないかなというように思います。結局のところ、それは男性の問題でもありますし、女性側もそうですけど、自分は女性だから、あの人は女性だからというアンコンシャス・バイアスです。この間も二井矢さんと話していたんですけれども、子どもを持って働く人達というのは、我々の世代は特に非常に罪悪感を植え付けられるような言葉を結構かけられています。私なんかはちょっとはねっかえりですぐに論破に入ったので、特にダメージを受けたわけじゃないんですけれども、それはやはり私もそのように感じたところですので、かなり多くの人たちが感じているところなんじゃないかなというふうには思います。


片柳:リアルな体験も交えていただいてありがとうございます。当然ながら母数を増やす、入っていただいた方に長く続けていただくというのは両方必要なことなんですが、業界が一番変わるのはLPの方にプレッシャーをかけていただくのが一番インセンティブが働きますが、長年LPの立場で業界を厳しく仕切っていただいている秦さんから、ぜひコメントお願いいたします。


:何の打ち合わせもない状態でこのパネルに突入しておりますので、お二方のギアの入れ方に圧倒され、LPの立場で何をこれから話そうかと若干悩むところでありますが、間違いなくLPの立場を有効に使っていかなければならないなと思いますし、私やこちらにいらっしゃるLPの皆さんも含めて、業界全体でどう女性プロフェッショナルを増やしていくかというところに対しての取り組みをしていくということなのかなと思っています。
ここで1つエピソードを皆さんにご紹介します。私が前職で欧州をよくカバーしていた時に、とある著名なPEファンドで、女性のプロフェッショナルの方が辞めました。その辞め方自体は変な辞め方でもなく、とある理由で辞めた、それだけに過ぎないのですが、そのワン・デパーチャーに対してファームが重く受け止めたのです。ゲートキーパーとして後ろのお客様のパワーが大きかったという事も多少あるとは思うのですが、慌てて電話をしてきて、このデパーチャーについて説明をさせていただきたいとIRの方から連絡がありました。一人のデパーチャー、しかもパートナーでもなくプリンシパルほどのレイヤーが辞めた程度では、普通PEファンドが慌てて連絡してくることは無いのかなと思うのですが、その様な事がありました。またロンドンにいた時にも次のキャンディデートとして、どれだけハイアリングの準備をしているか丁寧に説明がありました。その一連の流れを考えますと、我々ではなく他の海外のLPがプレッシャーをかけていたのではないか、というのは想像に難くないわけですが。とはいえプレッシャーがかかっておらずとも、女性をきちんとリテンションしなければならない、プリンシパルやVPであったとしても、その方々が辞めてしまうと当然次のレイヤーに届かないわけなので、辞めてしまうという事はやはり大きな事象であったという事です。また実際に男性のパートナーとのコミュニケーションの問題もあったようなのですが、そこに対してファームとして真摯に向き合い大事として捉えて、どのように今後の採用方針やコミュニケーションの仕方を改善していくかという事に関しても説明があったという事は、海外は進んでいるのだなということを改めて実感したエピソードでした。
また先週ロンドンに行ってきたのですが、とあるVCのところで自分たちのピッチブックの中に女性のプロフェッショナル比率がどれぐらいで、それが業界のベンチマークをどれだけアウトパフォームしているのかという事が、きちんとプレゼンテーションの中に示されていて、VC業界においてもやはりもう意識がそこに向かっているんだな、ということを改めて実感しました。
このことから、果たして日本が今そこまで来ているのかどうかという点においては、ファームのトップの方のコミットメントが非常に重要だという事をGPの方々とコミュニケーションして改めて思います。要するに、LPにコミュニケーションするのはIRの方ではあるのですが、ファームとしてきちんとコミットしていくのだという想いは、やはりトップの方の強い意志があってはじめて実現されていくものなのかなというところを感じましたので、ぜひそこは頑張っていただきたいなと思います。また、今後の流れの中で、JICとしてもどの様にKPI設定をしていくべきなのかということは、今後の議論の中で出てくるところかなと思います。もしかしたら最初はリクアイアメントでなかったとしても目標値として置いてみて、それを達成しなかった場合にLPと一緒にしっかり考えていくというところも大事かなと思っています。
もう1つここで事例をご紹介します。これもVCの例ではあるのですが、VC業界でも女性のプロフェッショナルのキャピタリストをどう増やしていくかという中で、やはり先程申し上げた様にハイアリングはしたけれども辞めてしまうという事例が起きています。そこを紐解いた時にLPの視点で思ったのが、女性がマイノリティとして入り続けることの居心地の悪さというのは一定程度あるのではないかと思っています。これは男性陣に悪気はないですし、ある意味平等に扱っているのですが、当然異性のことなので、何が問題なのか、何が困っているのかなんて言ってくれないと分からないよという世界なのだと思うのです。そして、知らないうちにマイノリティのポジションの女性の中で悩みが募っていって辞めてしまうという現象が起きているのかなという事は非常に感じており、ここに並んでいる方々は、おそらくどの会議室でもだいたい自分ひとりというマイノリティのポジションの中で戦ってこられ、ときどき自分の性別も分からなくなるぐらいの感覚で働いてこられた方々かなと思っているのですが。必ずしも皆がそうではない中で、今度は男性が女性陣の中だけで1人でポツンと働いた時のことを想像してみて頂きたいのです。その時の空気感やニュアンスがさっぱり分からないというのは絶対出てくると思いますし、やはりこのグループの中に自分は取り込まれてないな、と感じる瞬間は絶対あるのではないかなと思うのです。逆の立場になってみるととても簡単なことで、ハイアリングの時に1人だけポツンと行うのではなく、ある程度グループハイアリングという形で、レイヤーはVPやプリンシパル等、分散させて良いと思うのですが、ある程度グループでハイアリングしていくことによって圧倒的なマイノリティにしないということは非常に大事で、一つの工夫としてできることなのかなと思います。


片柳:やはり業界の中で継続的に変化を促して行かないと、多分時間がかかるんだと思います。おそらく自然にこのままにしているとあんまり変わらないような気がする中で、10年後を見据えて何をやっていったらいいだろうか、というアイディアが皆さんいろいろあると思いますので、後半はその話をしたいと思うんですが、二井矢さんの今後の野望について教えてください。


二井矢:先ほども申し上げましたが、やはり私自身がものすごく楽しい、面白い、と思って日々過ごしているPEの仕事を世の中にもっともっと広めていきたいと思っております。その中で、育児ということを考えたときに、オンラインでいろいろな物事が進んでいくということに違和感がない社会になってきて、インターネットの普及によって単なる通り一辺倒のやっつけ仕事ではなく、かなり戦略的にいろいろ物事を考えながらパソコンを通じていろんなことができて、オンラインを通じていろんな人と議論ができるということはすごい仕事環境の改善なのかなと思っております。
また、PEの仕事というのは、売主さんとしっかり交渉しなければいけない、経営陣たちと一緒に頑張っていかなきゃいけないという時に、やはり人間の強さや深み、胆力といったものが非常に要求されると思うんですけれども、それは子育てといった経験も含めて、ライフステージをしっかり経ることによってにじみ出てくるものだと思うので、30代は忙しかったけど40代になって帰ってきたという時に、人間としてはもう一段も二段も上になった人として帰ってきてしっかりそういう仕事ができるようになると思います。
さらには、投資先にバリューアップのためにいくんですけれども、投資先は先ほど言ったような旧態依然とした会社が結構あります。これはオーナー社長のところとかはそういうところがあって、投資家として頑張らないとなかなか信頼してもらえないんですけども、やはり幸運なことに立場の違いから結構言うことを聞いてくれるということがあって、そういうことによって少しずつ投資先も変わって変化をもたらすことができると思います。例えば、私と一緒にパートナーをやっている早瀬ですが、彼女は銀行・ビジネスコンサルを経て、銀行の時に山本礼二郎と一緒に仕事していたという縁もあったので、インテグラルの創業時に入って下からずっと上がってきて現在パートナーで、結婚も出産育児もしていますが、彼女は最近では、名古屋の肥料メーカーの事業承継で、どなたも代表取締役をやる方がいらっしゃらなかったので、早瀬自身が代表取締役になって、バリューアップをやらせていただきました。でも、やはりそこで地方のJAさんを相手にお話ししていて、そういうところのJAさんのおじさん達は想像を絶するほど、女性と口も聞いたことがないという人たちばっかりなので、女が出てきたんか、みたいな反応をされるんです。しかし、やはりそこでしっかりと話すことによって、よくこの業界のことを勉強しているな、という反応になってきて、むしろ逆にいい話になってくるという現象も生まれて、社会に変革をもたらすということもできるんですよね。なので、本当に日本社会にとって、これからPEで実際に手を動かしてバリューアップに携わる人間に女性が増えるということは、さまざまな会社にそういったポジティブな変革をもたらすことができるんじゃないかというように私自身は感じているので、そのあたりのアピールをぜひやっていきたいと思います。そして、そのアピールをするにあたってやはり男性の皆さんに応援していただきたいなと思っております。


片柳:本当にそうですよね。目立つので覚えていただけるし、多分男性同士よりは年齢の壁を超えやすいというベネフィットがあると思います。大西さん、さっき控え室で話をしていたDEIは何のためにやるんでしたっけ、というところをここでもご説明いただけますか?


大西:ぶっちゃけて申し上げますと、女性に活躍してもらいたいとか皆さん本当に思っていますか。正直に申し上げると私自身はどっちでもいいです。男性活躍でもどっちでもいいです。そういう意味で言うと、別に男女どっちでもよろしいかと思います。やりたいようにやればいい、ビジネスをやりたい人がやればいいし、そういう人たちが思いっきり社会に貢献できるという姿がいいんだろうと思います。

社会にとって女性の活躍に何か意味があるとすれば、女性だけではなく、新卒からの生え抜きだけの会社にとっての中途採用者もそうかもしれないですし、外国人もそうかもしれないですし、いずれにしても異質なもの、女性が異質なものというステータスにならないようにしようというのが今の動きでありますけれども、今のところは若干異質なものということで、この異質なものが入った時にいろんな刺激があって、いろんな発展の仕方があるということがあるんだろうと思っています。現在、私は、人的資本の関係のコンサルティングをやっています。上場会社を中心に人的資本の開示というものがありまして、この開示が最初に義務付けられたのがいわゆる女性活躍推進法のもとでした。女性の賃金格差であったり、女性の管理職比率だったりというようなことを人事部の方々はなんだか枝葉の話をしているようで違和感があるという方がいらっしゃって、確かにそうなんですけれども、おそらく日本の社会をどう健全に発展させていくのかという、非常に壮大な目標を掲げちゃうとみんなくじけちゃうので、もっと手前のところの目標でクリアできるものがあって、その目先の目標をクリアすることで大きな目標がクリアできる、その目先の目標がただ単に女性活躍推進法だったんじゃないかというように私は解釈をしていまして、ここで女性活躍推進法の要請をクリアすることで、マイノリティの人たちが働きやすくなるということが、大きく全体に波及すると考えていますので、そういう意味で申し上げますと、女性が活躍したいというように女性が言っているというよりは、女性だからあえて言わせていただきますと、正直どっちでもいいと思っていて、それよりも組織がどう発展していくのか、どう社会がもっとより良いものになっていくのかということの一つのTipsとして女性を使っていただくということが個人的には本望だと思っております。


片柳:率直な意見、どうもありがとうございます。秦さん、最後にひとことお願いします。


:男性でも女性でもどちらでもよいという中で、どの様に女性をこのインダストリーとしてしっかりと受け入れていくかというところは、目指していきたいなと思います。私たちも言いっぱなしではなくて、ボトルネックは理解しています。先程のエデュケーションの違いもそうですが、このパネルが始まる前、控え室でいわゆる「兵役」を経てないよねという話で少し盛り上がったのですが、やはりPE業界はコンサル、インベストメントバンカー、商社あたりの兵役を経ている方々が入ってきているのではないかという話をしていて、やはり一定程度の筋肉の使い方をトレーニングされた方々が入っている業界なのだと思います。
どのように女性のプロフェッショナルをこの業界に受け入れていくかということを意識し始めたときから、女性の投資プロフェッショナルにどういうバックグラウンドがあるかという事を、ヒアリングしてみたのですが、IRの人であっても皆バンカー出身だったり、コンサルであったりしていて、日本であれば商社出身もありかなと。やはりそうすると日本には、そこのプールが根本的にいないというボトルネックがあり、逆に海外にはその様なバンカー出身の女性がごまんといて、その方々がPEやVCに流れて来るわけです。日本にはその流れが根本的に無い中で、兵役を経た男性陣の方がインタビューした時に、それらしい答えも含めてしっかり答えていくわけですよね。決してジェンダー差別じゃないですけれども、やはり男性の方が一般論的には自身をオーバーエスティメイトするのがすごく得意な人種、カテゴリーかなと思いますし、女性はこれも一般論ですけども、アンダーエスティメイトし過ぎてしまうと思っています。要するに、これできますかという時に、男性だと、出来ても出来なくても、分からない場合も出来ますと言ってオポチュニティを取りにいくと思うのですが、女性の場合、自分にこれが出来るのかなと考えてしまって出来るかどうか分かりませんという答えがもしかしたら出てくるかもしれない、というジェンダーの違いを前提に考えた時に、どのように女性のプロフェッショナルを育ててハイアリングしていくかという事は、意識のどこかで持ってないと、先ほどのある意味リベラルで男性女性関係ないようにハイアリングしていく、教育していくとなってしまうと、自然に女性が排除されてしまうのかなと思います。女性の置かれている環境やエデュケーションの状況、先ほどの兵役を経ているかということがハンデとならないように、男性陣とは違うバックグラウンドの中で応募してきていることを理解して、その人たちをトレーニングするためにはどうしたら良いのかということも、兵役を経ていない分ここで兵役をきちんと経験させて、しっかりトレーニングしていかなければならないというような視点で、女性のプロフェッショナルを育て作っていくというところはとても重要なのかなと思いました。
その努力をしていただくという前提のもとでLPとしてどういうKPI設定をして、そこに対してどういう努力が払われているのか見ながら、成果は少しロングランで見なければならないところかなと思うので、そこはLPとしてもしっかりおおらかに見守りながら、一緒に業界を盛り上げていくものなのかなと思います。


片柳:さすがのコメントありがとうございます。多様性の確保は別に女性のためにやっているわけではなくて、変化が激しい時ほどいろんな視座が入った方が意思決定の質が上がりますというのが本質だと思いますから、そんな高めの視点で変化を起こしていけたらなというように思います。皆様、今日は色々ご意見頂きまして、どうもありがとうございました。

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