はじめに
今回のオンラインコラムは、昨年9月の日本プライベート・エクイティ協会の年次総会で行われたパネルディスカッションから、第一部の「PEガバナンスの射程」についてご紹介します。PE協会会長(当時)の林 竜也氏をモデレーターに、パネリストとして日本のプライベート・エクイティ業界を牽引されてこられた、カーライル・ジャパン シニアアドバイザーの安達保氏とKKRジャパン 前代表取締役社長の蓑田 秀策氏をお招きして、プライベート・エクイティが持つガバナンスの視点が、社会の中でどのように活用されうるかについて議論が進められました。
PEガバナンスの射程
林:皆さま、今日はお越しいただきありがとうございます。今回は、カーライルの安達さんとKKRの蓑田さんにご登壇いただきます。お二方ともプライベート・エクイティ投資の仕事を卒業された後、それぞれまた違う形でガバナンスを仕事として別の分野で活躍をされている先輩として、お話を伺います。
まずは安達さんから。カーライルを卒業された後ベネッセの経営を担われました。ファンドで投資をしていた時と、事業会社側から見たガバナンスの相違点についてお話をいただけますか。
安達:はい。2016年にカーライルから社長としてベネッセに移りまして、昨年退任しましたので6年弱ほど社長、最後は会長という立場で事業会社の責任者をしていました。ガバナンスについては、4つポイントがあると思います。
1つ目は、それまでのプライベート・エクイティの責任者として投資先に対するガバナンスを効かせていくのとは逆に、社長としてある意味受ける側になるわけで、その対比について。
2つ目。私はホールディングスの社長でしたので、グループ会社全体を見ているわけです。そうするとグループ会社に対するガバナンスという点では、実はPEがいろんな投資先を見ているのとほとんど変わらず、そこでどんな苦労をしたかという話もできればと思います。
3つ目は、社長としてガバナンスを社内でどうやって効かせるか。これが当事者として一番重要なことなので、その時に何がカギになるのかという話になります。
最後に、ベネッセ特有の話かもしれませんが、ベネッセはご存知のように教育、介護でずっと事業をやっていますので、国や政策などとの関係が結構あり、それがガバナンスに対していろいろな影響を与えるということもありますので、その辺も含めてお話をしたいと思っています。
最初のポイントがまさしく林さんのご質問だと思いますけれども、私が代表取締役社長 CEOになった時は2014年にベネッセが情報漏洩問題を起こした時期で、大変な状況になっていました。2000万人以上の個人情報が漏洩して会社の信用が地に落ち、業績も非常に悪化していた中で私が請われて社長に就任したわけです。もちろん取締役会が株主の代理としてガバナンスを効かせ、CEOである私がそれを受けながら会社をコントロールするという仕組みですが、私が社長になった時は、その取締役会が考えている事も、それから私がやるべきだと思っていることも全く同じで、いかにこの苦しい状況から脱却するのかに尽きるという状態でした。
取締役会が非常にはっきりした目標を持ち、執行のトップも同じように考えているわけですから、ガバナンスのあり方としては私がPE投資に関わっていた当時とほとんど変わらなかったという印象です。その時は非常に苦しい状態でしたが、取締役会も非常に私をサポートしてくれており、取締役会とCEOが1つのチームになって仕事をすることができました。PEのガバナンスは目標をはっきりさせて、しかも、多くの場合は単独の株主が執行する側のリーダーと一緒に進めて行くので、非常にシンプルなガバナンスが形成されるわけですが、そういう状況が少なくとも私の就任時にはあったと思います。
ただ、時間が経つと状況も変わります。特に新型コロナが起こった時には、会社を短期的にどうするかという問題と、コロナ後にどうしていくかという中長期の議論があり、会社の運営方針についての取締役会の考え方と私の考え方も若干ズレてきたり、あるいは私が就任した時とは取締役会のメンバーが変わってきたということもあり、議論を尽くさなければならない局面が結構ありました。ですから、同じ視点でテーブルについている状況と、本当に反対側にいて相当議論をしなければいけない状況の2つを経験したわけです。
林:ありがとうございます。お話をさらに掘り下げていくのはまた後に譲るとして、次には蓑田さんに最初のお話を伺います。蓑田さんは、『100万人のクラシックライブ』という活動を始められ、代表として活躍されています。私はこのアントレプレナーシップがすごくカッコいいと思います。ガバナンスとの関係でいえば、プライベート・エクイティは非常にアントレプレナーシップが求められる仕事だと思っているのですが、ガバナンスとは結局のところ、事業のアイデアがあり、それを形にするために必要なリソースとお金を一つの目的のために繋げて動かして行く機能だと私は捉えています。それを蓑田さんはご自身で建てつけられた。危機に陥った大企業の救済のために招聘された安達さんとはまた状況が違います。そういった観点から現在のお話を伺えればと思います。
蓑田:8年も前にプライベート・エクイティ卒業をしましたので、私の事を御存知ない方もたくさんおられると思います。ご紹介いただきましたように、私はKKRを卒業してから直ちに『100万人のクラシックライブ』という財団を立ち上げました。
非営利活動ではありますが、ボランティアとかNPOではなく、一般財団法人という形で立ち上げました。それはやはりビジネスマンとしてやるからには、活動そのものも、きちんと経済的に自立していかなくてはならないという思いがあったからです。現在設立から8年が経ち、年間800~850回のコンサートを開催できるまでに成長しています。
さきほど安達さんから、企業のガバナンスには効かせる立場と受ける立場があるという話がありましたが、それが一般財団法人、あるいは社会活動になると、そのガバナンスの境目が非常に難しくなってきます。
組織を作って活動を行うとき、今流に言うとパーパスと言うのでしょうけれども、何を達成したいのかをまず目的として掲げます。財団を設立する際には、その設立趣旨を書く必要があり、そこにはっきりと目指すべきものを掲げて、次にそれを具現化するためのアクションは何なのかという計画を作ります。私の場合はクラシックのミニコンサートをやって、みんなにもっと気楽にクラシックを聴いてもらいたい、クラシック音楽を日本中に広めたい、それを通じてみんなが支え合えるような、孤立している人たちにも手を差し伸べられるような社会を作りたいという目的を掲げました。社会課題にあふれていて非常に元気のない状態の日本で、自分が投資あるいは金融を卒業した後に何ができるかと考えた時に、人と人を繋いで支え合う文化やみんなでお互いに励まし合いながら生きていける世の中を作りたいと思ったんです。
パーパスがあって手段、つまりコンテンツが決まると、それを実現する段階に進みますが、そこでガバナンスの出番です。財団法人なのでまず評議員会と理事会を作ることになります。クラシックライブという手段を通じて達成したいパーパスには、具体的には例えば若い演奏家たちを支援して育成するという目的も入ってきます。財団の活動が目的に沿ったものなのか、それを常にチェックしてくれているのが評議員や理事という存在です。
2019年までは、理事会と評議員会は基本的に報告の場だったのですが、新型コロナが発生した時に大きくこの活動のモデルを見直さざるを得なくなりました。今まで自分たちがやっていた単なるクラシックのコンサートだけで本当にパーパスが達成できるのか、そういう根本的な問いを突きつけられたわけです。より世の中の格差が広がり、より不幸だと思われる人たち、特に子どもたちが非常に困難な状況に陥るだろうということが分かってきました。そこで私は財団で食を届けるプロジェクトを始めたらよいのではと考え、子ども食堂に食を届けるための寄付を募って、3500万円ほど集めて全国の児童家庭支援センターに寄付して食の支援をしました。
その延長線上で今後の財団の活動を見直そうとしたとき、理事会で初めて大激論となりました。果たしてこの財団の目的に照らしてそういう活動は適切なのか、という議論が交わされ、財団は食を届けるのではなく、あくまでも音楽で人の心をケアするべきだという結論になりました。私がやろうとした「食まで含めて届けよう」という方針を理事会に明確に否定されたわけです。
ただ、3年経ってみるとそれは極めて正しい判断だったと思います。現在、子どもたちに音楽を届けるプロジェクトで、皆さんから寄付を集めて年に250回、300回と子ども食堂に無料でコンサートを届けられるようになりましたが、音楽以外に活動範囲を広げていたら現在の実績には届いていなかったと思います。これを500回、1000回にするというのが次の夢ですが、音楽を届ける活動にフォーカスしなさいというガバナンスをあの時に効かせてくれたことで、その目標に向かって真っすぐに進むことができています。非営利活動という、一見ガバナンスの機能するイメージが想像しにくい事業形態であっても、執行部の動きを横からきちんと見ていて、パーパスに向かって真っすぐに走れていない状況になったら、それを諌めてもとに戻してくれるというガバナンスの大切さを、身をもって経験しました。
私は上場企業の社外取締役、非上場企業の社外取締役、そして高校の理事も務めています。いろいろな形でガバナンスを経験していますが、事業の内容によって適切なガバナンスの具体的なあり方は違っても、本質的にはプライベート・エクイティで考えていたガバナンスというものと同じだと実感しています。
林:ありがとうございます。安達さん、今の蓑田さんのお話はベネッセが非常に苦しい状況にあった時期に、執行と取締役会が力を合わせて乗り切っていくためにいろいろ苦しい決断を迫られたところと重なる部分があると思います。執行の長として、あるいはガバナンスを主催する立場として、苦境を乗り切るガバナンスという意味で何か補足していただくことがありますか。
安達:取締役会で議論をして、目標と実行計画を定めても、これは私ひとりでできるわけではありません。それをどうやって会社の中で徹底させるのか、誰に何をやってもらうのかが一番のカギになってきます。やはり最終的には社内のどの人に何をやってもらうのか、あるいはこれができる人は誰なのかということを見極めて、その人に任せるというプロセスがカギだったように思います。
具体的にお話をすると、ベネッセはご存知のとおり少子化という大きな問題の中で、本業である進研ゼミや進研模試などの事業が非常に厳しい状況に置かれています。その中で、特に私の任期の後半が新型コロナでしたが、力を入れていた仕事に、社会人教育とDXがあります。
リスキリングという言葉がいまのように一般的に使われるようになるずっと前から、これからの社会人の教育をどのように考えたらいいのかという課題は提起されていました。ベネッセとしても、得意とする学生向けではなく、社会人向けの事業をどのように具体化するかをずいぶん検討するなかで、それを社内で本当に自分の問題として考えてくれていた、ある若い社員と出会うことができました。社会人に関してはUdemyという、今では上場企業の半分以上が使っているツールですけれども、この米国の会社に投資し、日本向けのサービスにうまくアレンジすることを、その人と一緒にやりました。
また、DXに関しては、どこの会社も苦労していると思いますが、ベネッセも当初、デジタル化に貢献できるような人材は本当に少なく、また多くの事業を手掛けているためにリソースが分散しており、方向性を示すだけでは会社のデジタル化は全く進まない状況でした。その時にたまたま私の部下の1人が、デジタル化ができる人材をとにかく集中させようと提案してくれたんですね。会社の中で一つのグループとして中央に集め、そのチームがあたかもコンサルタントのような形で各事業に出かけていっては、そこの事業の人たちと一緒になって、それぞれの事業のデジタル化を進めていくという方法に変え、「デジタルイノベーションパートナーズ」という名前をつけたんです。彼らが積極的に動いたことが1つの起爆剤になって、DXは非常にうまく進むようになりました。そのようなチームを作ろうというアイデアを出してくれた人がいたというのが、私にとっては非常に大きかった。やはりガバナンスを効かせる時には、本当に適切な人をどうやって見出すかというのが、もう1つの大きなカギになると思います。
林:最近「ボード3.0」というモデルがコロンビア大学の教授によって提唱されています。曰く、米国の企業の取締役会で、執行側の役員だけでボードを形成していたのが1.0。それに社外取締役が加わった現在主流の構成が2.0。ただし、これには非常にガバナンスの限界がある。なぜなら社外取締役が四半期に一度の取締役会に出席するだけでは、判断に必要な情報が圧倒的に足りない。そして情報が充分に与えられても、有意義な議論をするために自分が咀嚼して分析するためのリソースが足りない。また、その社外取締役は、基本的には功なり名を遂げたような人たちなので、長期的に会社の成長をどうしても実現しようとするインセンティブもない。この情報と資源とインセンティブがないということが問題。翻ってプライベート・エクイティのオーナーシップは全部そろっていると。
ファンドの人がボードに入ってくると、もちろん経営情報にギャップはありませんし、それを自分たちで分析をして議論のために役立てるリソースもあり、取締役会に参加しているファンドの幹部は企業の成長を実現するインセンティブが強くあるわけですよね。ですから、上場企業においても、プライベート・エクイティのオーナーシップで行われているガバナンスモデルは参考になるはずだ、という提言です。このモデルは上場企業でも機能するはずだし、さらには営利企業でなくても同じようなエッセンスは機能するはずだというのが、私がこのパネルの企画を思い立った個人的な問題意識なのですが、だからこそ、私たちの業界の先輩方がそういった別の立場でガバナンスに関わっていくことには意味があるんだなと、これまでのお二人のお話を伺って改めて思いました。
最後に、プライベート・エクイティでの経験を踏まえた現在のお立場から、いまの日本の社会全体についての問題意識、業界の後進であるわたしたちへのメッセージなどいただければと思います。
蓑田:財団の活動を通じて日本各地に行ってみると、皆さんが東京で日頃会われているような企業の幹部の方と全く違うタイプの人たち、町役場の係長さんといった現場の方々にお会いします。そこでは新しいことや変化を嫌い、何事もこれまで通りにやるという空気が強く支配していて、僕らのような新しい活動へのサポートをお願いしても嫌な顔をされることが多いんです。「世の中をプライベート・エクイティで変えるぞ」と言っていた十何年前の自分を思い出しては、実はあの時考えていたレベルより今の日本の事なかれ主義はもっと進んでいるのかもしれないとも感じます。プライベート・エクイティの業界の人たちにはもっと頑張ってもらって、事なかれ主義を打ち砕くような活動をどんどんやってもらうことを期待します。
それに関連して強く感じるのは、相手の本質をみるのではなく、肩書で仕事をすることがいまだにまかり通っている現状です。私はいま皆が知るような肩書きがないわけですが、無冠で行くと全く相手にされないわけです。「おじさん何しに来たの」みたいな対応をされます。一方、うちの財団には元財務次官とか、警察庁長官とか、あるいは、銀行のトップだった人達がいて、彼らと一緒に行くと待遇がもう本当に違う。駐車場のところから違いますからね。コインパーキングに停めるか、秘書が待っているか。
それが極まっているのが、「お上」なんですよ。政府に頼って仕事をしている限りはすごくいいという考え方で、これはやはり非常に危険だと僕は思っています。その危険な状態を、どうしてもやはり皆さんに変えてもらわなきゃいけない。日本を変えるのは俺たちなんだ、プライベート・エクイティなんだと。全部を変えられるわけではなくても、企業のかなりの部分はプライベート・エクイティが関わって、どんどん投資をして、私たちなりのガバナンスを通じて企業を変えていくということでないかと。プライベート・エクイティはリスクマネーであって、民間が出せる限り、政府に頼らないで自らの手で民間企業の再生と成長を実現していくんだという気概をもって仕事をして欲しいと思います。
安達:ベネッセの手掛けている教育という分野は、国の政策や政治の動向に大きく影響を受けます。そのために、本来あるべき教育というものが曲げられてしまっている面があります。
実は私が1つベネッセの社長として何か社会に貢献したいと思ったのが、日本の英語教育をもっとレベルアップすることでした。その中の1つがスピーキングで、文科省と一緒に検討を進めていたのですが、ヒアリング・スピーキングが日本人は弱いことをなんとかしなくちゃダメだ、一番手っ取り早いのは大学の入試にスピーキングを入れることだという結論になり、2019年には共通テストでスピーキングのテストを導入することが決まっていたわけです。ただ、試験会場でスピーキングのテストを実施できるわけではないので、民間の試験、例えば英検やベネッセの実施する試験を受けてもらって、そのテストの成績をスピーキングのスコアとして共通テストに加算する方向で話が進んでいたわけです。ところがその後反対意見が続出します。一番反対したのは実は公立高校の校長会なんですよね。さっきの事なかれ主義もあるでしょうし、実際に英語のスピーキングを教えられる先生もいないということで大反対。それに野党、メディアが乗っかり、スピーキングなんか必要ない、地方の人たちは民間試験を受けるような場所が無いから地域格差を助長する、さらには民間試験を何回も受ければ成績良くなるはずだから何回も受けられる裕福な家庭の生徒が有利になって貧富の差を助長する、という話が次から次へと出てきました。結局、英語のスピーキング試験は実現にはいたりませんでした。政府や政治家の動きが、社会を本来進むべき方向に導けなかった例だったと思います。私はこれで日本の英語教育は一段と遅れることになったんじゃないかという気がしています。
林:ありがとうございました。では会場からご質問があればお願いします。
質疑応答
三村:エンデバー・ユナイテッドの三村と申します。蓑田さんにご質問です。財団法人の設立時には、最初に評議員を選び、それから理事メンバーを決めて、その後は株主的な存在がいないので、自治で役員の更改がされていくと思うんですけども、最初に選ぶとき、あるいはその後役員のメンバーが変わったりする時に、どんな点に気をつけて議論をリードするのか。パーパスの議論ができるだけの素晴らしいメンバーを最初に集め、それを維持して行くことは簡単ではないと思いますが、ご経験を踏まえて何かTipsがあればご教授いただきたい。
蓑田:まずメンバーの選定は、行う活動に賛同してくれる人でなければなりません。だから普通の株式会社の社外取締役とは違って、理事会のメンバーも同志的な関係なわけです。一緒にやろう、だけど勝手にやっていいとは言わない、そういう役割分担ができる人選が必要です。
役員の改選ですが、実は8年経って辞めた評議員は1名だけで、理事は全く変わっておらずむしろ増えています。定員を増やしながら理事、評議員を維持しているわけですが、彼らは「同志」であり「応援団」ですから、ガバナンスというのはある意味、自分もやりたいことがあって、それを目指してくれているから応援するわけで、目指さなくなったら、応援しないよということだと思うので、いつもこれでいいのかということを我々の方から役員に聞きます。例えば先方の求めに応じて高校の授業を受託するというような、全然最初から想定してない活動をする時は、それでいいのかということは当然に理事会のチェックにかけます。
設立して8年間ずっと赤字だったんですが、ついに今年損益分岐点を越えてプラスが出るところまでたどり着いたんですが、その剰余金をどう使うべきかはまさに理事会の決議事項で、私が代表として勝手に使い道を決められるわけではありません。やはり同志だけど規律を持って我々を監督するという関係の中で、その人たちが、お前を応援しているよ、というスタンスをとっている限りは、恐らく役員というのはずっと伴走してくれるだろうと思っています。
飯沼:アント・キャピタルの飯沼です。安達さんにご質問です。私見ですが、日本の大企業はやはりファンドが入ってガバナンスを効かせることで、まだまだ大きく変われると強く思っています。
ベネッセに入られたときに、これは安達さんお一人が経営者として請われた話であって、仮にカーライルがファンドとして関わったらもっと変わったことがあったのでは、変化が実現する時間軸が早かったんじゃないか、逆に個人で行ったからよかった、といったことがありましたら、ご教授ください。
安達:大変いい質問です。カーライルが入ることによって、おそらく戦略の積み方や精緻さ、そういうことのレベルは上がったような気がします。ただ、やはり大企業の場合、戦略を作る際にはそれを既存の組織でどう実行するかという計画まで考えるので、そこにプライベート・エクイティがどれだけ力を発揮できるか。最後はやはり人事をどこまで動かせるかだと思うんです。
私が一人で行って苦労したことは、実は会社の中の人事を大きく動かそうと思った時に、会社の中の抵抗にあったことです。プライベート・エクイティが100%株主であれば、新しい戦略に沿って新しい人をどんどん雇いましょう、というように考えますが、歴史があり、上場している大企業では、会社のカルチャーや創業者の影響力など、いろいろな要素との折り合いをつけながら変化をリードしていく必要があるのが難しいところです。しかし、本当に一旦完全に非上場化してプライベート・エクイティが株を全部持って大きく変えるんだということになったら、前提は全く違ってきます。
林:お二方はプライベート・エクイティの実務から離れられても、引き続き新たな問題意識を持たれて、それに立ち向かって奮闘していらっしゃいます。全然枯れていませんよね。そのバイタリティーが、後輩として非常に頼もしいです。引き続きそれぞれのフィールドでご活躍いただきたいし、できれば我々と一緒に、何か日本を変えていくために力を合わせられるといいなと思います。今日は本当に貴重なお話をいただきありがとうございました。