目次
1.ESGデータの収集と分析手法
PE協会として初めてのESGデータの捕捉にあたり、可能な限り多くの正会員に参加を促し有効なデータを収集するため、初年度は比較的データが集めやすい雇用とダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)に関わる指標に限定してデータ収集を開始した。正会員34社の協力を得て、計278の投資先企業の雇用データが集まった。データ提供に協力した正会員は下記の通り。
データ時点は2022年12月末もしくは直近の会計期末とし、投融資期間を問わず投融資前データとの比較を行った。その際、投融資前の従業員数に不足がある場合は、直近データの同数を入力(10社/278社)、直近の従業員数に不足がある場合は、投融資前データの同数を入力(6社/278社)、投融資前の数値・直近の数値共に不足する場合は分析対象から除外した。
2.PE業界は投資先企業を通じて幅広い業種で雇用を創出している
278社の投資先企業の投融資前と直近の総従業員数を比較したところ、総雇用数は1.8%増加しており、幅広い業種で雇用を創出していることが確認できた。
<投資先企業の従業員数の変化(主要業種別)>
(出所:各社提出データ。産業分類は内閣府・男女共同参画局資料に基づく)
一般的には人員効率化により利益改善を行うイメージの強いPE投資だが、実際には事業拡大や追加投資によって前向きな雇用を生んでいることをデータで示すことが出来た。
3.投資先企業のDEI指標は前向きに改善しているが、政府目標の30%には未達
投資先企業の女性比率は全従業員でみても管理職でみても増加しており、投融資期間中にDEI推進の取り組みがなされていることが伺われる。しかしながら政府目標である管理職における女性比率3割には届いていない。
<投資先企業のDEI指標の変化:全社員・管理職>
PEファンドは投資後に人事評価制度の改革を行い、透明性の高い制度運用を支援するケースが多いが、管理職レベルのDEI指標の改善には複数年に渡る改革が必要となり、中長期の組織成長を見据えたコントロール投資家だからこそ後押しの出来る施策である。数年内に業界全体で政府目標を超える改善を達成することを目標としたい。
DEI指標は投資先企業の規模に影響を受けるが、全社員レベルで見ても管理職レベルで見ても改善傾向にある。規模の大小を問わずに積極的に推進を進める必要がある。
<投資先企業のDEI指標の変化:全従業員(規模別)>
<投資先企業のDEI指標の変化:管理職(規模別)>
4.ファンド派遣取締役が大半を占める取締役会レベルでは多様性が逆に低下する
他方で、取締役会においては男女の人数比においても、日本人男性以外の取締役がいるかという企業数でみても、多様性が低下しているという結果になった。
<投資先企業のDEI指標の変化:取締役会>
ファンド派遣の取締役が過半数を取る形でガバナンスを取るGPが多く、派遣元のファンドでシニアレベルの女性の数が少ないことがこの要因と考えられ、PE業界全体での多様性の推進が今後重要となってくる。