第22回『LBOローンにおけるサステナビリティ・リンク・ローンの活用事例(チョコレートデザイン株式会社)』 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第22回『LBOローンにおけるサステナビリティ・リンク・ローンの活用事例
(チョコレートデザイン株式会社)』

 今回のオンラインコラムは、ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社 シニアヴァイスプレジデント 飛松治樹様に「LBOローンにおけるサステナビリティ・リンク・ローンの活用事例」というテーマで、横浜銀行様と共同で執筆いただきました。是非お読みください。

飛松 2022年9月、ベーシック・キャピタル・マネジメント(BCM)は横浜のチョコレートデザインに投資しました。この投資では、横浜銀行様からのLBOローン借入にて支援していただきましたが、チョコレートデザインのESG取り組みの実効性・プレゼンスを高めるために、サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)として設計していただきました。本コラムにおいて、私の方からチョコレートデザインの概要や本件取り組みの背景などご説明させていただきます。また、横浜銀行様のサステナビリティ推進室には横浜銀行内での体制やスタンス、本件のSLLの概要を説明していただこうと思います。

チョコレートデザインの概要

飛松 チョコレートデザインは、本社が横浜にあるチョコレート菓子の製造・販売会社で、創業は2000年3月になります。メインの商品は「ショーコラ」という商品になりますが、2002年発売当初から高い評価を得ており、今でも根強い人気を誇っています。他にも「Bean to bar」や「スノーボール」、「ドーナツ」などの多くのチョコレート菓子を販売しています。店舗も「バニラビーンズ」というブランドで横浜を中心に展開しています。

[写真左:ショーコラ、右:バニラビーンズみなとみらい本店]

もう1点、チョコレートデザインには特徴がありまして、それがフェアトレードチョコレートです。2007年に「チョコレートで世界を幸せにする」という経営理念を掲げ、フェアトレードチョコレートの取り扱いを開始しました。そして、2008年には原料のすべてをフェアトレードチョコレートにしています。

ご存知の方も多いと思いますが、チョコレートの原料となるカカオ豆が栽培されるカカオ農園では、貧困を理由に子供たちが学校にも行けず、過酷な労働環境下で働いている実態があります。それは不当に安い価格でカカオ豆が取引されていることが背景にあります。このような貧困・児童労働の改善のために、適切な環境で栽培された農産物を適切な価格で取引することをフェアトレードと言い、フェアトレードで調達したカカオ豆を使ったチョコレートをフェアトレードチョコレートと言います。

近年チョコレート業界では、この取組みが非常に活発になっており、「フェアトレードチョコレート」や「サステナブルカカオ」という言葉をよく耳にするようになりました。また大手チョコレートメーカー各社は原料調達における目標値を置くようになっています。ただ、フェアトレード原料を扱うことは商品価格を押し上げることでもあり、加えて環境・人・社会に配慮した消費行動、いわゆる「エシカル消費」も浸透しておらず、フェアトレードが社会的に良いことであっても、必ずしも購買には繋がるとは限りません。

そのような中、チョコレートデザインは、どの企業よりも先駆けてこの取り組みを開始し、お客様の共感を得てESGブランドを築き上げてきました。 チョコレートデザインの規模・認知度はまだ小さく、業界へのインパクトは少ないですが、チョコレートデザインの企業規模・企業価値を高めることで更なるサステナブル社会の進展に貢献していければと考えています。

BCMがLBOローンにおいてSLLを活用することに至った経緯

飛松 BCMでは、投資対象会社の存在意義・規模・収益性・競争力の源泉など様々な観点から慎重に見極めた上で、長期的視野に立って投資の判断をしています。特に「存在意義」については重要視しています。存在意義に強く共感を覚える会社の場合には、規模感で多少見劣りしたとしても、長期的な成長を織り込んで積極的に検討するようにしています。一方、ESGの見方についてですが、あくまで存在意義の1要素と見ています。ESGの取り組みをしているからといって、それだけで高い評価をするわけではありません。

チョコレートデザインへの投資は存在意義に共感したその一例です。投資規模は小さいながらも、会社・商品が持つ既存の収益性や将来の成長性、そして「チョコレートで世界を幸せにする」ことを実現しようとする、ESGを含めたブランドストーリーを高く評価しました。

BCMがそのブランドストーリーを大切にしながら、株主としてのエンゲージメントを通じて、経済活動と共にESGの取り組みを深耕し、ブランドストーリーをより世の中に広めていく。そうすることで、チョコレートデザインのストーリーに共感してくれるファンを創造し、そのファンが新たなファンを呼ぶ。ストーリーの求心力が社員のロイヤリティーを高め、企業価値の源泉になっていく。その結果、商品が広まり、フェアトレードチョコレートが広まり、原産国の生産者の笑顔に繋がっていく。そしてこれらが循環していく。そのような仕組みづくりをチョコレートデザインでは目指せると考えました。

またBCMは、投資実行前に、経営者・経営陣との対話の場を許す限り多く持つことを大切にしています。そうすることで、経営者・経営陣の想いへの理解と共感、そこから生まれる信頼感の醸成、ひいては、投資実行後の経営方針・事業計画の策定とそれらに対する互いの強いコミットメントが生まれるものと考えています。

本件は2022年3月に初期的な提案(意向表明書)を提示して、次のステップに進むことができました。通常であれば、デューデリジェンス(DD)に進むことになりますが、BCMとしては、DDに入る前に、チョコレートデザインの社長と将来の会社・ビジネスの話を深めていきたいと考えていました。

本件のアドバイザーでもあった横浜銀行様ですが、譲渡意思のソーシングから携わっており、プロフェッショナルとしてチョコレートデザインの社長から厚い信頼を得ていました。また細やかな配慮の下でプロセスを進めていただいており、BCMの考えにも賛同いただきました。その横浜銀行様のお陰もあって、DD前にチョコレートデザインの社長とのディスカッションを複数回重ねることができ、熱く議論を交わすことが出来ました。その後、DDに進み、難しい局面も何度かありましたが、それを乗り越えることができたのも、この議論を通して信頼関係を築き上げられたことが大きいと考えています。横浜銀行様には感謝してもしきれません。

さて、投資実行後、その経営活動を株主としてチョコレートデザインのマネジメントと目線を合わせながら会社運営をしていく必要がありますが、ESGの取り組みについても、KPI・定量目標を設け、その進展度合を計っていきたいと考えていました。その点で実効性・プレゼンスを高めていくための方法がないか、横浜銀行様に相談し、会話を重ねながらBCMの想いに共感していただき、SLL活用の提案をいただけることになりました。

横浜銀行のサステナブルファイナンスを含めたサステナビリティ高度化支援に対する体制・スタンス

[体制について]

横浜銀行 横浜銀行の持株会社であるコンコルディア・フィナンシャルグループは、「地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・カンパニー」を「長期的に目指す姿」として掲げています。多様化するニーズへの課題解決が付加価値の源泉である との考えから伝統的な貸出ビジネス中心から課題解決型のソリューション営業への転換をはかっています。2022年4月に企画部門、営業部門を中心に専門部署の設置等をおこない、全社的なサステナビリティへの取り組み体制を強化しました。2022年度からスタートした中期経営計画では、基本テーマの一つに「Sustainability」を掲げ、サステナビリティ経営の確立をはかるなど、地域社会の課題解決に向けた取り組みを推し進めています。

ソリューション営業部内に新設されたサステナビリティ推進室は、お客さまへのサステナビリティ経営の高度化につながるソリューション提供の結果として、サステナブルファイナンスという金融面の支援の実績につながっていく という考えのもと、商品軸ではなく、お客さまとの対話によりお客さまの取り組み状況に適したソリューション提供をおこなっています。そのため、サステナブルファイナンスの実行支援やGHG排出量可視化・削減支援などのソリューション提供だけではなく、行員のリテラシーを高めるため情報提供や勉強会なども実施しています。

[メニューのご案内]

横浜銀行 長期的に目指す姿を「地域に根ざし、ともに歩む」と示しているとおり、サステナビリティと地域の成長は切り離せない関係であるという考えのもと、課題解決に向けて、LBOローンや、ハイブリッドローンなど高度なファイナンスサービスを拡充するとともに、サステナブルファイナンスを中心としたソリューションメニューを拡充しています。

脱炭素社会の実現に向けては、再生可能エネルギーなど気候変動の緩和に貢献する事業へのファイナンスだけでなく、お客さまの脱炭素への取り組みフェーズに合わせたソリューションを提供し、サステナビリティ分野でのお客さまの課題解決に努めています。具体的には、SDGsを事業に取り入れたいお客さまに対しては、SDGs経営の実践に向けた課題や行動を整理する「SDGsチェックシート」を活用した「SDGsフレンズローン」を、脱炭素に向けた優先課題の把握に取り組まれるお客さまに対しては、GHG排出量の可視化やSDGs事業性評価などのソリューションを提供するなど下表のとおりラインアップを用意しております。

[出典:横浜銀行からの資料提供]

本件のSLLの取り組みについて

[SLL導入のフレームワークのご案内]

横浜銀行 BCM様と協調してサステナビリティ・リンク・ローン・フレームワーク(フレームワーク)を策定いたしました。チョコレートデザイン様が長年にわたってフェアトレードチョコレートの市場への浸透に取り組んでいるものの、規模・認知度がまだ小さく、業界へのインパクトが少ないという悩みを抱えていることに着目し、フェアトレードチョコレートの市場浸透を測るための指標を「サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット」(SPTs)に設定いたしました。

なお、本フレームワークは、国内外で策定されている各種原則・ガイドライン等に対する整合性について、株式会社日本格付研究所様からセカンドオピニオンを取得しており、策定にあたって意見交換を行っております。

[出典:横浜銀行からの資料提供]

 

[本件取組みにおける横浜銀行の考え]

横浜銀行 フェアトレードチョコレートの販売は、カカオ原産国の生産農家の所得向上につながることから、SDGsとの親和性が高く、サステナブルファイナンスを活用して外部へ取り組みを発信できるのではないかと横浜銀行は考えました。株式会社日本格付研究所様から、SLL原則への適合性についての第三者意見を取得することにより訴求力も高まるため、BCM様のニーズに合致した取り組みとなりました。

フレームワーク策定において難航した点は、本件実行までの間はBCM様とチョコレートデザイン様との間で協議を行うことが出来ないため、SLL実行前に一部のSPTsについて具体的な数値設定が難しいというLBOローンならではの課題がありました。そこで、本件実行時点では、SPTsの項目のみ設定し、ローン実行から一定期間内に具体的な数値目標を設定し、改めて株式会社日本格付研究所様から第三者意見を取得することにいたしました。

ESGに関するBCMの考え方

飛松 改めてBCMのESGに関する考え方をお話すると、弊社代表の金田はESG等のキーワードが取りざたされる以前から、社会に必要とされる事業か、存在する意味のある事業なのか、変化に適応できる組織なのか、を投資判断の大前提におき続けており、日ごろからかなり厳しく問われます。どんなに業績の良い会社でも、儲かりそうな投資案件でも、これらの説明がつかないと驚くほどあっさりと検討を止められる規律がBCMにはあります。BCMメンバーはそういったことに慣れているせいか、昨今一層重要性を増すESG・SDGsと言うキーワードも、今更当たり前、と言う感じで受けとめています。

また長期的視点で投資していることもあり、我々の投資先はExit後も隆々と成長しています。それが投資採算なり投資機会の増加なり、結果的にビジネスにも繋がっています。ESG・SDGsは形式要件としてのパワーワードでなく、実際それが投資の成功に繋がる要素であり、ビジネスに繋がる、もっと本質的な意味で使われていくと良いなと思っています。そういう意味で、横浜銀行様といち早くSLLに取り組めたことを嬉しく思っていますし、より広がると良いなと思っています。

最後に

飛松 後日談になりますが、本件実行前の検討段階では、どうしても限られた情報の中での評価で、SLLで設定したフレームワークも表面的なものからスタートしました。チョコレートデザインの商品・ブランドストーリーを世に広めるために時間や大きな労力がかかることを想像し当日を迎えたのが本音です。しかしながら、実行後蓋を開けてみると、チョコレートデザイン社内にはこれまで培ったノウハウ・材料が無限にあると言っても過言ではなく、また社員も非常にチョコレートデザインが大好きで、会社を良くしていきたい、良い商品を出していきたい、という想いが強く、様々なアイデアが多く出されており、BCMが当初想定していた時間軸より早く物事が進んでいます。

ただ、まだ管理体制が整っておらず、アイデアを施策に練り上げていく仕組みもない状況ですので、現在は体制・チームづくりを急ピッチで進めています。しかしながら、その体制・チームさえ完成できれば、現在の施策の質も量も現状を大きく超え、そしてチョコレートデザインの名前や商品をより多くの人に周知できると期待しています。いずれは会社の規模も世の中にインパクトを与えられるくらいのサイズ感になり、サステナブル社会の実現に大きく貢献できる会社になると強く自信を持っています。

横浜銀行 お客さまのサステナビリティ経営の高度化支援への取り組みは、地域金融機関である横浜銀行の経営戦略そのものです。横浜銀行は今後も本業を通じた社会・環境の課題解決に取り組むことにより、地域社会の持続的な発展とコンコルディア・フィナンシャルグループの企業価値向上を目指していきます。

以上

著者プロフィール 
飛松 治樹(とびまつ・はるき)
ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社/シニアヴァイスプレジデント

飛松 治樹(とびまつ・はるき)
ベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社/シニアヴァイスプレジデント
事業会社入社後、ベリングポイント株式会社(現PwCコンサルティング)に入社。入社後は、通信会社の中期経営計画策定支援、飲料メーカーのビジネス・デューディリジェンス、その他、組織再編支援やJ-SOX導入・IFRS導入支援等に関与。
その後M&Aアドバイザリー会社を経て、日本プライベートエクイティ株式会社に入社。化成品卸売業、建物調査業、保育園等の事業承継案件を担当し、投資実行、経営改善支援、Exitまでの企業投資にかかる一連の業務に従事。
2021年3月よりベーシック・キャピタル・マネジメント株式会社に参画。チョコレートデザインの成長支援等を手掛ける。
趣味はトレーニングジム、ジョギング
横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業

著者プロフィール 
横浜銀行
ソリューション営業部 サステナビリティ推進室

横浜銀行 ソリューション営業部 サステナビリティ推進室
2022年4月、お客様のサステナビリティ経営の高度化支援や脱炭素関連ソリューションの提供を担う本部直接営業部門としてソリューション営業部内に新設。
サステナビリティ分野における課題解決に努め、主としてサステナブルファイナンスの実行支援を行っている。

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