第21回『PE投資におけるESGの潮流』 日本PE協会PR委員会 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第21回『PE投資におけるESGの潮流』 日本PE協会PR委員会

 
 今回のオンラインコラムは、去る9月の日本プライベート・エクイティ協会の年次総会で行われたパネルディスカッションから、第二部の「PE投資におけるESGの潮流」についてご紹介します。モデレーターはCLSAキャピタルパートナーズジャパン代表取締役社長 清塚 徳さん、パネリストはMCPアセット・マネジメント プライベート・エクイティ投資運用部 マネージング・ディレクター 小林 和成さんとパートナーズ・グループ・ジャパン代表取締役社長 棚橋 俊介さんと、いずれもESGに造詣の深い方が務めました。是非お読みください。

清塚
このセッションでモデレーターを務めさせていただきますCLSAの清塚です。本日は日本のESGの第一人者といえるお二方、小林さんと棚橋さんにご登壇いただいております。日本プライベート・エクイティ協会としてESGを推進する一助になるような議論が展開できたらと思っております。
毎日、メディアでESGのことが出てこないことはありません。ESGの重要性というのは、当たり前になっているわけですが、実際に投資活動をしていく中でESGが何を意味して、我々日本のファンドとして何をやったらいいのか。どんな良いことがあったり、怠った場合にどんなペナルティがあったりするのか。そのようなことをお二方とのディスカッションを通じて引き出せたらと思っております。それでは自己紹介をお願いします。

小林
ありがとうございます。小林です。よろしくお願いします。私は三菱商事を振り出しに約30年間、投資家の立場でプライベート・エクイティファンド、ベンチャーキャピタルファンドへの投資をしてきましたが、2年強前に働き方を変え、プライベート・エクイティ関連でいくつか並行して仕事をしております。今日の所属先のタイトルなっているMCPアセット・マネジメントでは、東京都のお金を預かりして中小の事業承継ファンドに投資をするプログラムを運営しています。それ以外にもいくつか海外のGPのアドバイザーの仕事などをしていますが、共通するのは今日のテーマでもあるESGの関係や、どういう形で社会貢献できるかというところでいろいろな取り組みをしております。今日はよろしくお願いします。

清塚
ありがとうございます。では棚橋さんよろしくお願いします。

棚橋
はい、ありがとうございます。棚橋俊介でございます。日本プライベート・エクイティ協会に寄稿させて頂いた内容も含め、自己紹介と日本のPEのESGの歴史を話させていただければと思います。私自身はもともと信託銀行におり、その後ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントでプライベート・エクイティを学び、アントキャピタルでもプライベート・エクイティのことを教えていただきました。ESGとの出会いは、三菱UFJ信託銀行在籍時にGPIFのシンクタンクに出向していた時のことです。ロンドン在住のオーストラリア人、ジェームス・ギフォードという方が、あるヨーロッパの年金基金の方から紹介を受けて、私に会いたいと言ってきたのです。アポもなく成田空港からの電話でした。その場で夕食に誘われ、当日会って話をしました。彼は世界を良くしたい、サステナビリティだとか環境だとかいう話をし、私は大変感銘を受けたのですが、話が長すぎてその日のうちに終わりませんでした。明日続きをやろうということになったため、どこに泊っているか聞いたところ、ホテルをとってないという。私が、家に泊まっていくかと聞いたら泊まっていくと言ったのです。妻に了解を得て彼を泊めたのですが、私も妻も完全に説得されまして、彼をGPIFに繋ぐことにしました。彼の目論見は、GPIFにESGのイニシアティブに参加してほしいということでした。当時GPIFの投資専門員の寺田徳さんという方が対応したのですが、残念ながら話は進みませんでした。PFAにも持ち込んだのですが、こちらにも断られてしまいました。もう仕方ないので「ロンドンに帰ってください」と言ったら、「棚橋君が日本の代表となって推進してください」ということになり、サークル活動のように関わっていたところ、2005年にPRIの創設メンバーになってしまったのです。当時は30歳でしたが、運命のいたずらのようなきっかけでした。

清塚
ありがとうございました。小林さんもESGとの出会いや関与されたエピソードはありますか?

小林
棚橋さんほど面白いエピソードはありません。前々職のエー・アイ・キャピタルにいた時に、PRIのプライベート・エクイティ・ワーキング・グループのメンバーとなり、棚橋さんにも教えてもらいながら、理解を深めたというのが出会いです。その後、前職になりますが2010年から、ヨーロッパ系のキャピタル・ダイナミックスというファンド・オブ・ファンズに転じました。ヨーロッパ系は投資家のみならずGPの皆さんもESGに非常に力を入れていたので、私も社内のESGのコミッティに入り、日本のプライベート・エクイティのマーケットでどういう取り組みができるかを試行錯誤してきました。

清塚
ありがとうございました。では、本題に移ります。ESGはいろんな文脈で語られていますが、日本のプライベート・エクイティ協会でバイアウト投資をしているメンバーが集まっていますので、その前提で日本のバイアウト投資先のESGとは何なのかということを定義づけしないと上滑った議論になってしまうと思います。棚橋さんから定義づけを少しお願いできますか?

棚橋
分かりました。まず、ESGの今の解釈と昔の解釈は違うので、最初の解釈を皆さんにお伝えしたいと思います。最初は、E・S・Gという切り口で、人を助けたい、世の中を助けたいということでした。Eは人を活かす、Sは地球を生かす、Gは会社を生かす、ということでした。今はPRI総会をやると2000人規模の会議になりますが、初めてPRIの日本代表で行ったトロントの会議に集まった人間は40人程度でした。ヨーロッパには酸性雨などがあってESGの発想が進んでいました。他地域ではサステナビリティの発想が薄かったりして、各地域でやっていることのレベル感が全く違いましたが、各々の取組を相互にとり入れ、昨日よりも今日が少しでも良くなればいいという解釈でした。その後、上場株でファクターモデルをやるとか、方法論の発展があり、今の解釈に至っています。日本のプライベート・エクイティの場合は、事業承継、大企業、スピンアウト、いろんな切り口での案件がありますが、先程述べた「活かす」という発想で、それぞれの企業、地域、やり方で考えていただく。これがESGの定義と思います。

清塚
なるほど、定義されるというよりは我々が定義していくということですね。
次の質問は、ESGを推進するのはコストがかかるので、企業の成長や利益を阻害するので、リターンとESGは二律背反でトレードオフなのではないかという疑念を持つ方もいると思います。おそらくご専門の二方は違った考え方もおありでしょう。小林さん、どのように理解したらいいですか?

小林
定義について、棚橋さんの考えに私も同意します。が、結局ESGは、企業価値を高めるためのいろいろなやり方の中の重要な要素としてあるという考え方を基本的にしています。ESGをいろいろやるのは面倒ですし、推進には付加的なコストもかかります。が、ESGをやった結果、企業価値が高まれば、中長期的にサステイナブルなリターンにつながっていきます。その観点で何が重要かというと、ESGを実践することによって、新しいビジネスが伸びていくというところもありますし、Sのところで言いますとダイバーシティが進んだり、従業員のモチベーションが上がるということで生産性が高まったり、コストが下がったりいろいろな要素があります。やはりボトムラインとしては企業価値が高まるというところだと思います。

清塚
ということは、二律背反ではなく、整合性がとれる、あるいは正の相関もあり得るということですね?

小林
正の相関はありえると思っています。ただアカデミックの世界でも研究はしているものの、ESGの効果だけを取り出して分析するのは非常に難しいことがはっきりしています。基本的にGPの皆さんがいろいろなことに取り組んで企業価値を高めています。その一部にESGも含まれますが、ESGだけを分離して効果を取り出すのは難しいです。

清塚
ありがとうございます。さらにより具体的なイメージを皆さんに持っていただくために、お二方から、ESGとしてここはうまくやっているぞという良い事例をご紹介いただけるとありがたいです。小林さんにお願いしてよろしいですか?

小林
はい、いろいろな事例がありますが、日本のGPの皆さんを前に日本の案件を話すのは少し勇気がいるので海外の事例でお話します。東南アジアにNAVISというファンドがあります。2015年ぐらいの案件だったと思いますが、ECOという会社に投資しました。この会社はwaste managementを行っていて、基本的にリサイクリングを含めて産廃処理のようなことをやっている会社です。私たちが最初にこの話を聞いた時は、「そんな業種に投資するの?」、「ESG的にはアウトだよね」という反応でした。会社がいろいろな難しい問題を抱えていましたが、NAVISはデューデリでいろいろな問題を把握して改善することによって、きちっと企業価値を高めてエグジットできるというプランを描いて実現したというような例があります。よく上場株の世界のESGの評価で、これはマル、これはバツ、これは何点みたいなレーティングをつけてやっていくという世界と違って、やはりプライベート・エクイティというのは「会社を直す」、そういうことをきちっとやるための着眼点としてESGがあり、Eの部分にうまく対応したてリターンを実現した例だと思っています。

清塚
ありがとうございます。棚橋さん、何か補足ございますか?

棚橋
小林さんがおっしゃった通り具体的なお話ができるのが、プライベート・エクイティのいいところです。皆様のようなPE投資オーソリティの前で日本の案件を話すのは控えさせていただき、私どものパートナーズグループの投資事例からお話しします。アメリカ全国に約千店舗あるKinderCareという幼稚園を運営する会社があります。従業員に、電気を切って帰る習慣がなかったところをセントラル管理で切るようにしたら電気代が12%も減り、コストとCO2を削減してリターンを上げたという分かりやすい例があります。他にもUSICというインフラの修理の会社に投資をしていて、全米に5000台以上のトラックを有しています。ESGのSに着目し、安全運転をしたら賞金あげますということをやったら事故率が減り、コスト改善につながったということで、視点を変えると、単純だけど効果があって、バリュークリエーションにもなるような事例が結構あります。

清塚
好事例でも日本の具体名を出すのは憚られるということで、この質問はさらに難しいかもしれませんが、お二方から見てESG的にこうすればもっと良かったのにとか、こういったことはやっちゃいかんよという事例はございますか?では、棚橋さんどうぞ。

棚橋
私共はファンズオブファンズとしてGPさんとのお付き合いがあります。匿名にしますが、活動を高く評価している日本のGPさんがいました。そのGPの投資先にフランチャイズチェーンがあり、内容が夜の飲み屋さんでした。普通の投資家さんよりも厳しいESG基準を持っていらっしゃる投資家さんから、そのフランチャイズ事業にはファンズオブファンズから投資に参加しないようにしてくれと言われたことがありました。我々としてはリターンが上がる蓋然性はあるし、グローバル基準では問題ないのですが、個別の投資家さん的には厳しいということでした。会社としては自信を持っていい投資と考えてリターンも出して、他のエリアのグローバルな投資家さんからはいいねと言ってくださったのですが、一部とはいえイクスクルードしてくれという投資家さんがいたので、悪いというか微妙な事例でした。ここで最初のESGの定義に戻りますが、やはり自分で考えなければいけないと思います。GPさんも自分で考えて、ESG的には様々な解釈があるけれどもリターンに自信があるということであれば投資していただいて結構だと思います。基準も時代によって変わってくると思いますから、この辺りは一つ事例として考えてもらい、このようなスモールサークルで話し合うような場で判断して頂くということもありかと思います。

清塚
差支えなければ、その投資家さんは国籍とか属性はどんな投資家さんですか?

棚橋
実は日本なのです。日本国内の投資家さんでクライテリアが厳しい方でした。

清塚
小林さん、何か改善すべきだった、これは避けるべきだったなど、一般論でも結構ですけどありますか?

小林
ある食品製造会社です。原料の調達先としてアフリカと東南アジアの国がありました。いくつかのファンドが検討するなかで問題になったのが、そのような国でのチャイルドレイバーの問題やフェアトレードの問題でした。その問題を理由にやらないという決断をしたGPがいる一方で、あるGPさんはその問題を理解しつつも基本的には大丈夫だということで買収されたという例です。我々投資家の立場からすると、その判断がどうなのかと思うことがありましたので、そういう面ではますますグローバルなサプライチェーンを抱えるような企業に投資をする場合は、GPの皆さんもより注意をしなきゃならないと感じた事例でした。

清塚
ありがとうございます。大変参考になりました。さて、ESGの進捗を図る目安として、がPRIに署名しているGPの数があります。現在、日本PE協会正会員のGPは確か50社加盟していますが、PRIの署名状況はどのような状況でしょうか?

棚橋
PRIの日本のボードメンバーとして、お答えします。日本の署名機関はLPも含めてプライベート・エクイティ全体で119あります。PE関係のGPはバイアウトで13。ベンチャーも含めると16-17…20。全体の10%強ぐらいがPE関係のGPです。例えばAIキャピタルさんとか入っていませんのでそれを入れると、PEを主にやっていらっしゃるような機関は15ぐらいなのかなと思います。

清塚
全GP数やESGの重要性を考えると随分少ない印象ですが、何か背景がございますか?

棚橋
ESGとの出会いが2005年。その後、2011年に日本にPRIを導入するというタイミングでESGコードの導入が始まりました。当時、署名機関総数1500で、1/3にあたる500がPE関係と、比率の高さに驚いた記憶があります。現在の署名機関総数は5136です。ジェームス・ギフォードに、何故そんなにPEの関係者の比率が高いのか聞いたら、PEはダイレクトにESGを実践することができるからという答えでした。PRIには六原則があり、遂行するにあたって絶対にリターンは犠牲にしないということを最初に説明してから、投資家や運用会社に勧誘活動をしていました。それに同意できたのがPEだったのだと思います。つまり会社のSの部分について、ガバナンスを変える、従業員のことを面倒みる、心から考えて差し上げることが本当に心の底からできるのがPEだというのは納得感がありませんか?

清塚
では、なぜ、日本のGPの署名が進まないのですか?

棚橋
グローバルで署名しているGPは規模が大きく、日本GPは規模が小さいということです。日本のGPは20名以下ぐらいの規模のところが多い。よって、ESG専任担当者を抱えるコスト、英語対応コストがハードルになっています。
国内LPからESGをやれということを言われ始めたのが2016年ぐらいからで、同時期に署名機関が増え始めています。ティーキャピタルが最初ですが、それ以外にもJ-STAR、ポラリス、New Horizon Capital、インテグラル、あとアントキャピタルも早かったです。それ以降は一貫して増加しており、国内投資家の要望の強さを反映していると感じます。

清塚
署名機関が更に増えるためには何が必要でしょうか?

棚橋
PRI署名するハードルが高くなく、恐れるものでもないという正しい理解の普及が必要です。署名してすることは、会費を払うことと、レポートを年一回出すだけです。提出したレポートはPRIが評価しますが、内容は公開されず、自らのESG能力を向上させる為に使うだけです。これだけで投資家に対して、ESGをやっていますと言えるメリットを得ることができます。

清塚
悩まれている方は、棚橋さんにご相談に行って大丈夫ですか?

棚橋
大丈夫です。

清塚
普及という観点で、小林さんコメントをございますか?

小林
敢えて反論的なことも申し上げておきます。PRIというのは金融機関のESGにおいて非常に重要な機関です。多くのノウハウを持っており、それを活用して様々なESGの取り組みができるという利点があります。一方で、レポート作成にあたり、その裏側でしっかりとESGの取組みをする必要があり、いろいろな負荷がかかります。取組が不十分であればメンバーシップを剥奪すると言うぐらい、PRIは厳しくクオリティコントロールをしていこうということですので、署名に際しては、覚悟が必要でしょう。よって、GPの体制や規模がある程度整ってないと厳しい側面があります。ですので、私もGPにPRIに署名しなきゃダメですか、署名していないと投資家のコミットはもらえませんかと聞かれることがあります。それに対しては、そこは是々非々で、PRIに署名しているか否かが重要ではなくて、実態としてESGをどの考え、どのようにやっているのかというところが大切ですとお答えしています。個人的にはPRIの署名機関が増えてほしいと願う反面、GPはあまり無理はしなくてよいかなという意見です。

清塚
投資家によってどのぐらい重視しているか、見方が違うというのは非常に興味深いです。これは国籍とか属性によっても違う印象があります。例えば、もしPRIに署名していない、ESGを何もやっていないという時に、海外LPはどのように対応するでしょうか?

棚橋
7,8年前までは、コンプライ・オア・エクスプレインという言い方をUKの人たちはしていました。つまり、署名してないならそれはなぜなのかを説明する、あるいは署名していないけどちゃんとやっていることを説明すれば良いということでした。ただ現在では署名していないと海外ではかなり厳しいと思います。私はグローバルのプライベート・エクイティ・アドバイザリー・コミッティの日本オブザーバーをしています。そこでLPの委員だったスウェーデンの投資家、AP-fondenが言っていたのは、署名していなかったら完全に投資しませんと標榜している方々がいるこということ。あとはファンズオブファンズもPRIに署名していることが必須になっているので、海外投資家に接する場合はPRIに署名しておいた方が良いと思います。

清塚
署名していないと海外からの資金募集は現実的には難しいということですね?

棚橋
アジア周りのソブリン・ウェルスは可能性があるように思いますが、OECD諸国の大手の投資家や年金は難しいと思います。

清塚
国内投資家は大まかに分けるとGPIFを含めた年金系、保険会社系、そして銀行を中心とした金法系などありますが、対応に類似性や相違はありますか?

小林
国内でESGに一番力を入れているのがGPIFだと思います。GPIFが2015年に署名機関になり、マンデートと取るためにアセマネや信託銀行が署名し、普及に貢献しました。ですが、ほかの保険会社や銀行などの金融法人は、必ずしもPRIに署名してなければダメということはないという印象です。ですが、棚橋さんが言及したように、グローバルと同じようにPRIに署名しているのは当たり前という風潮がありますので、一定サイズ以上のGPであればやはり署名機関になっておくとよいでしょう。
海外の投資家の話に戻します。私は前職でアジアのファンド投資責任者をしていたので、日本を除くアジアのファンドも数多く見ましたが、PRIに署名してないファンドはたくさんありました。投資担当者の立場からすると、すごく良いファンドでもPRIに署名していないからということでその案件を落とすかというと落さないと思います。きちっと説明してICの承認をとります。投資家の組織の中でも温度差があって、投資の担当者やフロントにはESGはそれなりで良いがリターン重視、という人も実態としては多く、投資家の組織の属性だけで判断基準が決まるというものでもないというのが実態だと思います。

清塚
ありがとうございます。やはりESGは海外の方が進んでいますね。スイスを本拠とするパートナーズグループは、先進的なESGルールをお持ちだとお聞きしたので、参考にご紹介いただけますか?

棚橋
バイアウト投資に関しては、ソーシング、デューデリと保有期間中の三つに分けます。ソーシング時にネガティブスクリーニングを行います。たばこや武器製造など、業種で選別します。これは投資を組み入れる商品性と自社の経営理念の両方の観点が含まれます。また、同時並行するデューデリでは一次でリターンを分析し、その後にポジティブスクリーニングを行います。ポジティブスクリーニングはSASB(Sustainability Accounting Standards Board)基準を用い、サブセクターごとに、E・S・Gで質問をします。回答を青、黄、赤の三段階に色付けし、全てが黄色か青色にならないと投資を進めることが出来ません。投資期間中に黄色を青色にできるものをESG・KPIとしてトラックし、ESGエンゲージメントとします。組織内にはバリューアップのチームがグローバルで60人程度いますが、その中にESG専任が5人いて、投資チームとともにエンゲージメントの実践をしていきます。

清塚
それは、日本の現状と比較するとだいぶ先を行ってらっしゃいますね。

棚橋
日本での実践は容易ではないかもしれません。

清塚
小林さん、アメリカの先駆的な事例がありましたらご紹介ください。

小林
アメリカでも大手のGPは同じような取り組みをしています。面白いと思ったのは、カルパース(CalPERS)が主導して始めたESGのデータコンバージェンスプロジェクトです。ESG項目、KPI設定というのは案件ごとに異なりますし、GPの考え方にも差異があってESGが全体的に浸透しないという課題認識から、最低限のデータを共通する項目で集めようという試みです。現在、200以上のGP、LP、その他機関が参加しています。日本からもLPの他、GPではユニゾンなどが加わっています。具体的に6つのカテゴリーで15項目ぐらいを選んでデータを集め、それを毎年定期的にモニタリングするというプロジェクトです。GPは規模のばらつきが大きい他、投資対象の規模のばらつきもあるため、画一的に全部やるのは困難ですが、このような形で一歩一歩実績を積み重ねていくのが重要だと感じます。

清塚
ありがとうございます。最後に一言、お二方からPE協会の皆様に向けて、ESGを推進する上でのメッセージをお願いします。

棚橋
冒頭に、ESGは自分で考えるべきもの、と申し上げました。ESGの基準は時代によって変わります。昨今は、ロシアによるウクライナ侵攻などの地政学上の理由で武器製造が正当化されるような議論がありますが、5年前には全くありませんでした。なので、ESGを時宜に合ったESGをPE協会の皆さんで常に議論し、自らのESGを実践するということを期待しています。また、プライベート・エクイティの支援により、これまで企業として消極的だった取り組みを積極的に行う事としてESGがあると思います。また、投資家サイドでは、アセットに占めるPEの比率は増加傾向にあります。一部の投資家だけがクラブディールをしていた時代から多くの投資家がPEに投資をするという、いわゆる「PEの民主化」が起っています。そのような環境の中、投資家はGPのバリューアップ活動の一つとしてESGの普及/実現を期待しています。

清塚
ありがとうございます。小林さん、お願いします。

小林
ESGは投資家から言われてやらされている感じがGPには現実的にあると思いますが、お話した通り、ESGは企業価値を高める有効な手段です。GPの皆さんの多様な取り組みを通じて、日本のPEにとってのベストプラクティスが確立していくことを期待しています。
日本の投資家も多くの海外のファンドを見ていますので、先駆的なESGの取り組みについての情報を持っています。GPの皆さんも、投資家の持っているいろいろな情報やノウハウを活用するのが良いでしょう。

清塚
ありがとうございました。
最後になりますが、私から質問です。地政学上の問題によるESGへの影響の話がでました。世界はエネルギー危機晒され、ESGのEの部分がかなり影響を受けていますが、何か変化を感じていますか?

棚橋
これまでCO2を出す発電は基本的になくして再生可能エネルギーに一本化する方向で話が進んでいましたが、昨年末ぐらいからフランスのマクロン大統領が原子力を完全に正当化し、日本でも原子力発電所を再稼働させる動きがでてきています。これはとても大きな変化で、これまではガス火力もダメでしたが、今や石炭火力はダメだけどガス火力はクリーンだとなっています。ESGは変化するものだという現実を突きつけられているという事例です。

清塚
従って定義もできないし、自分の頭で考えてくださいということですね。今日はお二方にご登壇いただき、ESGの議論ができたこと大変良かったと思っています。最後に皆さんから、お二人に大きな拍手をお願いします。

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