今回のオンラインコラムは、去る9月の日本プライベート・エクイティ協会の年次総会で行われたパネルディスカッションから、第一部の「日本のPEビジネスのこれから」についてご紹介いたします。日本のプライベート・エクイティの草分けであり、本協会の発起人の一人でもあるユニゾン・キャピタル 共同創業者 江原伸好さん、アドバンテッジパートナーズ 代表パートナー 笹沼泰助さんに、ファンドを始めた当時の想い、本協会を始めた当時の想い、そして次の世代に託す想い等について語っていただきました。今回はその前半部分となります。モデレーターはアント・キャピタル・パートナーズ 代表取締役社長 飯沼良介さんが務めます。大変興味深い話が沢山出てきますので、是非お読みください。
飯沼
このセッションのモデレーターを務めさせていただきますアントキャピタルの飯沼と申します。本日はどうぞよろしくお願いします。
パネルの方々のご紹介というお話でしたけれども、このお二方を知らない方はいらっしゃらないと思いますので、もう紹介はほぼ要らないというふうに思いますが、後ほど是非お二方から近況を踏まえてそれぞれコメントいただければと思います。
このパネルではこれからの日本のプライベート・エクイティ協会に期待をすることということで、この重鎮のお二人からお話を頂きます。このお二方が揃われるというのは相当久しぶりじゃないかと思います。予想もしない話や茶々が入ると思いますけれども、非常に楽しい面白い内容で皆さんにお伝えできることができればと思います。
今日はこのお二方に3つの想いをお話いただければと思っています。
1つ目は、黎明期にこの業界に入ってこられて、どういう想いでビジネスを始められたか。そしてその想いがどれくらい達成されたのか。
2つ目は、次の世代にバトンタッチをされつつあることに対する想い。
3つ目は、プライベート・エクイティ協会が、GPそれから周りの方々を含めて、ステークホルダーの方々とどう発展していって欲しいのかという想い。
この3つをお話しいただければというふうに思います。
ではアドバンテッジパートナーズの笹沼さん、まず近況少しお話をいただければと思います。
笹沼
はい、ありがとうございます。皆様大変ご無沙汰をしております。こういう形で、高いところから今日は失礼いたしますが、せっかくの機会をいただきましたので、私自身のこれまでの経験と業界の将来に対してのビジョンを少しお伝えできればと思います。近況は実はフルタイムで仕事をしております。私たちはグループの中にいくつか事業がありまして、後でまた話が出ますが、日本の場合は、当ファンドは喜多慎一郎が今日ここに来ていますけれど、彼のリーダーシップの下でファンド運営がされています。私とそれからリチャードフォルソムの名前もご認識いただいていると思いますが、この創業者の両名も個別の案件に入ったり、投資委員会にもメンバーとして入り、またキーマンにも入ったりしていて、喜多の体制を支える側面支援を続けています。それ以外にいくつかの新規の事業、あるいは新規のファンドの企画等をやっておりますので、時間の何分の一かをそうした活動に割いています。
飯沼
ありがとうございます。それでは江原さん、お願いします。
江原
はい、江原でございます。こういう機会で皆さんにお会いできるのを大変うれしく思います。
私の近況という意味では、ユニゾンのトップからステップダウンして、ちょうど2年ちょっと経ちます。以前と比べますとクオリティオブライフはもう歴然と良くなっております(笑)
どんなことをやっているかということですけど、基本的にはパートタイムで関わっている案件が多いです。社外取締役を3社ほどやらせて頂いたりとか、ベンチャーキャピタルを立ち上げたいという人のグループを支援してあげたりとかを行っています。あとすごく多いのは、人生相談に乗ってくださいという方が結構多くいらっしゃいまして、パターンを見ると30前後の方、40を回って今後これから10年20年どうするんだという方、50をすぎてあとどんなことで頑張るか悩んでいる方の相談を受けています。どれもたいして収入に
繋がらないような仕事ばかりですが、共通して言えることは、今まで自分がやってきたことをベースに少しでも何か還元できれば嬉しいと思いながらやっております。それが私の近況です。
飯沼
お二方どうもありがとうございます。江原さん、ぜひちょっと林さんに内緒で、今度僕がどうやったら頑張れるか人生相談に行きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
江原
いつでも。
飯沼
はい、ありがとうございます。
それではさっそく本題に入って行きたいと思います。では、江原さんからお話を頂いたばかりでございますが、黎明期にユニゾン・キャピタルを立ち上げようと思われた想いや、その時に描かれたユニゾン・キャピタルの将来はどのようなものだったのか、それがどれくらい達成できたと自分で思っていらっしゃるかお話しいただけますでしょうか?
江原
はい、時間は30分ぐらいですか?(笑)
なるべくコンパクトにお話しさせていただくと、プライベート・エクイティをやろうかなというふうに考え始めたのが96年です。その時にいろんな方とお話をさせていただいたのですが、そのうちの96 – 97%の方が猛反対していました。何を考えているんだと。プライベート・エクイティという言葉も含め、ビジネスそのものも日本ではまだ存在しておらず、バイアウトという言葉もほとんどありませんでした。そんな動きをつくるのは無理なのに、なんでそんなに焦って無理をするのかということを言われました。でも数パーセントの人には面白そうだと言っていただき、そのうちの一人はここに居る笹沼さんでした。あの時のことを今でも鮮明に覚えていますが、この世の中のほとんどの人が反対する中で似たようなことを考えている人がいるんだと知った時は本当に嬉しかったです。そういうきっかけもあったせいか、我々が各々のファンドを立ち上げていろんな意味で業界全体が広がることが、ひいては自分たちにもプラスになるという考えを笹沼さんとは共有してこられたというのが黎明期の時のエピソードです。
飯沼
ありがとうございます。
笹沼さん、今のお話を受けられて、江原さんと出会いも含めて、どのようにアドバンテッジを作られたかというところもぜひお話いただけると幸いです
笹沼
会社自体は実は1992年にできています。プライベート・エクイティファンドをやろうと思って弁護士に相談したところ、日本では独禁法の問題があって出来ないという話でした。要は、戦後の財閥解体の影響で何とかホールディングスという営業実態のない所有をするだけの会社というのが独禁法で認められておらず、ファンドというのは限りなくそれに近いので、その先生の見解では日本ではできないということでした。ただ、規制緩和が絶対起こるだろうということをリチャードと二人で話して、それまで違う事業を2つ立ち上げて待機していました。
96年にその弁護士の先生からとうとうその日が来たと電話がかかってきて、そこですぐ目論見書を作って機関投資家様を回り始めました。ちょうどその時期に江原さんとの出会いがあって、上原の我が家に来ていただいて、一緒に出前の寿司を食べながらPEの将来について話して、一緒にやりませんかという話も当時していた記憶があります。
それぞれの出自と経験は違っても同じ時期に市場機会というものを捉えて、まさに同志として一緒に業界を作ってきたという思いです。
飯沼
ありがとうございます。今の話を聞いていると、もはやモデレーターなしにお二人でお話し頂いた方がいいんじゃないかと思いながらお話を聞いておりました。
例えば、アドバンテッジさんだとこれぐらいのファンドサイズにしたいとか、こんなことをやりたいというような、その時に描かれた具体的なビジョンみたいなものはありましたでしょうか?
笹沼
実は始める以前から6、7年ほどM&Aのマーケットの研究はしていました。日本でプライべート・エクィティ的なものがアセットクラスになり得るのかというようなテーマでいろいろ調べてはいましたが、いかんせん会社を売るということに関しての文化的、心理的な抵抗があまりにも大きいように当時から感じていました。
したがって、将来的にはアメリカに追いつきたい、追いつくべきだと思っていましたけれども、いくら経済規模が大きくてもアメリカのようなものにはならないと思っており、当時からいくつか異なるアセットクラスを並行してやっていくようなかたちでないと、会社としては大きくなれないなと考えていました。また、日本だけに投資活動を限定していると制約がありそうなので、海外にも出て行くべきだろうということは相当早い段階からリチャードと話していました。
中期事業プランを作ったことがあり、2015年までにアセットアンダーマネジメントで2兆円か3兆円くらいを運用する会社になろうという目標を立てて初期の頃はやっていましたが、残念ながらまったくそのレベルに到達しておらず、私が元気でいられる間にできるかどうかわかりませんが、10年遅れでなんとか目標を達成しようと取り組んでいるところです。
飯沼
ありがとうございます。喜多さん何年ぐらいで達成できる感じでしょうか(笑)。すみません、いきなり振りまして。
では、江原さん。
江原
我々は、広い意味では金融の一端ということで投資業務をやっているわけですけど、やはり金融の世界において規模感というのは非常に重要なことだと思います。マーケット全体がどれだけ大きくなるか、自分たちがどれだけ成長できるのかということですけれど、やはり日本の場合は残念ながら私どもが想定したほどのスピードで変化は起きなかったというのが正直なところです。
プライベート・エクイティと日本の経済ということを考えると、当然規模感からすれば全然違いますが、やはり新しいものを作っていく、新しい新陳代謝を作っていくというメンタリティーが残念ながらこの国は失ってしまっているというか、スピード感という意味においては国の規模からすれば、もっと大きくても良かったのではないだろうかと思います。これは後ほど出てくる将来の課題というところに直結するかもしれませんけど、我々は一体その中で何ができるのだろうかということが、みんなで考えていかなきゃいけないことだと思います。
その中で私は創業した時から非常に大切している考えは、起業家精神というスピリットです。ここにいらっしゃる方々の中にはそれなりの数、創業したという方もいれば、受け継いだという方もいれば、いろいろな立場の方がいらっしゃるかもしれませんが、創業するしないとはまた別次元で、PEの投資家としてプロアクティブにいろいろな投資家のみならず、投資先の経営陣、従業員の方々に能動的に働きかけていくというのは、起業家精神というものと非常にこう共通するものがあるのではないかという気がしてなりません。さっきの笹沼さんの話に戻りますと、僕は最初会ってすごく思ったのは、起業家精神をすごく強く持っている方がこの日本にもいるんだと嬉しく思ったことをよく覚えています。
飯沼
ありがとうございます。そういう意味でいうと、笹沼さんの規模感の話であったように、当時描かれたいろんな分野への投資はアドバンテッジさんが築いて来られておられますし、お二方ともグローバルにも進出してやっていらっしゃると思います。その点において、規模感は置いておいて、マーケットがようやく今追いついてきているような気もしています。大企業はやはり成長するために新陳代謝をしなきゃいけないということでポートフォリオの入れ替えをやり始めているといったところでマーケットはようやく皆さんが描かれたようなマーケットに近づいてきている中で、規模感以外のところでの達成感みたいなところはいかがですか?
笹沼
非常に重要なご質問です。業界が健全に発展して行くべきだということで江原さんが音頭を取られて、今ここに集まっている日本プライベート・エクイティ協会というのを作りました。それ以前にも一定頻度でお昼を食べながら、業界がどうあるべきかや、投資の倫理のこと、あるいは法律的な問題等についても相当話していて、私はその時に江原さんから学ぶことがすごく多かったです。金融のエキスパートの人というのは、社会的、あるいは法律的、いろんな行政の面からも、その投資事業のあり方というのを見ているんだと思いました。私はそうした経験がなくて、コンサルタントをやっていたので、会社を個別にどうすればいいかということばかり考えていたわけですが、もう少し高い視点から見て行く必要があるということをその時に学びました。
私自身のことを言えば、力不足でなかなか市場を牽引したり、日本のPE市場を大きくしていったりするということに貢献もできませんでしたが、ただおっしゃるように質的には相当変わってきていますし、特にこの数年で、社会全体におけるプライベート・エクイティ市場、あるいは業界の機能が市民権を得てきたと認識しています。我々が当初いろんな大会社に訪問したり、オーナーに会いに行っていったりしても、「何を言っているんだ。会社を売るわけがないだろう。それより買える会社を持ってきてくれ。」というのが大手の企業グループの関連企業担当部門あたりの共通的な言葉で、会社や自分の部門を外部に売るということは社員を見捨てることと同じだと、そんなことをできるわけがないというのが、だいたい共通的な反応でした。
ただ我々は、少なくとも私はそう思っていなかったので、大きい企業の中に部門としてずっと居させてあげて給料を払っていれば、その人たちが生き生きと職業人として生きて行くことになるのかというと、私はそれは違うと考えていて、むしろ本体の中で非本業というように仮に分類されたのであれば、それをどんどん外部化することによって、いろんな新しい自由度を得て成長して行く方がよっぽどその部門の従業員や、あるいは家族の皆様やお取引先様にとって有益なことであり、まさにその社員を活かすというのはそういうことではないかと私は強く考え感じていましたので、そうした言葉をいつも頂く度に結構チャレンジしていました。そういうような思いで、ただ社員のみなさんを生かさず殺さずにやっていること自体が大きな経済的な損失であるし、その方々の生きがいを奪っていますよと、若気の至りでチャレンジはして来ましたが、こうして30年近く経って見ると徐々に世の中がそういう風に動いてきたなというように思います。
飯沼
ありがとうございます。まさにそうした初期の頃にチャレンジしていたことで、いろんな企業の考え方も変わってきたんだと思います。江原さん、その点について、同じようなところでコメントいただければと思います。
江原
おっしゃる通りだと思います。2つほどコメントさせていただきますと、1つはプライベート・エクイティ業務をやるにあたっては両輪が必要で、我々みたいなGPサイドの人間も必要ですが、もう一つは投資家の方も必要です。この7、8年で、この両輪がようやく一緒に絡み合って動き始めたということは言えると思います。これは日本の国全体にとっても非常に良いことかなと思います。世の中でプライベート・エクイティを一般の人がどれだけ理解しているのかはともかくとして、やはり最初の頃はハゲタカというふうなことを言われていました。しかし、今はハゲタカのテレビのシリーズを見ても、最近は英雄として描かれているじゃないですか。15年も変わると世の中も変わるんだというように思いますが、我々が果たす役割というのも相当ありますし、嬉しいことにここに集まっている方々が、成功案件を一つ一つ築いて、すごいトラックレコードがグループとして蓄積できた結果ではないかと思います。胸を張って、私はこんな案件をやりました、私はこんな風にやって会社の成長を促しましたと言えるものがたくさん出てきたというのは嬉しいことだと思います。