2021年度 JPEAアウォード受賞案件インタビュー日本に活力を与える外国人材を増やしま賞 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2021年度 JPEAアウォード
受賞案件インタビュー
日本に活力を与える外国人材を増やしま賞

ISIグローバル株式会社

代表取締役

荻野正昭氏

株式会社日本産業推進機構 

マネージャー

大橋俊介氏

 

案件概要

対象会社 ISIグローバル株式会社
スポンサー 株式会社日本産業推進機構(以下、NSSK)
売り手 創業家
案件発表 2021年10月
事業概要 日本語学校等の運営
業績概要 2022年3月期:売上高24億円
主な価値創造
(計画)
・外国人財の輩出を通じた日本経済への貢献
・職場環境の整備を通じた従業員の多様化促進(性別・国籍)
・紙の排出量の削減を通じた環境資源の保護
・デジタル化を通じた教育品質の向上
・経営人材の補強によるガバナンスの向上
・留学代理店との取引関係深化、デジタルマーケティングを通じた募集力の強化
・新規校舎の設立を通じた校舎キャパシティの向上
・M&Aを通じた業界再編

ー NSSKを株主に迎えるに至った経緯を教えてください。

荻野今年でISIグループ創立45周年になります。2012年に私が代表に就任したのですが、当時は震災で学生が減って、大きなダメージを受けました。その後の数年である程度回復が見えてきましたし、政府の方針に照らしても将来留学生が増えていくのは間違いない状況でしたから、日本語教育の事業をもっと拡大すべく、成長を目指してきました。2019年に学生数5千名、売上高50億円という目標を掲げていたのですが、まず学生数の方に目処がついてきました。成長を目指すにあたってはマネジメント層を強化することが大きな課題でしたが、その採用は我々中小企業にとっては大変難しいものがあります。それに我々の場合、ある程度初期投資が必要になってくるので、それまでは金融機関さんの力を借りてやって来たものの、新しい成長投資の手段を考えるようにもなっていました。

そんな頃、我々も業界の上位の規模になってきたこともあって、いくつかの事業会社さんから資本参加のお話をいただくようになりました。20年の夏くらいにはいくつか事業会社から具体的に良いオファーをいただいたのですが、その当時の提案では、我々がその事業会社の傘下に入ることによって、どういう相乗効果を得たり、成長ができたりするのかというイメージが持てなかったんですね。ただ、外部の株主を迎えることをきっかけにして成長を実現しようという意識が我々としても高まって来たので、仲介会社さん経由でファンドの方々をご紹介いただいたような経緯です。NSSKさんと初めてお会いしたのは11月でしたね。

大橋:はい。最初は私と佐藤、それから我々の投資先でEdulinXという教育関連の会社があるのですが、そちらのピーターという社長の3名でお会いしました。

荻野:それまでは特段のイメージも持っていなかったのですが、複数社お会いする中で、ファンドさんのカラーはそれぞれ違うのだなあということがわかりました。NSSKさんはとにかく誠実だったという印象です。我々は教育機関ですから、真面目であることを重視して相手を決めようと思っていましたので、好印象でした。

大橋:初めての面談に向けた下調べで日本語学校の業界情報をつかもうとしたのですが、シェアや、業界大手がどこなのかもすぐにはわからず苦労しました。協会のデータベースを使ってランキングをつけてみたところ、ISIが大変大きい会社であることがわかりました。過去5年間・10年間の生徒数の伸びの開示をみても、業界全体として毎年10%以上で成長していたんですね。足元の労働人口の減少を踏まえると、今後の日本経済にとって重要なテーマでもありますし、市場をマクロで見たときに将来性のある、ぜひ検討したい案件だと考えました。ESGはNSSKとして重要な指針の一つですから、それに沿う投資という意義づけもあります。だからと言ってリターンを犠牲にしていいというわけではありませんから、コロナ禍が長引いたとしてもちゃんとリターンが出る投資になるのかを徹底的に検討しました。他の投資案件と同じようなステップを踏んで、何パーセント利益率を改善できるのか、学生数は今のキャパシティだけでどこまで増やせるのか、キャパシティを増やすとしたらどういうオプションがあるのかを会社側の方々とも議論しながら検討しました。

代表の津坂も「そもそも市場として伸びているし、日本経済にとって重要な事業だから、これは支えるべきものだ」と強く推していましたね。

荻野:私もその点についての代表の強い思いは初期の段階からすごく感じました。

大橋:20年の12月ですかね、初めて津坂と石田にご面談いただき、その時に津坂から熱心なラブコールをさせていただいて。投資の実行に至ったのは21年10月ですから、初めてお会いしてから1年ほど経っていました。

コロナ禍に対処し将来への手を打つ

荻野:コロナ禍の事業への影響は大きいものがありました。始まりは海外から外国人留学生の入国ができなくなったところからです。初年度には2020年10月から3カ月間だけ再開されましたが、また閉じられてしまい、そこから1年2カ月、今年の3月までずっと入国できませんでした。我々学校側の努力としては、海外で待っていてもらうだけでは売上が立たないし、学生にとってみればその次の進学や就職の予定もありますからいつまでも待っているわけにはいきません。オンライン授業を案内して、半数くらいは何とか対応することができましたが、あとの半数については売上面で大きな影響がありました。コロナは我々がコントロールできることではないので、自分たちでできることに集中しようと割り切るしかありません。とはいえオンライン授業でも長期化すると離脱者が出たり、再び入国できるようになるまで休むという人がたくさん出たりと、現場はドタバタしていました。初期的には資金ショートの可能性もシナリオとしてはあり得たので、NSSKさんには事業見通しと対応策の準備を一緒にやっていただき、はっきりとサポートの姿勢を示していただいたことで、ここまでなら業績が下振れても大丈夫という安心感を得られたのがコロナ禍で経営を担う立場からは一番大きかったです。

経営については基本的に任せていただいていると同時に、それほど大きな話でなくても随時相談に乗っていただいています。経営会議で定期的に現状報告する中でもいろいろとアドバイスいただき、コロナ後の成長を見据えた打ち手についても、我々だけであればもうしばらく様子を見ていたはずのことにも着手できました。

当初我々が資本提携を望んだ根本的な一番の理由である人材面でも早急に手当ていただいて、すぐにCFOと営業部長、それにデジタル部門の責任者という幹部3名を迎えることができました。基本的には紹介会社経由にはなりますが、やはりファンドの方の人脈と紹介会社を動かす力、そして優秀な人材を引き寄せる力は次元が違うと身を持って感じました。

大橋:やはり事業の立ち位置というのか社会的な意義というのか、そういう面から比較的人は集めやすかったです。一部上場企業で働いていた方で、海外赴任から帰って来たタイミングで日本を見つめ直される方がたくさんいらっしゃいます。日本のために自分がどう役に立てるか考えたときに、日本語学校はやりがいがあると思ってくださる。デジタルマーケティングでいうと、例えば元Googleの人なども含めて、ぜひやりたいというお話をいただいていました。そういう方々の中から厳選して荻野社長にご紹介するようなプロセスです。デジタル化は初めから重点領域だと捉えていましたから、我々が入って早期に補強出来て本当によかったと思っています。

大きくなることでサービスの質を上げる

荻野:海外からの学生募集には、エージェント経由と直接応募の二つのルートがあるんですが、一般的にはエージェント経由が90%以上です。我々は、直接募集に力を入れてきているので、3割弱は直接取れているんですが、そこではウェブマーケティングが非常に重要で、我々が募集する地域すべてでやっています。言語や広告の手法も含めて対象が広いのでそこをどう強化するかは大きな課題です。

また我々は進学・就職という学生にとっての出口も支援しています。アジアの学生にとっては進学が最も多いニーズでして、大学、大学院、専門学校が出口になります。最近我々の学校で強化しているのは就職ですね。海外で大学を卒業していればそのまま就労ビザに切り替えられますので、日本語学校を経由して就職することもニーズとしてあります。そのあたりのキャリア支援を我々のサービス、教育の一環としてやっています。日本企業が日本語のできる海外の若者を求めるニーズは高まっています。一時期観光ホテルなどの業界では採用を減らすような動きもあって心配していたのですが、今年3月の進路決定率もISIグループ全校で95%以上でしたので、最終的には皆さん希望が叶っているようでほっとしています。

日本語学校の就学期間は1年3ヶ月、1年6ヶ月、1年9ヶ月、2年の4つのパターンがあります。修了が3月と決まっているので、入学はそれぞれ1月、10月、7月、4月となります。専門学校は2年で大学は4年課程。日本語学校を修了すると、我々のグループでは6-7割が日本で進学し、15%くらいが日本で就職、残りは帰国します。

今後については、全体の学生数を大きくするという目標がありつつ、その後の国内での進学ニーズは大きく増えることはないと思っています。留学生30万人計画という国の計画があって、いったん約30万人に達したんですが、コロナ禍で減ったところから5年かけて再び30万人に戻そうとしています。日本語学校を経由して専門学校、大学に行く層は、これまでと同様の水準で推移するとして、就職については潜在的に大きな市場があると思っています。最近始まった特定技能や、通常の就労ビザも規制が緩和されており、企業側の採用ニーズも高まっています。我々はそこに注目していて、4月に原宿で「日本語キャリアコース」をスタートしました。これは日本語学校を経由して就職することに特化した内容で、ほかの学校にはほとんどありません。まずは小さな規模でスタートしたので多くの学生を待たせている状態でもあり、今度は渋谷で同じコンセプトの学校を始める準備中です。進学に加えて就職していく人材をもっと増やして、そこでインパクトのある数字が出せれば、ブランド力や影響力を強化していけると思っています。

大橋:就職支援は強化する必要があります。渋谷と原宿を合わせると800名近くの学生数になりますので、将来的には、例えばそこの学生を企業に紹介することで紹介手数料を受領する新しいビジネスモデルにつなげられるのではないかと思っています。もしくはそこを前提にして授業料を免除するといったやり方を組み合わせれば全く新しい募集方法につなげられるかも知れません。出口が決まっている学生は目的がはっきりしていて、学習意欲も高く、不法就労のリスクも減ると言われています。しっかりした会社に就職が出来れば、日本の経済のためにもなります。例えばベトナムの方で、ベトナムのエージェントに手数料を30万円支払って来日して日本語学校に入学し、そこでまた授業料を支払うことになりますが、我々がそこを一気通貫で面倒をみられるようになれば、日本のイメージも大きく変えることができるのではないかと思います。

荻野:就職支援については、本部の企業営業担当の3名が中心となって、企業に求人を出してもらったり、説明会を開催してもらったりしています。学校現場では個別にキャリアカウンセラーを置いて、ひとりひとりのバックグラウンドを踏まえて、その学生の希望に沿って、海外からの学生には何かとわかりにくいことの多い日本企業の就職プロセスでの支援をしています。こうした機能を充実させていくためには、追加の採用や機能強化を進めていく必要があると思っています。

大橋:本社機能を強くするためには、事業規模を大きくすることが重要になります。日本語学校というのは規制産業ですから自由に作ることはできません。例えば新規校を出すには学生数100名から始める必要があり、その後は段階を踏んで拡張の認可をもらっていきます。投資をすればすぐにマンモス校が作れる訳ではありません。一方で、小さい学校だと教師の方が授業内容を考えながら、海外向けに学生の募集をしている。学生寮も場所を探さなきゃいけない。日本語学校の業務範囲は、他の教育産業と比較しても多種多様に渡ります。事業規模を拡大し、分業化を進め、職員ひとりひとりが専門性を持ってやっていく方が効率化も進みますし、学生に対するサービスレベルの向上にもつながると思っています。実は、先ほどの渋谷校もほかのところからお譲りいただいて、ISIブランドの新規校として開設しています。

荻野:日本語学校は、基本的にオーナー社長や校長がいて、歴史のある学校では高齢のオーナーさんが引き続き頑張っていらっしゃるところが多いですね。どのオーナーさんも学生募集もして、学校運営もして、学生が警察のお世話になるようなことがあれば飛んで行って対応して、もう本当に休む暇もないという状況をよく耳にします。

我々は早い段階からそれとは別の方向性を目指してきました。まず学生募集は一か所でやるべきだ、と。学生募集は本当に手間がかかるし、外国語対応も当然必要ですし、一年くらい前から始めます。普通の学校と違って学生の生活まで面倒をみる必要があります。外国人の犯罪を撲滅するという法務省の強い考えがあって、日本語学校は学生が入国してからビザが切れるまで一貫して責任を負います。そのため海外にある英語学校と比べたら、日本の日本語学校の方が圧倒的に大変です。住居だけでなくアルバイトで何時間仕事をしているのかまで把握しないといけない。普通の教員がやるべき仕事は本来、専門性を考えれば教育だけでいいはずです。労働時間の問題にもなりますし、過酷な職場だと思います。これを適正化したい。学校をいくつか作っていく中で、機能を分けて、それぞれの専門性を高めて、無理なく対応できるような体制を作ることは、教育現場の観点からも実現したいテーマです。

大橋:それは在籍学生の国籍分布にも影響を与えます。いま我々は完全に分業できているので、生徒の国籍が比較的分散されています。ただ、学生の募集はネイティブの営業リソースを抱えていて営業先の国の文化に則った折衝をする必要がありますから、規模の小さな学校では、強みのある特定の地域からしか学生を集めることができません。せっかく日本に来て日本語を学ぶのに周りが自分と同じ国から来た人だけという状況では、国際色豊かな教育環境を提供できているとは言えません。そういう意味でも事業規模を大きくしていくことには意義があると思っています。足元では無事この4月に日本の門が開き、生徒が戻ってきています。日本語学校は、3ヶ月くらい前には生徒募集を完了しますので、10月くらいの生徒までは集まってきていて、ISIとして過去最高の生徒数を達成できそうなところまで回復してきています。再成長軌道には乗ってきました。今後のチャレンジは「再編」をどうやって進めていくかです。

荻野:そうですね。とはいえ、大きい学校が勝つのはそんなに当たり前ではありません。学生一人ひとりに提供できるサービスの次元が明らかに違うとわかるくらいに質を上げていく必要があります。教育の中身という意味で、教員の質を上げるといった努力は当然として、DXや、出口支援の実績を上げていくことも大切です。「出口の時点で学生が満足いく就職なり進学なりを実現することに責任を持つ」という意味で、そこの量と質をきちんと維持しながら成長していくことを大事にしたいと思います。

その観点では、学生の満足度に焦点を当てて努力することが報われる時代になってきているようにも思います。10年くらい前だと、学生が持っている事前の情報が国によって結構格差がありました。エージェントが勧める学校に行くしかなかったり、学生が良いことだけ聞いてきたりしてしまうこともあります。ただ、口コミやネット、SNSで良いことも悪いことも出てくる時代になってきたので、正直な口コミにつながるように学生に満足してもらえるよう、本質的な質の向上に力を入れれば、入り口のところでそんなにプッシュしなくても自然と学生に選ばれることにつながると思っています。

大橋:我々としては教育サービスの「質」を向上させるために「再編」を進めていきたいのですが、その際、統合の仕方が大事だと思っています。規模だけ大きくなっても、各学校の現場の運営が何も変わらないのでは意味がありません。グループに加わってもらった学校がいかに成長できるかが大切です。進学に強みを持っているところであれば、我々が強い生徒募集を提供することで勝ちパターンを作っていく。コロナ禍もあって、そういうニーズは業界全体に広がっていますから、うまく捉えて仕組み化していきたいと思っています。

荻野:コロナ禍の影響を受けつつ自分たちだけで対応していたら、おそらく成長をいったん止める選択をしたと思いますが、いまは前向きにいろんなことを進められるので、「コロナ禍があったからこそ、強くなったいまがあるよね」と言えるようになりたいと思っています。そういう意味でいまは経営者としてワクワクしています。そういう前向きなところが社員全員にとって成長の原動力、エンジンになりつつあるのかなと思っています。我々が目指しているところをNSSKさんと一緒に達成できれば、双方にとってハッピーエンドを迎えられる。この流れで進んでいきたいと思っています。

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