2021年度 JPEAアウォード受賞案件インタビューはばたけ日本のユニコーン賞 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2021年度 JPEAアウォード
受賞案件インタビュー
はばたけ日本のユニコーン賞

Spiber株式会社

取締役兼代表執行役

関山和秀氏

カーライルジャパン 

マネージングディレクター

渡辺雄介氏

 

案件概要

対象会社 Spiber株式会社
スポンサー カーライルジャパン(CJP IV)
売り手 N/A(増資)
案件発表
2021年9月
事業概要 ・バイオインフォマティクスを活用したタンパク質ベースの新規素材製造・開発
・上記のアパレル・食肉・他動物性素材代替、ヘルスケア、Circularity等のESGソリューション提供に向けた応用
業績概要 N/A
主な価値創造
(計画)
・2022年以降3年間の中期経営計画の更新策定を支援
・開発・製造・販売のモニタリング体制構築をフォーマット作成から協
・経営体制の強化を推進。営業担当及び財務・上場準備担当役員採用をドライ
・SOを含むインセンティブ設計を支援
・販売戦略立案とアクションプラン策定を協働で実施
・上場準備に向けたアクションプランや戦略策定を推進

ー Spiberはクモの糸の人工合成の研究から始まったそうですね。

関山:はい。ですが研究自体は本当に幅広く進めています。その中で最初に事業として本格的に立ち上がるのが、テキスタイルの中でもアパレルということですね。他にも輸送機器やフードもありますし、メディカル、コスメティックスもあります。素材なので使える領域が本当に広いですから。循環型経済への転換という文脈で課題がある産業や素材はたくさんあるので、そこに大きな機会があります。

渡辺:アパレルの素材として環境にやさしいもの作っていくというのはすごくわかりやすい。アパレル業界の環境への負荷が問題視される中、カシミアやウールのような獣毛に比べて温室効果ガスの排出を大幅に削減できますし、自然分解が進む特性やサーキュラーエコノミーの実現に貢献できる素材としての役割も大きい。ただし、Spiberの本質は、タンパク質で自由自在にどんな素材でも設計できること。AIを使って設計しているので、目的とする機能素材の実現に向けて最適な手法や高い生産性の手法を見つけられるのがSpiberの強みです。例えば、開発・消費が急速に進んでいる人工肉についても、現在ミンチ肉程度しかできていないものでもSpiberの設計したタンパク質を添加することでステーキ肉のような食感をつくることが可能になります。創薬分野においても、Spiberのタンパク質設計プラットフォームを活用することで、今まで大量生産やスクリーニングの難しさから実現できていなかった新しい薬の探索を効率的に行うことができるようになる可能性があります。つまり「タンパク質で世界を救う」。Spiberはそういう会社になろうと頑張っている。その第一弾の商業化の対象がアパレルです。まずはこれをきっちり形にし、一方でこの次につながる研究がどこまで進んでいて、どういう時間軸で商業化が実現していくのかを、その価値とともに見せるのが会社にとってのあるべきIPOのストーリーであり、PEファンドとしての投資テーマです。

ー カーライルにとって日本で初めてのグロース投資ですが、Spiberとのお付き合いはどういう形で始まったのですか。

渡辺:カーライルはコンシューマーの中でもブランド系の会社に数多く投資していますが、業界におけるサステナビリティの重要性の高まりを踏まえた投資テーマを意識していました。一方で、グロースキャピタルへ投資対象を広げることもアメリカや中国ではかなり進めてきています。この二つの観点を踏まえた日本での投資機会を本格的に意識し始めたのが2019年頃で、関山さんに初めてお会いしたのが20年の春でした。アメリカで大きな設備投資をする計画があるということで、そのための大きな資金調達の競合プロセスの際にお声掛けいただき、ぜひ検討させてほしいとお伝えしました。実際に投資をしたのが21年9月です。

関山:アメリカのプラントに大きな投資をしていく必要があるということで、その資金調達について三菱UFJモルガン・スタンレー証券さんにご相談したんですが、100億円規模で投資を検討していただける投資家さんはすごく限られそうだと。でも逆にそういう規模感で調達できないと大変ですし、デット性の資金も導入することができたらいいなということで、事業価値証券化というスキームも検討することになりました。そんな中でカーライルをご紹介いただいたわけです。最初にWeb会議でお話ししたときは渡辺さんお一人でした。ずっとコロナの影響もあって、リアルでお会いしたのはお話が結構進んでからです。いわゆるハゲタカファンド的な話っていうのは、小説なんかで言われていましたよね。それを察したのか、渡辺さんから本を頂きまして。

渡辺:日本経済新聞出版社さんから出版された『カーライル流日本企業の成長戦略』ですね。

関山:その本を読んで、事業の価値を引き上げていくために、真剣にリソースをさいて取り組んでくださることがわかりましたし、本当に二人三脚でやっていくような感じが事例の紹介を通して伝わってきました。また、当時の私たちの社外取締役に日銀出身の方がいらっしゃって、その方が創業者のルービンシュタインさんと交友があり、カーライルはしっかりしていて紳士的な会社だと伺いました。身近な方からのお墨付きを得た形になって心強かったです。

私たちは地方で研究開発をずっとやってきたわけですが、Spiberの量産技術が完成し、アパレル業界からの強い需要も明確になり、いよいよこれからグローバルな事業をしっかり作り上げていくフェーズに入るところにいます。そういう観点で、自分たちにとってこれから本当に必要な視点や知見を提供してくれる方々にチームに入っていただくことが必要だと思っていました。渡辺さんには、投資を検討していただいている段階から、今後の商業化を成功させるために、カーライルのグローバルな経験やネットワークから引き出してきたインプットを受けていました。その関係を通じて、いくつかお会いした候補の中で、カーライルが最適なパートナーとしてこれから一緒にうまくやっていけそうな気がしていました。

渡辺:Spiberのこれまでの外部株主はパッシブな投資家が多いんです。ベンチャーキャピタルのほかには事業会社さんが多くて、その事業会社さんの関連するアプリケーションのところで一緒に仕事をするという関係です。2007年に会社を設立し、パイロットプラントを作り、Goldwinさんと一緒にMOON PARKAという製品を形にし、2021年からタイにプラントを建てて、次はアメリカだと。これまでの研究開発とそのアプリケーションとしての商品を作っているフェーズから、本当に商業化し、ビジネスとして本格的に立ち上げて行くフェーズにがらっと変わるポイントだったわけです。自分たちで一生懸命立ち上げていくところから、相手のニーズも鑑みながら、タイミングをみて交渉しながらやっていける組織を作る段階ですね。僕らとしてはアクティブに一緒にお手伝いすることによって、バイアウトで培ってきたいろんな企業支援のノウハウが活用できる状況だと思いました。

関山:ベンチャーキャピタルの方々とはフェーズも違うので比較するのは難しいですが、アーリーステージでの投資とは違って、戦略とそれを実行するアクションにフォーカスがされ、KPIの達成感度をシミュレーションし、積み上げベースで売上とキャッシュフローがどのように変化するのかを捉えるところが新しいと思いました。ビジネスを協議し、意思決定をするときに、戦略、アクション、KPI、財務数値、リスク、リスク回避の施策、経営リソースを有機的につなげるというプロセスを、チームでシステマチックに進めていくためのフレームワークを伝授していただいています。マネジメントの解像度が確実に上がった実感がありますし、経営の質とスピードが向上し、会社としてすごく成長していると思います。

渡辺:提案した時の資料をいま改めて見直していたんですが、デュー・ディリジェンスを設計するときに、我々の投資として見るからには、将来のIPOの投資家にどう見えるか、その時にどういうエクイティ・ストーリーを見せられるかを着地点のイメージとして置いて、検証項目を詰めていきました。製造技術にはどういう参入障壁があって特許はどうなっているのか。特にTAM(Total Addressable Market)の議論には力を入れました。市場をカシミアと見たらどれくらいの規模なのか、混紡も含めたらどうなるのか。さらにコンサルタントを活用しながら、価格をどう変えたらマーケットがどれぐらい広がるのか、需要曲線を創ってみてそれを議論しました。たくさんある販売パイプラインをひとつずつ見ていって、それぞれがどのタイミングでどのくらい売れるのか、その確度はどのくらいか、そこに至るまでのマイルストーンとリードタイムがどのくらいあるのか。顧客の販売シーズンを想定して、どのタイミングでどのくらいの数量が売れるのか。こういう議論を関山さんたちとかなり突っ込んでやりました。

スタートアップにおけるガバナンス

渡辺:グロースキャピタルとして日本で案件化したのはカーライルでも初めてのことなので、投資した時に関山さんに通常のバイアウトにおける我々と経営陣との関係性をご紹介したところ、ぜひ同じように進めてほしいとのことだったので、まず経営合宿をやるところから始めました。経営陣とファンドがひざ詰めで、Spiberのミッションや存在意義、将来ビジョン、マーケットの見通しやその中でSpiberがどのように市場をディスラプトし、売上を拡大、成長していくのかを議論しました。その後は月1、2回のペースで経営会議をやりながら意見交換。事務局の方では会社の経営企画と連携しながら、大きなアジェンダと実際の細かいアクションの整合性を確認しつつ進めています。あまり時間を取るのは気が引けますけど、関山さんと私は毎週火曜日の朝6時からお話ししていますし、事務局でも週1回。バイアウト投資と同じような関わり方になっています。

関山:こういう思考回路で、こういうことをずっとやってきている方ってうちのスタッフの中にはあまりいませんから、我々自身もすごく勉強になりましたし、このチームと一緒に仕事をさせて頂ければ、相当レベルアップできるなと思いました。実際一つのチームとしてやっていけていると思います。すごく相性がいいですね。皆さん出来た方々だからなのでしょうが、マネジメント対株主という関係ではなくて、一緒に事業をやっている感じで付き合っていただけているのでありがたいです。

渡辺:我々のチームのメンバーもそう感じています。普通のバイアウトよりやりやすいというと変ですけど、フラットに議論できる。すごく聞いていただける。意見が違う時もあるのですけど、本当に優秀な方々が集まっているので、議論を重ねていくと自然に解決していきますね。一方で、一般的なバイアウトの投資先に比べると余っているリソースがないので、そのあたりをどうやりくりしていくのかは課題だと思います。だから我々として会社の機動力を削がないように気をつけないといけない。そうは言っても立ち上げなので日々いろんなことがある。それはそれで理解しつつっていうことだと思います。

関山:株主との関係のありかたとして、このフェーズの私たちの会社に適したサポートの形だったと思います。会社も少しずつ人数が増えてきて、数年で200人、300人の規模になってくると、100人くらいだった時のフラットな組織のよさを大切にしながらも、組織的に仕組みとして機能するようにしていかないと、必要な情報が必要なタイミングでしっかり集約されずカオスになってしまう。そこは今までのやり方と仕組みを変えていかなきゃいけないタイミングでした。まさにそういうところについてアドバイスいただきながらやってきたので、お陰様で組織力はかなり向上しています。

渡辺:カーライルのチームに加えて信頼する経営リソースにも入ってもらい、一緒にやっています。最初は見える化と中計を作るところが重要で、そこに時間とリソースを集中しました。タンパク質の設計とアプリケーション開発を行う研究、タンパク質の製造、タンパク質繊維を作る紡糸とその後の紡績や繊維開発のプロセス、販売先となるアパレルブランドとの開発や商談、さまざまな持ち場で多くの人がそれぞれ動いている。それらの情報は常に共有されてはいても、それらの変化をつなげた事業計画、アクションプランが明確になっていない状況でした。まだ売上が立つ前のフェーズなので、開発や生産の立ち上げ状況が変化して、将来的な売上予想が変わるとそれにつれて資金状況がどう変わるのかが見えてない。様々なファンクションが連動し集約されて、ちゃんとつながって現状が見える状況をまず作りましょうと。次にそれをベースに4、5カ月かけて3年間の事業計画を作りました。生産の立ち上げやパートナーとの提携を通して、どのタイミングで顧客との開発や商談が進み、どのくらいの売上になっていくか、また売上とワーキングキャピタルの関係をどうマネージするかを検討しました。バイアウトにおける経営陣との関係のように、中長期的に目指す会社の定性的な姿と定量的な数字を見据えて、そこから逆算しながらアクションプランを明確にし、マイルストーンとしてガントチャートを引いて。そして最後はやっぱり人材を育てる、ということですね。

ローカルとグローバル

関山:人材という意味では、私たちはスタートアップですから、常にものすごい勢いで人を採用しています。どこの企業もそれぞれの目的があって造られているものですし、その目的を果たすことがその会社の存在意義になると思うので、そことその方々のやりたいことのベクトルが合っていることが大切で、その点は入社前にしっかり確認するようにしています。どんなにすごい経歴やスキルを持っている方であっても、その方がいまのSpiberの組織の中で、しっかりと貢献できるかはいろんな観点で確認しておきたいです。

場所が鶴岡ということで、Spiberの理念やビジョンに共感して、わざわざやってくる人しか面接に来ません。これはある種のスクリーニングになっています。特に海外から来る方は言語バリアがありますよね。社内で英語を話す人は大勢いるので、Spiberの中にいる分にはいいですけど、一歩外に出て生活するとなると結構厳しい。そもそも日本に行ったこともないし、しかも東京じゃなくて、さらに聞いたこともないところで、それはいったいどこだ?という。それでもSpiberに入りたいという方ですから、相当に熱量の高い方々です。さらに、そういう方達が自分の出身校や前職での知り合いに「Spiberめっちゃいいから来ようよ」みたいな感じで連れて来てくれたり。

渡辺:カーライルはこれまでも多くの地方企業に投資してきました。Spiberは地方に本社はありますが、対象とするマーケットが全国ですらなく最初から全世界ですから、組織のありかたもずいぶん違います。その意味では鶴岡にありながら世界中の本当に優秀な外国人の方を引き付けていることはすごいと思います。それだけサステナブルな世界を作ることへの強い共感が優秀な人材を引き寄せているんですね。我々もその仲間として、グローバルなリソースを総動員してSpiberをサポートしていきたいと思っています。

関山:カーライルにサポートしてもらっていることの意味はとても大きいです。それは米系企業や政府系の方と会話するときに特に感じます。先日エマニュエル駐日米国大使とお会いする機会があったのですが、カーライルが株主だとお話したところSpiberの信頼度が一気に増したように感じました(笑)

渡辺:責任が重いですね。会社にとってはIPOがゴールではないけれども、ベンチャー企業にとっては知名度や信用を上げることになり、資金調達などいろんな選択肢を広げる重要な節目ですよね。その前の段階で我々が株主に加わることによって、きちんとした基盤のある企業として認識され、投資家とのコミュニケーションも適切に設計して、IPO時にいい投資家層を呼び込むことにつながればいいなと思っています。それも我々の役目ですよね。今回の増資では、通常ならIPOで登場するようなBaily GiffordやFidelityのような投資家が一部参加していますが、彼らの存在も含めて、今後公開市場でのSpiberの信用や存在感を高められるような役割が果たせるとよいですね。

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