2019年度 JPEAアウォード受賞案件インタビュー医療インフラを強くしま賞 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2019年度 JPEAアウォード
受賞案件インタビュー医療インフラを強くしま賞

ユニゾン・キャピタル株式会社 パートナー
国沢 勉 氏

医師 医療法人平和会理事
平和病院副院長
横浜脊椎脊髄病センター長
田村 睦弘 氏

PEファンドによる病院への投資は、日本では新しい取り組みですね。

国沢:はい。日本の病院はこれまで単価の高い急性期病院が乱立した歴史的背景があります。団塊の世代が若かった頃はそれでよかったのですが、高齢化した今の日本ではむしろ術後の回復や療養を担う後方病院の役割が大きくなっています。国は急性期病院を減らし後方病院を増やすという大方針を示し、特に急性期病院に対して病院機能の変更を求めていますが、病院に潤沢な資金があるわけではなく、経営するお医者さんも高齢化しており、個別の病院としては大きく舵を切りづらい状況です。そこで、国が求める経営改革を医療の世界の中だけでやろうとするよりは、我々のように資金と人材をセットでサポートできる投資ファンドが関わることに大きな意義があるのでないかと考えました。しかしそのためには、当然ながらしっかりとガバナンスを確立した上で、経営改革をやりきる必要があります。株式会社とは違う医療法人を対象に、どうやって実効的な投資スキームを組み立て、ガバナンスを確立できるか。1年ほど検討を重ね、最終的に、株主総会に相当する社員総会で一定の議決権を確保したうえで資金及び人的サポートを行う仕組みを作り上げました。そのうえで、当初からユニゾンが掲げていた「地域に散在している様々なヘルスケア・プロバイダ、つまり病院・薬局・在宅医療などの医療サービスを提供する事業者を、患者さんの周りで連携させる」という構想の具現化に着手することにしました。地域ヘルスケア連携基盤(CHCP)という子会社を設立してヘルスケア専門チームを作り、2017年に調剤薬局への投資を始めました。病院については2019年7月の熊谷外科病院を皮切りに、同年12月に田村先生のいらっしゃる横浜市の平和病院、2020年9月には熊谷総合病院への経営支援を開始しています。

平和病院と田村先生の役割について教えていただけますか。

田村:分かりました。田村睦弘と申します。平和病院で副院長をしています。1995年に慶應義塾大学の医学部を卒業して、整形外科に入りました。学生時代の病院実習を通じて脊椎を専門にしたいと考え、川崎市立川崎病院や国立村山医療センターなどで研修したのち、2007年に済生会横浜市東部病院が開院する時に、大学から異動して脊椎外科のオープニングスタッフになりました。やがて脊椎外科のより高度な機能集積を進めるべきだと考えるようになり、縁あってここ平和病院で「横浜脊椎脊髄病センター」を開設させて頂きました。平和病院は75年の歴史を持つ病院で、石川島の芝浦タービンの後の現在のIHIが設立して、後に東芝と合併し、そこから長らく東芝の経営支援を受ける病院として診療をしてきました。地域に密着した病院として、風邪や怪我の対応も含めていろんな診療科を掲げてやってきています。

「投資ファンド」や「CHCP」と聞いて最初はどんな印象を持たれたんでしょうか?

田村:まず、東芝がなぜうちの病院を手放すのかという疑問がありました。東芝の方に聞いたところ「病院には何も問題はない。東芝が事業上の問題で大きな負債を抱えてしまい、それを解消して会社が存続するための一つの手段として病院の運営から撤退する」ことに尽きる、と。数年前に大井町の東芝病院も譲渡されましたから、ついにきたかと。そこで東芝の方に「次のオーナー探しは僕たちにぜひ任せてください」と言ってみたんですね。東芝側からすると一番高く買ってくれる相手に売るのが良いはずですが、必ずしもそうではない、と。東芝が理解してくれて、平和病院が主体となって新しいパートナーを見つけるという選択肢が与えられました。それでアドバイザーを起用してプロセスを進め、多くの医療グループや大学病院の方に手を挙げていただきました。もし大学病院に吸収されたら、僕はいま副院長ですから、ひょっとしたら教授になるかもしれないとも考えました(笑)。でも一方で、次のオーナー次第では、病院名も変わり、手当も医師の待遇も変わり、今までとまったく異なる医療サービスを提供することになるかもしれません。それはそれで仕方ないのかもしれませんが、私たちにはやはり、平和病院を存続させたい、ここでやっている医療を継続したい、という強い希望がありました。そこで、候補リストの端の方に載っていたCHCPという名前に目を向けることになりました。「これは何ですか?」と。最初は投資ファンドと病院経営というのは頭の中でつながらなかったんですが、ユニゾンの国沢さんからは、平和病院の価値を上げるために、しっかりと今までのものを継続しつつ、新しいチャレンジのお手伝いもしていただけるとご説明いただき、私たちの将来を託す相手として次第に真剣に検討するようになりました。結局一年くらいかかりましたが、最後は理事会満場一致でぜひお願いしようとなりました。CHCPの方針について今では理解がさらに進んできたところがあり、平和病院に注目していただいたことに大変感謝しています。

現場のスタッフの方々の不安はどのようなものだったのでしょうか。

田村:いや、それはほとんどなかったですね。東芝が手放した理由を明確に伝えていましたので。70年以上続けてきた病院を手放す時に東芝の方が挨拶に来ると思うじゃないですか。でも来てくれませんでした。東芝の健康保険証は持っているけれども、東芝を離れる時に誰も来ないんだ、と。一方でCHCPの幹部の方々は折に触れて足を運んでくれてお話をしてくださいます。事務長として来ていただいたCHCPの金田さんが丁寧に一人一人職員から話を聞いてくださるのも大きいですね。

国沢:それは安心しました。私たち投資ファンドが病院に対してできる支援は三つあると思っています。経営支援と、資金支援と、そして人材支援です。まず経営支援ですが、我々は医療機関ではありませんから、最前線で患者さんと接しておられる部分はそのまま引き続きお願いします。一方で管理や購買の機能強化はしっかりと関わって支援します。その大きな一つの柱が病床の後方化です。高齢化が進行して生活習慣病を中心に病気が慢性化するのに伴い、急性期病院の機能が次第に余ってきているなかで、地域の医療ニーズに合った形で病床の後方化を進めるというのも経営支援の一環と捉えています。実際、我々が関わってからこの点の変化はいかがですか。

田村:この1年で大きく変わったと思います。以前は、今思えば病院自体がこの地域で何をしたらいいのか、はっきりしていませんでした。もちろん脊椎外科では手術をする、緩和ケアは痛みの治療をして最期をお迎えする、透析があって内科がある、それぞれは頑張っているのですが、病院全体としての地域における役割が明確になっていなかった。東芝には病院経営に関する知見がなく、一方で私たちはそれぞれの診療科の現場での頑張りを寄せ集めた姿を超えられていませんでした。
そこでCHCPが当院の役割をまず把握していただいたのはものすごく有難かった。多くのスタッフの話を聞いてもらって、さらに周囲の他の病院とも話をしてくれたんです。この地域には済生会横浜市東部病院の500床をはじめ、関東労災病院、横浜労災病院、大学病院、市立病院などの大きな急性期病院がありますが、そうした地域の医療圏において146床の当院が今後どのような役割を果たすべきかを改めて定義することができました。周囲の大きな急性期病院と在宅の間に存在する、より地域に密着した病院としての役割を明確にしていこうと。そこで一部の病棟を地域包括ケア病棟に変更したのですが、相当な患者数を受け入れることになり、その結果に驚いています。急性期病院は、ある程度治った患者さんを受け入れてもらえる病院と連携できればよりよく機能するんですね。急性期病院は本当に慌ただしいですから。うちの病院が、そういう急性期病院からバトンをいただいて、患者さんがご自宅へ帰っていただくまでケアするという役割を担うことが、地域のニーズに見事にマッチしたということです。私自身は超急性期の手術をやっていますので、後方の病床の必要性は、正直、今回CHCPから勉強させていただきました。うちの病院は東芝から離れて1年が経ちましたけれども、地域連携を意識しながら経営できる病院になったのは大きな成果だと思います。
空いている病床を後方化で埋めるのは、地域の医療資源をニーズに合わせて適切に再配分するということです。それは空いている手術室についても同じです。今は脊椎外科を中心に手術を行っていますが、ここに他の専門性を持った外科の医師が1人来てもらえれば手術室の稼働は格段に上げられます。それは当院の経営的にも有益ですが、それ以上に当院の持っている外科手術のリソースを地域の医療ニーズに合わせて稼働させることにもなって、地域における当院の存在意義もよりはっきりとしてくると思っています。

国沢:資金支援についてですが、特に我々が果たしたいと思っている役割に、診療報酬だけだと手が回らない投資をしっかりとサポートすることがあります。これまで病院の資金調達といえば、病院を建設したり建替えたりする時の銀行からの借り入れ、不動産の流動化、診療報酬のファクタリング等に限られていて、あまり機動的ではありませんでした。今回我々は劣後ローンという形で病院の成長のために使ってもらうべく資本性の強い資金支援を行っています。その資金を使ってもらうことでITや機器への投資にも少しずつ応えていきたいと思っているんですが、投資ファンドとして今後お役に立てるような資金支援のイメージはどういうものでしょうか。

田村:病院は、何をするにも意思決定に時間がかかるものです。現場で欲しいと思う機器があっても申請して2、3年買えない状況が普通にあります。私は脊椎外科の認定専門医で、いくつかの内視鏡を使っていたんですが、さらに傷が小さくて済む内視鏡が世の中には 他に2種類ありました。技術的にはそれらを使った手術ができるレベルにあっても、やはり「すぐに導入できるものでもない」と言われて悔しい思いをしていました。それがCHCP体制になったら、あっさりとその2種類の内視鏡と、さらには手術用の高性能の顕微鏡にも投資してもらえました。私たちが考えている脊椎の最先端治療がすぐに実現出来たんです。そうすると私を含め、脊椎外科にいる5人の医師のうち、若い先生にその手術を教えられる。それだけの手術ができるとなれば当然外部からも注目されます。そういう器具があれば手術も丁寧に細かくでき、合併症も少なく、患者さんの負担も少なくできますから、患者さんを紹介してくれる開業医さんに注目され、患者さんが集まり、経験が積み上がって診療の質も上がり、私たちのモチベーションも上がり、地域での評価も上がるという理想的な良い循環が回り始めています。この変化を他の診療科でも順次起こしていければ、病院全体として大きなレベルアップと地域における役割の拡大につながるという道筋が見えた気がします。それまで10年ほど我慢と無理と一緒に努力を重ねてきていたことを思うと、今は果てしなくモチベーションが突き抜けるような感じでやらせてもらっています。それだけでなく、施設の備品や介護で必要なもの、あるいはスタッフに必要なものもとてもスムーズに購入できるようになりました。職員の方でも本当に大切に使うことは徹底していますが、ベッドや備品が壊れたり、消耗品を補充したりといった意思決定に関してはとても早く対応していただいているので助かっています。

国沢:医療現場で働く方々の考えとニーズに寄り添って、タイムリーに経営と投資の面で対応していくためには、人的な支援も病院には必要で、そこが我々投資ファンドの仕事の肝だと思っています。病院が独自に人材募集をすると、やっぱり優先順位としては医師からということになりますし、なかなか経営機能まで順番が回っていかないのが現実だと思います。この面で我々の果たしている役割はどう評価されていますか?

田村:事務部門というのは、この病院の規模に対して充分とは言えない状態で長年やってきましたので 、CHCPの方から経験豊富で先導していただけるスタッフの方を送っていただき非常に助かっています。同じCHCP傘下の熊谷総合病院との情報交換や人的な援助も含めて、実際、病院での人材募集についてノウハウをお持ちの方が当院に来てくれました。このようなことはこれまでなかったことです。今後は、CHCPが構想する大きな規模感とスコープの中で、事務職員や薬剤師、さらには看護師、医師も含めて確保していただき、そういった方々に当院で働いていただく、というような流れができると嬉しいですね。

国沢:今コロナ禍の最中で、医師、、看護師、その他スタッフの方が医療の最前線を支えている現場は、精神的にも身体的にも負担がすごく大きいですよね。一方で、病院はすごく労働集約型の職場ですから、ビジネスの観点からも、支える人達がどれだけ働きやすい環境でやる気を出していけるかが重要な局面に来ていると思っています。この点、スタッフのモチベーションを引き出すために我々に期待するところはありますか。

田村:職員が一番望んでいるのは、給料のベースを業績に応じて上げて欲しいということだと思います。当院は地域に根差した病院なので、働きやすさとか、休みの取りやすさとか、条件的に恵まれた環境にあるとは思います。とはいえ医師や他のスタッフがここで働きたいとたくさんやって来る訳ではありません。それには給与の面で他の病院に及ばないところがあり、やはり私たち経営層が頑張らなきゃいけないという思います。
コロナの影響という意味では、たまたま当院にはコロナ病棟として必要なECMOや人工呼吸器がなく、コロナ患者を受け入れる病院ではなかったために、他の大きな病院で手術できなかった患者さんを引き受けることになったりして診療を続けることができているという面があります。とはいえ受診控えの影響は大きく、脊椎外科に患者さんを紹介してくれるクリニックでは、患者さんが従来の半分以下とか3割といった水準です。さらに、学会レベルでも不要不急の手術を見送るようにという方針が出ていますから、整形外科だと一般的には前年度の7割とか半分くらいの手術実績になっています。ところが当院では地域のクリニックとの連携とスタッフの頑張りによって、前年度と同じくらいの手術件数を達成することができたんですね。やはりここで頑張らないといけないですし、頑張っているところをCHCPに見せたい。そこで病院がいい感じになればスタッフにもいいことがきっとあるかもしれない、という意気込みで頑張っています。他の病院では、クラスターとか院内感染とかで経営的には相当厳しいところも多かったんですけど、当院では幸い1例の院内感染もなくこの1年間を終えられました。これからもしっかり感染対策をして病院を続け、経営を続けたいと思っています。

平和病院は真面目な方が多いと評判だそうですね。

田村:はい。地域に根付いた病院の素晴らしさだと思います。産科があった時代に、私も私のお母さんもここで生まれたとか。整形外科があった時代は、うちの旦那がここで手術してもらったのよとか。そうやって地域に根付いた病院でスキルを積んだ看護師やコメディカルのスタッフが、誇りをもって真面目に働き、それを患者様に還元していると思いますね。

国沢:投資ファンドとしては、病院さんとご一緒するというのは新しい取り組みでもありまして、むしろ先生方にも我々を育てていただいて、病院と投資ファンドがどういう形で組むと、事業レベルでも地域貢献のレベルでも、よりよくなれるのかについては共に探って行ければと思っています。病院、そして地域医療をどのようにサステナブルにしていくかは、CHCP会長である武藤の強い思いでもあります。武藤は、東京と石巻で訪問診療を行いながら、オンライン診療のベンチャーも経営し、国への政策提言も行うという、1人で何役もこなす人物で、日本の地域医療が立ち行かなくなるという強烈な危機感を持っています。私が一緒に投資ファンドの資金と人材を活かして何とかサステナブルな地域医療を作っていけないかと持ち掛けたところ、すぐに意気投合しました。武藤が医療政策、医療従事者、患者と家族の視点から、そして我々が経営・財務の視点から指さし確認を行い、支援内容を決めています。我々が最近課題として意識しているのは、他の病院との連携をどうやって進めていけるかということです。 CHCPでは、他に熊谷で2つの病院の支援も行っていますし、今後も支援先を増やして行く予定です。我々が直接貢献できる事務部門はともかく、医療従事者の方々、特に先生のような病院を引っ張っていらっしゃる方々が、他の病院の医療とどう連携していくのかは結構大きなテーマだと思っています。他の病院の医療従事者さんとの間でどういった形での連携があり得るとお考えでしょうか。

田村:そうですね。病院同士の連携と言えば、昔と今で大きく変わったと実感することがあります。以前は当院の他にも大井町と中央林間に東芝が運営する病院がありました。連携を取りたいと考え、両方の病院の整形外科、特に脊椎の手術を東芝系ということでまとめて私達にやらせてくれないかと申し入れたんですね。そうしたら、医局の関係で、脊椎の手術は東大病院でやっているからと断られました。一方、最近CHCPのグループである熊谷総合病院の整形外科の今野先生に私たちの手術を見ていただいたところ、これはすごいと感動してくださった。そこからお互いどういう連携ができるかという話に自然な形でつながっていきました。CHCPの掲げる地域医療の連携構想の中で、それぞれの病院の担うべき役割との関係で、医師が互いに何ができるかは重要なテーマだと思います。
もちろん課題もあります。例えば、熊谷総合病院の患者さんの脊椎の手術を私が出向いて執刀したとして、そこに主治医と患者さんとしての強い関係が生まれてきた時に、地元の先生としっかりとした連携が取れないと地域のためになりませんし、逆もまた然りです。そういった課題はあるとしても、お互いの技量を高めるために、例えば若い先生が来た時に、両方の病院で研修でき、仕事もできる、脊椎をやりたい人は当院で研修して熊谷で手術をする、そこで医師同士のつながりができて、病院が大きくなるとか、そういうイメージです。今野先生とは、東京都を挟んでいますので、CHCPで東京都の病院を2つくらいグループ化していただくと、より広域の医療圏で、人材のやり取りとか、ノウハウの伝授とか、一緒にできることも広がっていろいろなことが可能になってくると話をしています。

国沢:ドクターを始めとする医療従事者のトレーニングは、今までは病院単位で行われていました。その次には医局というトレーニングのフィールドがありますね。我々の第3のフィールドとして、例えば、CHCPグループの中で、若い先生を育成するための適切なトレーニングを行うようなプログラムができるといいなと思っています。東京で基盤を作る役割は、むしろ田村先生にお願いしたいと思っていますが(笑)。その先には、我々のグループの中で空いているオペ室と患者さんと先生を一体的にアサインしていくような構想があってもいい。そしてそれは看護師やコメディカルのレイヤーに広がっていく。フィールドが大きいと提供できるものも変わってくるかなというのはあります。

田村:フィールドが広がると医療従事者にとってもできることが広がっていく。今後の展開が楽しみですね。