2019年度 JPEAアウォード受賞案件インタビュー経営改革による地方創生賞 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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2019年度 JPEAアウォード
受賞案件インタビュー経営改革による地方創生賞

対象会社

名水美人ファクトリー株式会社
代表取締役
奈良 賢吾 氏

ファンド

カーライル・ジャパン・エルエルシー
マネージングディレクター
渡辺 雄介 氏

案件概要

対象会社 名水美人ファクトリー株式会社
スポンサー カーライル・ジャパン・エルエルシー
売り手 オーナー社長
案件発表 2016/3
資本移動先 2020/3 株式会社神明ホールディングス
事業概要 もやし、および、カット野菜の製造販売
業績推移 2015/6 売上約70億円
2019/6 売上約90億円
主な価値創造

経営承継の実現=組織経営基盤体制の整備
①ガバナンス強化・意思決定プロセス整備
②財務会計・管理会計等の整備による見える化推進
③機能別組織体制整備
④経営人材補強
⑤給与・福利厚生の改善・整備/ミッション・ビジョンの再定義/カット野菜事業の本格展開/ブランディング・マーケティング・営業強化によるマーケットシェア拡大/次なる成長戦略の仕込み

 

まず渡辺さんから投資に至る経緯についてお話しいただけますか?

渡辺:カーライルが事業承継を投資の一つのテーマとして掲げているなかで、地方のいい会社という切り口には以前から注目していました。3号ファンドは2014年にスタートして10件投資をしていますが、7件が事業承継でそのうち6件が東京以外の会社なんですよね。本件は大分ですし、おやつカンパニーは三重、オリオンビールは沖縄、三生医薬は静岡です。

そんななか、銀行さんからのご紹介で、2015年の春に「まだ社名は言えないが食品系で面白い会社がある」という話をお聞きしていました。この銀行の方が、これは事業承継案件としてファンドの力を活用するといい案件ではないかと考え、一度オーナーである水本さんを訪問したそうなんですけど、全く相手にされなかった。それが半年ほど経って突然「あの話、もう一度聞きたいんだけど」と連絡があり、8月の末に私どもがご紹介を受けてお会いしたのが始まりです。

半年の間に水本さんの心境にどんな変化があったんでしょう。

渡辺:工場が大分の竹田、日田、それから岡山の矢掛の3か所にあったんですが、水本さんは柏の自宅にこもりながら携帯電話一本で経営されていました。もとはそれぞれの工場をぐるぐる回っていたんですけども、最終的にはどこにいても必ずリモートになってしまうということで、毎日、営業や生産の日報を上げさせるようになった。日田工場の育成栽培の質のデータを見て、「ちょっと育ちが悪いから、温度を一度上げておこう」とか、「湿度ももう少し上げてみよう」とか、そういう細かなKPI管理を電話一本でされていたんです。

全ての意思決定をご自分でされていたので、効率的といえば効率的なんですが、これではもやしは育っても人材は育たない。社員の人達はカリスマの水本さんと直接会話をするのがすごく楽しいし、社長も営業担当の一人一人に指示を出すような極端なマイクロマネジメントを続けてこられた。それで、先ほどの銀行の方との最初の面談のあと、一度体調を崩されたそうです。

改めて振り返ってみると、世界に羽ばたきたいという思いで「九州GGC(Global Green Corporation)」という社名で1990年に始めた事業が25年経った。本当に素晴らしい会社でまだまだ伸ばせる余地もある。本当は世界に出たいのにまだ岡山までしか来てないと。一方で自分はもう65歳になった、命に限りがあることもよく分かるし、この事業を本当の企業にしてくれる誰かに伴走してもらって、自分が引退できるところまで持っていきたいという思いを強くされていた。そこに銀行さんから私どもを紹介していただいた。そのタイミングがすごく良かったわけです。

どんな提案をされたんですか。「もやしの成長戦略」って、結構ニッチですよね。

渡辺:確かに、もやしの価格ってどんどん下がるし、一方で原料も高いなかで、本当に大丈夫かなというのが正直な最初の印象でした。ところが数字を見ると売上が70億円くらいでEBITDA比率は食品業界でも圧倒的。これはすごいな、と。

初めてオーナーの方とお会いするときには、常にその業界のことをよく勉強して、その会社の潜在力を引き出し大きく成長させられるポイントが何かを見極めて臨みます。ただし、もやしの情報って一般的にはあまりないもんですから、結構大変で。もやし生産者協会にも通いましたし、苦労したんですが、調べれば調べるほどいい会社だと分かってきました。そこでチームで立てた仮説は、「もやしから野菜へ」というもの。世界では野菜のパックが広がっていて、アメリカでは野菜市場の10%がこのようなカット野菜になっていました。当時の日本では1、2%ほど。これも少子高齢化の流れのなかで伸びていくことは間違いない。それならここを第二の柱として育てようというストーリーです。水本さんが引退できるように会社を「組織化」することと、成長戦略を立てつけて、IPOするなり、次にこのビジョンを持って走っていただける方にお譲りするなりしましょうよと。そこまでを具体的なアクション、組織、人材補強のイメージまで含めて一気にお話ししました。 最初の面談、実は1時間の予定が4時間くらいになったんですが、水本さんはあまり反応せずに黙って聞かれていただけで、刺さっているのかいないのか、さっぱり分からない状況だったんです。で、恐る恐る「どうですか?」「ご関心ありますか?」と聞いてみたところ、「まあ、いいんじゃないの」と。それなら、と「もしよろしければ、秘密保持契約を結んで、具体的にもう少しデータを出していただいた上で前に進めたいんですけど」と畳み掛けてみたら、了解してもらえました。実はその1日で大きな方向性が決まったという、多分もう二度とないと思うんですけど、そういう始まり方でした。

奈良さんからご覧になって、「組織化」がなされた会社の現状はいかがですか?

奈良:私は、カーライルさんのエグジットに伴って名水美人を経営することになりましたので、水本さんには直接お会いできてはいないんですが、彼が上手かったと思うのは、ワンマンではありながらも、主軸になる直属の3人の部下をうまく競わせながら経営をされていたところですね。それが今では営業本部、生産本部、成長戦略本部、コーポレート本部という事業本部制が出来上がっています。ここに至るまでには、カーライルさんが入ってこられて以降、会社としての形を整えるためにスピード感と実行力をもって組織を立ち上げ、その後も正解の形は何だろうと模索しながら更新を続けてこられた経緯があります。実際、時期ごとに作られた組織図がいくつもあります。苦労して、会社としての標準的な機能が標準的な組織に備わった形を作られて、それを我々が引き継いだという感じです。意思決定の仕組みとしては、誰か一人が決めるのではなくて、みんなで部門を超えて議論して、みんなで決めようというスタイルに変えるべく会議体を整備してこられたことがよく分かります。

水本さんが退任されるまである程度リードタイムがありましたね。「組織化」の過程で水本さんはどういう役割を果たしてくれたんでしょうか?

渡辺:実は入る前から、1年経ったら社長から会長に、3年くらいで執行を完全に外れて取締役だけになりましょうという設計図を描いていました。経営者の立場から、徐々に株主として将来の会社のあるべき方向性のチェック役に回っていきましょうと。

ただ、それまでの習い性で、どうしても細かいことが気になってしまうんですね。例えば売上も翌月15日にならないときちんと集計できていなかったところを、毎日見えるようにして、それを皆で共有しながら次の対策を議論するための会議を始めました。
もちろん水本さんもその趣旨を分かってはいるのですが、半年くらいすると「なんでこんな会議やってるんだ。数字なんか全部俺の頭に入ってるぞ」みたいなところに戻ってしまうんですね(笑)「そうじゃないでしょ。水本さん引退したいんでしょ」と行ったり来たりしながらですが、根本的なところでは会社が持続的に成長できるようにする基盤作りのプロジェクトだと理解していただいていましたから、外から人を入れるときや、従業員から不満が出たときには、間に入っていただきつつ、二人三脚で進めていったという感じです。

次に事業面での変化について伺えますか?

渡辺:水本さんが引退するということは、第二創業ともいえる出来事ですから、もう一度会社のミッション/ビジョンに立ち戻って議論しました。その結果、「水と鮮度と味にこだわって世界中のお客様の健やかな毎日に貢献する」というミッション達成のために「世界一のもやし and 野菜カンパニー」になっていこう、そうビジョンが定まりました。

それを踏まえて、事業面で大きく踏み出したことは二つあります。

一つ目は、成長の軸足をカット野菜の事業に置いたことです。それまでは三つの工場でもやしを作りながら、空いたスペースにパートを雇ってキャベツを切って、もやしと混ぜてカット野菜の事業をやっていました。もやしだけ作るほうが効率は良いので、水本さんとしては、ここは伸びるだろうなとは思いつつも、片手間でやっていたわけです。そこを、これは必ず伸びると踏んで、日田工場の横に専用の野菜工場を新設しました。結果としては、カーライルが関わっていた4年間で売上に占める割合が10%強から23%まで大きく増えました。カット野菜に投資して第二の柱に育ったということです。

二つ目に、先ほどのミッション/ビジョンからくるブランド強化/マーケティング強化によるシェアの拡大です。「名水美人」というのは既に全国で10%のシェアを持つ、日本一売れているもやしの商品名だったんですが、社名をこの認知度の高い代表的な商品名に合わせる形で「名水美人ファクトリー」に変えました。これは従業員が決めてくれました。商品のパッケージも、水本さんの発想でその都度作っていたものですから、全くブランドという概念がなかった。一番買っていただける女性のお客様に受けるようなコンセプトで、名水美人というもやしのブランドもあったので、名水美人が入っている野菜パックという形でパッケージを統一しました。競争の激しい関西の市場で存在感を出すために、TVCMを組み合わせることによって、関西でのブランド認知度を15%から24%くらいまで大きく上げていきました。このブランド強化も相まって結果的にはビジネスとしては70億円から90億円、約30%、4年間でトップラインを伸ばすことができました。

奈良:関西で流したCMですが、あれが神明HDの藤尾社長の記憶に残っていて、カーライルさんが話を持っていったときに、「あ、それ知ってる」とM&Aがスムーズに進んだ要因の一つだったそうですから、大変なマーケティング効果がありましたね。

それはともかく、私、もやしメーカーでここまで営業人員を揃えることに力を入れている会社はあまりないと思うんです。雪国まいたけがカット野菜から撤退した際、そのチャンスを逃さずに掴めるだけの営業体制を名水美人は持っていたんですよね。地道に量販店にしっかりと営業をかけていたので、雪国まいたけが撤退するという情報もいち早く手に入れることができ、他のメーカーに取られることなく、名水の方に話が来たということもありました。このへんも組織化ができていた恩恵だと感じましたね。

渡辺:ちょうど神明さんと話を始めていたところで、お取引先からの情報などから雪国まいたけの撤退が見えていたので、全部顧客をリストアップして、これを何割かの打率で取ろうとプッシュして、みんなでやっていました。会社のほうでちゃんとターゲティングしてアタックできる体制になっていたんです。

先ほどお話しした通り、最初は本当に売上が見えていない状況だったんですが、それを日次で、顧客別、商品別、個人別に見えるようにしたあと、顧客も七つのステージに分けて、ステージごとにアクションを設計しました。いわゆるセールスフォースマネジメントですね。水本さんの時代には営業の皆さん一人一人がそれぞれ行きやすい所に行っていましたし、バイヤーももやしだけの会社の人とはなかなかか会ってくれませんから、戦略的な営業とは言えませんでした。それを少しずつ変える努力が、雪国まいたけの撤退の部分のシェアを獲得する戦で結実したということができます。

今後の商品戦略の方向性はどのようになりますか?

奈良:神明HDは買収した子会社の経営にはある程度主体性を持たせてくれます。そのなかで私が今やろうとしているのは、自社の利益ありきではなくて、お客様がどう喜んでくれるかを中心に商品開発を組み立てることです。カット野菜の市場は伸びていますから、商品を出して営業もリンクしてやっていくと、名水美人の品質もあり売れていきます。

ですが本当は、お客様が喜んで手に取ってくれるから、結果的に量販店さんの売上増につながって名水美人の商品をもっと並べたいという動機になり、その結果として利益が積み上がるのが理想なわけです。例えばカット野菜って地味にもやしが何グラムだ、キャベツが何グラムだと積み上げて原価計算するんですけれども、魅力的な商品を作りたくても、利益率を気にし始めると、例えば「きのこミックス」と名乗っていても、きのこが少なくなるわけですよ。私が就任してまず言ったのは、「自分はこの買収を通じて名水美人のもやしを知った。もやしを食べてこんなに美味しいと思ったのは初めてだ。せっかくいいものを作って胸張って売っているんだからカット野菜も胸張って売れるものを作ろうじゃないか。自分たちの都合だけじゃなくて、取引先やお客様のことも考えながら商品開発しなさい」と。

今それを一生懸命進めているところです。カット野菜は、もやしメーカーが比較的強いんですよ。もやしをたくさん入れたら採算が合いやすいからなんです。でももやしを増やして利益率を確保するとせっかくのカット野菜の魅力が落ちるんですね。商品として次に買ってもらえなくなる。そうすると回転率が落ちて、お店も売る気が落ちてくる。今までせっかく棚をしっかり取れてきたんだから、これからも喜んで棚に置き続けてもらえるような商品にしていこうと、いま取り組んでいるところですね。

今回の受賞理由は「経営改革による地方創生」です。カーライルさんとして、工場のある地域を盛り上げていこうという投資テーマは最初からお持ちだったんですか?

渡辺:名水美人のようにいい会社でも、水本さんの個人経営のまま続けていたら、おそらく5年後、10年後には少しずつ成長は鈍っていったと思うんです。そういう会社を神明さんのようなブルーチップの事業会社に買っていただける、もしくは上場できるように変えていくことは、ファンドの重要な使命だと思います。

私どもがこの会社に対して貢献できたことは三つあると思っています。

一つ目は地方の良い会社を存続させ、成長できるようにしたこと。食品業界でトップラインが30%伸びることってほぼないと思うんですよね。本当にいいビジネスを水本さんが創られて、それを私どもが引き継げたというのは大変な幸運なんですが、売上を伸ばすことによって、私どもが株主である間に従業員の数も300人から100人ほど増え、地域に雇用を創出できた。これが二つ目。三つ目は、給与と福利厚生です。休日が88日しかなかったのを108日まで増やしました。給料も結構上げてきました。それがカーライルからみた地方創生の切り口ですね。

ちなみに奈良さんは今どこで経営の指揮を執っていらっしゃるんですか?

奈良:倉敷です。1年半ほど前に本社機能を集約する形で、事務所を構えたと聞いています。人事、総務、経理、財務、マーケティングを担う成長戦略本部の機能は大半がここにあります。今では20人強ですが、カーライルさんが投資した段階では2、3人。そのくらい間接機能を担う人間がいなかったんです。そこから人材採用と管理体制の基盤を作り、その後も我々が追加で体制整備をすることで、今この体勢にようやくなっているということですね。どの工場にも一定の距離はありますから、私も水本さんの遠隔操作じゃないですけど、毎週ぐるぐる回っているような、そんな感じです。

名水美人のビジネスと地方創生はこれからどんな形になっていくのでしょうか?

奈良:雇用という面では貢献している部分は大いにあると思います。特に創業の地である大分県の竹田市は圧倒的な過疎地域でして、会社と呼べる会社もそうそうないなかで、それこそ正社員、パートさんを含めて雇用を続けていますし、先ほど渡辺さんからお話のあった福利厚生や給与水準も、神明傘下でさらに良くしていっていますから、従業員の離職も劇的に減っています。ここで働くことについて相当喜んでいただけているのではないでしょうか。しかも皆さん、農家出身の方とか、ご長男も多くて、その土地を離れられない人も多いんですよね。そういう地域に根差した人たちが、会社としての成長や、若手の指導にも貢献してくれているので、非常に良い循環が出来てきていると思います。

一方で、この会社、大分の竹田市で生まれて、日田市や岡山県矢掛町にも工場を持ち、すごく地元密着の雰囲気に見えますが、地元から愛されていたかというとまだまだ足りないところがあります。今、私がやっているのは、各自治体にしっかりと挨拶して回って、市長さん町長さんとコンタクトをとって、会社としてできる貢献をしっかりやっていこうということで、そのお約束もしています。コロナでイベントが中止されて足元ではなかなか出る幕がないんですが、しっかりと各自治体とコンタクトを取って、雇用だけじゃなく、地域を活性化するためのイベントにもコミットしていく。例えば食育や農業体験など、お子さんの教育への貢献もしていきたいと考えています。地域と仲良くやっていかないと、事業の存続にも響くと思っているんですよ。そういった協力要請があるんだったら、すぐ話を上げなさいと言っています。

水本さんから託された、世界に羽ばたくという夢には近づいているんでしょうか?

渡辺:そう思います。私どもがいる間にも、台湾・中国市場への進出について研究はしました。日本だと名水美人のいいもので38円ですけど、台湾ではもやしは1パック100円で売られています。しかもシャキシャキさせるために添加物を使っているところで、水だけで作った本当に美味しいもやしを売るというのは大きなポテンシャルがあると思っています。

また、露地野菜はどうしても天候によって価格が大きく動きますから、工場野菜が安定して人間の食生活に貢献できるようにしていきたいというのは水本さんから託された夢でもあります。神明さんは雪国まいたけさんもお持ちですから、Farm to Tableという食のプラットフォームとして広げていただけたらという思いです。

奈良:海外については、台湾などでも試験的には始めているんですが、なにせコロナの関係で、ここしばらくは本格的には動けずにいます。実はグループ会社の東果大阪という荷受を通して、名水美人は香港で既に流通しています。現地の人は現地のもやしをあまり信用していないようで、認知度が広がれば、うちのもやしが売れる可能性は大いにあると思います。ただ、コールドチェーンを確立した上で3日程度しか持たないため、日本から輸出するモデルには大いに限界がありまして、やるなら現地で作ることが重要になります。

水耕栽培というか、野菜を露地以外で栽培して成功しているビジネスはそんなに多くありありません。レタスでも採算が合わなくて撤退というのはよくある話です。しっかりとできているのは主要なところで、きのこ、もやし、あとスプラウト類ぐらいでしょう。神明時代にいろんな植物工場を見てきましたが、決して簡単ではありません。ただ、もやしとカット野菜だけに安住しているわけにもいかないんですよ。会社の発展や従業員の雇用、地域への貢献などを考えると、三つ目の柱は作る必要がありますから、あれやこれやと今思い巡らしています。 渡辺さんがミッションのお話しをされましたけども、社名にある通り、良い水があるからこそ出来ることに軸を置きながら次の展開を考えているところです。