第4回『プライベート・エクイティ(PE)の付加価値』 ~具体的な投資事例を踏まえて~ | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第4回『プライベート・エクイティ(PE)の付加価値』 ~具体的な投資事例を踏まえて~

カーライル・グループ ヴァイスプレジデント
斎藤 玄太

1. 拡大するPE投資へのニーズ

日本におけるPE投資の歴史はまだ15年ほどに過ぎない。まだまだ一般的には、PEファンドは何をするところなのか、どのような付加価値を提供できるか、十分に理解されているとは言えない状況である。以前は、ハゲタカファンドなどと言われた時期もあり、必ずしも良いイメージを持たれていなかったのも事実である。

しかしながら、近年このPEファンドに対する見方が大きく変わって来ていることを、業界の中で日々PE投資の現場に携わっていると強く感じる毎日である。PEファンドをパートナーとして、事業の新しい展開を考えている企業や会社のオーナーが確実に増えているのである。以前は、まず投資機会を探そうとして、会社に面談を申し込んでもなかなか会えないことが多かった。また、仮に面談ができ、企業価値向上の提案をしても、自社の今の状況でPEファンドは関係ないと門前払い同然のことも少なくなかった。

それが、今確実に変わって来ているのである。我々の企業に対する見立てや価値向上策に耳を傾ける経営者が増えている。また、継続的に検討をしようというケースが増え、PE投資機会に結びつくことが多くなってきているのである。極端な場合では、PEファンド側から提案をする前に、企業の担当者やオーナーから一度会って話をしたいと申し込まれるケースも出てきたのである。このようなことは、以前は全くなかったことである。

そのような中でも、特に目立つのはオーナー企業の事業承継ニーズに対応したPE投資機会の急拡大である。日本には現在約40万社を超えるオーナー企業が存在するといわれている。ある調査では、そのうち約3分の2の企業が事業を承継してくれる次の世代の経営者が見つかっていないと答えている。オーナー企業の多くは戦後創業したところが多く、今、オーナー企業のトップは創業者から数えると2代目や3代目という人が多い。このような創業2代目、3代目の人たちも平均年齢が確実に上がってきていて、次に誰に事業を任せようと考えたときにその候補になる人を決めきれないのである。

日本の中堅、中小オーナー企業の実情

オーナー企業の事業承継ニーズに対応したPE投資機会の拡大には次のような背景があると考えられる。まず、事業環境が厳しさを増し、以前であれば躊躇なく自分の子供に事業承継したケースでも、経営の困難さを考えると簡単にはそのように行かないと考えるオーナーが多くなっている。日本の人口が今や減少局面に入り、顧客マーケットも以前のように成長市場ばかりではなくなっている。そのような環境で事業を引き続き成長させようと思うと、今までのやり方では確実に限界が来る。新たな事業展開の方法を追及するか、海外に顧客を求めて会社の経営を抜本的に変えていく必要が出てきているのが現実である。

しかしながら、日本の中堅、中小企業にはそのようなことを実現できる人材に恵まれていないケースが圧倒的に多い。過去から続いてきた日本人の大企業志向が、中堅、中小企業への人材の流入を妨げてきたのは事実である。そのような状況ではあるものの優秀なオーナーのリーダーシップによって素晴らしい技術、製品、サービスを提供している企業は少なくない。しかし、日本企業を取り巻く事業環境の変化に対応し、オーナー企業でも早急に変革を実現しなければいけない現状に、PEファンドの投資や価値を提供する機会がある。

オーナー企業のトップの考え方が微妙に変わってきたことも、PEファンドのオーナー企業投資の拡大を後押ししていると考えられる。以前であれば、自分が起こした事業を他人や他社に売却することなどタブー視されていたであろう。従業員は家族であり、その家族を他人に任せるなどという価値観は持ち合わせていなかったのである。しかし、今のオーナーの一部には、今の事業環境や会社の直面した現実を考えると、ここで一旦自分は身を引き、自分が築いてきた会社の価値や資産をキャッシュ化するのと同時に、確実に会社を成功に導いてくれる信頼のできるパートナーに任せようと考える人も出てきたのである。

ここで重要なことは、日本のPE投資が15年という歴史を経て、オーナー企業への投資を成功させた実績を確実に積み上げてきたことである。そのような実績を見て、事業承継に困っているオーナーがPEファンドに門戸を開くケースが確実に増えているのである。

日本の中堅、中小オーナー企業の実情

オーナー企業の事業承継ニーズに対応したPE投資機会の拡大には次のような背景があると考えられる。まず、事業環境が厳しさを増し、以前であれば躊躇なく自分の子供に事業承継したケースでも、経営の困難さを考えると簡単にはそのように行かないと考えるオーナーが多くなっている。日本の人口が今や減少局面に入り、顧客マーケットも以前のように成長市場ばかりではなくなっている。そのような環境で事業を引き続き成長させようと思うと、今までのやり方では確実に限界が来る。新たな事業展開の方法を追及するか、海外に顧客を求めて会社の経営を抜本的に変えていく必要が出てきているのが現実である。

しかしながら、日本の中堅、中小企業にはそのようなことを実現できる人材に恵まれていないケースが圧倒的に多い。過去から続いてきた日本人の大企業志向が、中堅、中小企業への人材の流入を妨げてきたのは事実である。そのような状況ではあるものの優秀なオーナーのリーダーシップによって素晴らしい技術、製品、サービスを提供している企業は少なくない。しかし、日本企業を取り巻く事業環境の変化に対応し、オーナー企業でも早急に変革を実現しなければいけない現状に、PEファンドの投資や価値を提供する機会がある。

オーナー企業のトップの考え方が微妙に変わってきたことも、PEファンドのオーナー企業投資の拡大を後押ししていると考えられる。以前であれば、自分が起こした事業を他人や他社に売却することなどタブー視されていたであろう。従業員は家族であり、その家族を他人に任せるなどという価値観は持ち合わせていなかったのである。しかし、今のオーナーの一部には、今の事業環境や会社の直面した現実を考えると、ここで一旦自分は身を引き、自分が築いてきた会社の価値や資産をキャッシュ化するのと同時に、確実に会社を成功に導いてくれる信頼のできるパートナーに任せようと考える人も出てきたのである。

ここで重要なことは、日本のPE投資が15年という歴史を経て、オーナー企業への投資を成功させた実績を確実に積み上げてきたことである。そのような実績を見て、事業承継に困っているオーナーがPEファンドに門戸を開くケースが確実に増えているのである。

PEファンドが投資をしたオーナー企業の成功例

筆者が所属するカーライル・グループでも過去に多くのオーナー企業への投資における成功例を持っている。過去20社ほどに投資をした中で、中堅のオーナー企業が約半分近くを占めており、近年その比率は上がってきている。キトー、学生援護会、ソラスト(旧日本医療事務センター)などが良い事例であるが、近年はベビースターラーメンのおやつカンパニー、三生医薬など、いずれも中堅の実力のあるオーナー企業に投資をしてきている。業界を見渡しても、オーナー企業への投資事例を見つけることに苦労はない。それらはいずれも中堅、中小企業で、PEファンドは確実にそれらの企業の成長に貢献してきているのである。実例をあげると、ユニゾン・キャピタルが投資をした「あきんどスシロー」や、アドバンテッジパートナーズが投資をした「コメダ珈琲店」を展開する「コメダ」などが代表例であろう。

あきんどスシローは国内で400店舗近くを展開する回転寿司最大手である。顧客の嗜好の多様化に対応し、ネタの鮮度にこだわり原価率50%という高さの一方、寿司が回るレーンをIT管理するなどコストダウンにも取り組み、確実に業績を上げてきた。人材育成にも取り組み、飲食業界の平均の離職率が30%のところ、あきんどスシローでは12%であるという。現在は、海外PEファンドの大手ペルミラの傘下に入り、海外事業の拡大も目指している。

コメダもPEファンドの傘下に入り、確実に業績を伸ばした。アドバンテッジパートナーズの傘下に入る前の2009年2月期の売上、営業利益がそれぞれ約38億円、約8億円だったのに対し、2012年2月期では売上は約90億円、営業利益は23億円を記録している。PEファンドが情報、物流、食材などの部門の効率化、合理化を強く進めつつ、確実に店舗網を拡大していったことがわかる。

以上の例のように、創業者から株式を引き受けたPEファンドがこれら企業の事業展開を着実に推し進め成功させた実績が数多く生まれている。この事実により、事業承継に困っているオーナーにとって、次の世代をPEファンドに託すことも一つのオプションとして検討の対象になってきているのである。

2. カーライル・グループの実際の投資事例:ソラスト(旧日本医療事務センター)

ソラストの概要

ソラスト(旧日本医療事務センター)は、日本初の医療事務教育機関として創業者の新村勝由氏により1965年に設立され、その後医療事務受託のパイオニアとして医療関連受託事業へと事業領域を拡大し、50年近くに亘って医療業界を支援してきた実績を有する。1992年には現在のジャスダックで株式公開を実現し、2002年には東証第二部への上場を果たした。また、1999年には介護事業、2002年には保育事業へと事業領域を拡大し、2014年3月期の連結売上高は約580億円、従業員数は約25,000人に達している。

MBOに至る経緯

ソラストは、2011年9月にカーライル・グループがサポートするMBOを発表し、2012年2月に非上場化することとなったが、その背景事情の一つとして、医療関連受託事業の成長鈍化に伴い事業改革を迫られる事情があった。医療関連受託事業の主な顧客である医療機関の経営は、医療制度改革などの影響により厳しさを増し、医療機関からのコスト削減圧力が高まっており、更に派遣法の解釈の厳格化により、派遣事業の売上高20億円を失う状況にあった。これが当時の株価にも影響し、望まない株主による市場での買い集めのリスクも懸念材料として浮上していた。また、ソラストは、医療関連受託事業が収益の大半を占める中で、先行投資による赤字を伴う介護事業を第二の柱へと成長させることも重要な課題として認識していた。

一方、カーライル・グループとしては、ソラストの医療関連受託事業の潜在的な競争力は高く、カーライル・グループの知見を活用して成長を実現できるものと判断していた。具体的には、米国を含むグローバルな医療マーケットに携わって蓄積してきた知見に基づき、単に医療事務を遂行する人材を提供するだけでなく、医療機関の経営改善に貢献する付加価値の高いサービスを提供することで競合との差別化を実現できるものと考えていた。また、介護事業についても、経営力の強化やM&Aを活用した拡大戦略を実行することにより、成長スピードを加速し、業界でも有数の介護事業者へと発展させることが可能であると判断していた。

このような状況下において、ソラストの創業会長及び経営を引き継いだ荒井社長の求めるニーズと、カーライル・グループの提案内容とが合致し、医療関連受託事業の事業構造を変革し、介護事業を医療関連受託事業に続く事業の柱へと成長させることを目的として、株式の非公開化を伴うMBOの実施の決断に至り、創業家を含む当時の株主の持分をカーライル・グループが引受けることとなった。

投資後の具体的な企業価値向上のために取られたアクション

カーライル・グループによる投資直後に、カーライル・グループのプロフェッショナルとソラストの役職員とが協働で取組む180日プランとして、①福祉事業(介護事業及び保育事業)の強化、②医療関連受託事業の構造改革、③アイ・エム・ビイ・センター(医療関連受託事業を営んでいた当時の子会社)とのシナジー創出、④経営管理機能の強化、⑤資本政策の検討・実施、⑥インセンティブプランの導入、⑦コーポレートブランディングという7つのプロジェクトが立上げられ、速やかに具体的な成果へと結びついていった。

例えば、アイ・エム・ビイ・センターとのシナジー創出プロジェクトの中での議論を通じて、親子会社間のシナジーの創出に留まらず、両社の統合を行うことが合理的であるとの結論が導かれ、2012年10月1日に両社は統合し、営業強化・事務効率化の両面から大きな統合効果が実現された。また、コーポレートブランディングプロジェクトにおける取組みに基づき、介護事業を第二の柱とすることを目指す企業に相応しい社名にするべく、上記統合と同じタイミングで「日本医療事務センター」から「ソラスト」への社名変更を実施し、「ソラスト」ブランドの社内外への浸透に向けたブランディング活動へとつながっている。

2013年から2014年にかけては、ソラストとカーライル・グループの協議に基づき、1年間で主要ポストを担う5名の役員を外部から新規採用し、既存の経営体制が補強された。これらの新しい役員がソラストに新しい風を吹き込み、医療関連受託事業の事業構造の変革、介護事業の成長、経営体制の高度化に向けた取組みを牽引している。

2013年11月には、本社と事業部のコミュニケーションを改善するために、本社を品川へと移転し、複数拠点に分散していた本社と事業部を品川のワンフロアのオフィスへと物理的に統合した。また、品川移転を機に、2014年4月には、人材採用・教育トレーニング・キャリア支援をサポートし、ソラストブランドを発信するキャリアセンターの運営を開始し、25,000人の従業員を支える女性のキャリア支援、働きやすい職場の提供等、時代にマッチした取組みを強化している。

会社の現状と将来の姿

ソラストは、MBOの実施から3年間で事業戦略の高度化、組織体制の強化、経営の効率化を実現し、2014年3月期には、2年間で80%近い増益により当社の歴史上最高益を達成した。企業価値向上に向けた活動は継続中であるが、改革の成果をより確実なものとし、さらに成長を加速させるために、近い将来の再上場という選択肢を視野に入れている。

3. PEファンドの付加価値とPE投資市場の将来

今まで述べた事例を参考にしながら、最後にPEファンドが提供する付加価値についてまとめてみたいと思う。

まず挙げられるのは、事業展開力の抜本的な強化である。PEファンドにとっては、ある一定期間内に事業内容を飛躍的に向上させ、成果を出すことによって事業価値を上げることが最大の目的である。従って、投資先の経営陣と一体になって、新たな戦略を考え実行に移し、結果を出すことに全精力を投入する。そのために必要な人材、特に中堅、中小のオーナー企業ではなかなか採用できなかった優秀な人材を採用することによって、今までと全く違うスピードで、事業を変化させていくことができるのである。この人材採用面においては、補強が必要なポジションの特定、候補者プールからの最適な人材の選定だけでなく、そもそも優秀な候補者を引き付けるという点においてもPEファンドには付加価値がある。魅力的なインセンティブプランを設計することで、投資先の既存の人事・報酬体系とバランスを取りながらハイクラスの人材の興味を引くことが可能となる。特に海外においては、実績を有するPEファンドの投資先におけるキャリアを提供すること自体が、日本の中堅企業では通常採用できないようなレベルの経営人材の獲得の実現につながるものと多くのサポート経験の中で感じている。

PEファンドは、今までの投資経験からどのような手段を講じれば会社がより早く成長し、同時に効率的に運営でき、収益性を上げることができるかを知っているのも強みである。マーケティング戦略・ブランディング戦略の改善、生産や物流管理の徹底、効率的な設備投資、ITシステムの導入、事業を管理する経営システムの再構築、徹底など、どの部分に注力すれば会社がもっと良くなっていくか、投資を実行した時点ですでにその青写真を作って、効果的に投資先を支援しているのである。それも、コンサルティングファームのように自らの知見・経験・アドバイスを提供するだけでなく、事業領域・ニーズを踏まえた最適な外部専門リソースの選択、社内の個別事情を理解した上での戦略・施策の適正な方向付け・優先順位付け、構築された戦略実行に向けた迅速な意思決定のサポートなど、外部リソースを有効に活用しながら、企業価値向上施策を推進し、迅速な成果に結びつける点にもPEファンド活用の大きな意義があると考えている。

近年、特にPEファンドの付加価値として重要視されているのは、グローバル展開のサポートである。中堅、中小に関わらず、日本の事業環境を考えると海外事業をいかに伸ばし、成功させるかが極めて重要な経営課題になっている。多くの日本企業はまだ海外事業を成功裏に展開できる人材を持っていない。また、現地の優秀な人材を採用し、その人たちに高いモチベーションをもって働いてもらう経営のノウハウにも欠けているのが現実である。日本国内で成功している人でも、海外に行くと日本での成功体験が却って足をひっぱり失敗をするという例も多くみられる。

多くのPEファンドには、海外で経営の教育を受け、実際に海外事業を成功に導いた経験を有する人が多くいる。また、グローバルに展開しているPEファンドでは、他国にいる投資プロフェッショナルと緊密に連携し、投資先の海外展開を効果的に支援するところも数多くある。これらは、いずれも特に中堅、中小の企業にとっては他で得ることのできない付加価値であり、今まさに事業の成長にとって必要な支援である。

このように、事業展開力の抜本的な強化、海外事業展開の強化などを通じて、企業の価値を上げていると言えるが、その実行において極めて重要なことは、PEファンドと経営陣が同じ目的に向かい一枚岩となって事業展開を推し進めることである。そのために、PEファンドは投資先の経営陣と常に密接に情報交換を実施し、事業展開の方策について議論を行い、スピード感を持った意思決定と実行を促す。時には現場にPEファンドの人間が入って支援を行っていくこともあるし、前にも述べたように鍵となる人材を外部から採用していくことを常に行っている。PEファンドが提供する価値の根源は、最終的にはこの部分にあると考えており、それはいわゆる投資先に対する適切なガバナンスと人材の提供と言ってもよい。

これらのPEファンドの付加価値が実績として現れ、多くの企業にもっと理解されるようになれば、日本でもPE投資はこれから益々増えていくこととなると確信している。

著者プロフィール 斎藤 玄太(さいとう げんた)

カーライル・グループ ヴァイスプレジデント
西村総合法律事務所(現西村あさひ法律事務所)にて弁護士としてM&Aなどの企業法務に従事
その後海外留学を経て、2006年7月、カーライル・グループに参画
埼玉県生まれ
趣味はゴルフ
東京大学法学部卒
ニューヨーク大学ロースクール法学修士課程修了
インシアード経営大学院修士課程修了(MBA)

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