第2回『PEファンドで働く人々』 | JPEA(一般社団法人 日本プライベート・エクイティ協会)
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第2回『PEファンドで働く人々』

起業家 慎 泰俊

日本にはそもそもPEファンドが欧米ほど多くなく、規模も小さいため、どのような人々が働いているのかイメージがつかない人も多いと思われる。そこで、第二回となる本コラムでは、PEファンドで働く人々に必要とされる素養や、働いている人々の生活について書いてみたい。

また、本稿を書くにあたっては、業界ベテランとなる方々の意見のみならず、ファンドに転職したての若手や中堅層の意見も多くヒアリングさせて頂いている。本稿が、PEファンドの人びとと仕事をしている方や、ファンドでのキャリアを考えている方にとって参考になれば幸いだ。

なぜPEで働くのか

そもそも、彼ら彼女らがどのようなモチベーションを持ちながらPEで働いているのか、という点について書いておこう。インタビューを通じて見えてきた、人びとの働く動機(特に若手)は、やり甲斐とライフ・ワーク・バランスの二つに集約できるように思う。

やり甲斐がある

第一回で述べたように、PE投資は金融と実業の複合実務ともいえる投資形態で、ファンドが成果を出すことができれば、それは事業の成長に大きく貢献することができる。「事業が成長すれば、株主のみならず投資先の経営陣や従業員、取引先などがハッピーになる。金融の仕事でそういったことに関われるのはPE以外にあまりない」と、ある若手投資プロフェッショナルは話していた。
 
もちろん、事業の成長に貢献するあるいは関与するということであれば、戦略コンサルティングファームで働くことによっても可能であるものの、経営権を取得して事業に関与するPEはより深く長期間に亘って会社に関与することができる。ある戦略コンサル出身者はこういう。

「コンサル時代、会社がどうするべきであるかについて、夜も寝ずに分析を続け提案をした。今も自分はその提案は妥当だったと思っているが、それが実施されるかどうかはクライアントである企業の意向次第で、歯がゆさを感じていた。ならば自分でもっと深く関わることができる仕事がしたいと思い、PEに入った。経営権を有している株主であればなんでも出来るというのは勘違いだということは分かったが、少なくともより深く対象企業の経営に関与することはできていると感じているので、キャリア選択は誤りでなかったと考えている。」

また、個人的な感想も述べると、ファンドの多くが少人数でチームを組んでいるため、比較的若手のうちから大きな裁量を持って仕事をすることができるというのも、大きなやり甲斐だった。例えば、三人である投資案件を追いかける際には、若手一人がデューディリジェンスを主担当、もう一人の若手がファイナンスのための銀行担当、一人の中堅(もしくはシニア)が全体統括といった具合にチーム分けをするが、担当者となった若手らは、弁護士や会計士らをはじめとした専門家との協議をほとんど一人で受け持って仕事を進めていく。どうしても一人では決められないことは上司に相談する、といった具合だ。

大きな組織では、こういった動き方をすることは少なく、何重にもレポーティングラインが存在し、一人で決められることが少ないのに対し、若いうちからこういった自律的な仕事ができるのは、とてもやり甲斐のある経験だったといえる。

裁量の大きさによるライフ・ワーク・バランス

また、やり甲斐とある程度関連しているが、PEファンドでの仕事では自分の裁量で時間管理をすることができるので、結果的にライフ・ワーク・バランスを保ちやすいということもある。

PEの仕事では、担当者一人ひとりが仕事に関して有している裁量が大きい。それは場合によっては仕事を一緒にするアドバイザーやコンサルタントよりも長い時間働き続けることにつながるが、一方で、ある程度自分の時間をとりやすいという側面もある。

いつ投資案件が佳境に差し掛かるかは分からないので年間の休暇のスケジュールを立てにくくはあるが、それでも毎日自己の裁量を持たず仕事に追われるようなものに比べるとライフ・ワーク・バランスがとれているといえる。実際に、周囲を見ていても、趣味や家族との時間を持つことが出来ている人が多い。

収入は最大の理由ではない

一つ強調しておきたいのは、PEファンドで働く多くの若手にとって、収入は第一の理由ではないということだ。これは日本のPEの特徴でもあるが、収入だけに関していえば、他にもよい選択肢はある。ある大手PEファンドの会長は「若くて仕事ができてお金稼ぎをしたいのであればPEに来ないほうがよい」とまで話していた。それにもかかわらずファンドで働くのは、上記に述べたようなやり甲斐や裁量の大きさによるものであると筆者は考えている。

PEファンドで働く人に求められる能力

PEファンドで働こうとすれば、当然ながら何らかのファームに入らなければいけないが、どのような能力を有した志望者が採用されやすいのだろうか。大手PEファンドの代表の方々にお尋ねしたところ、異口同音に同じ答えが返ってきた。ファンドで働くのに必要な能力は、次の三つに大分されるといえるだろう。

ハードスキル

会社に付加価値を提供するための技術的な能力は当然に必要とされる。そのため、PEで働くひとの多くは、投資銀行や戦略コンサルティングファームのどちらかの出身者で占められている。他には、法律事務所や総合商社、銀行出身者などもいる。

投資の実行前において特に必要とされるのがファイナンスの知識だ。それは財務モデルの作成、投資実行時のファイナンスの建付け、スキーム設計など多岐に及ぶ。また事業を分析し、投資後にその強みをどのように活かしていくか、企業の経営管理をどのように強化していくかといった点を把握するにおいては、経営コンサルティングファームで通常得られるような知識が必要となる。

ただし、PEファンドで働く人々にとって、ハードスキルは、どちらかといえば前提条件という側面が強い。元々の仕事を通じていくつかのスキルを身につけている人が、PEファンドに入って案件をこなしていくうちに、バランスよく必要な技術を揃えていくことが多い。もともと知的素養が高い人が多いため、言語化がされていて、決意さえすれば学ぶことが容易であるハードスキルそのものが、ファンドで働く人々の成長上大きな問題となることはさほど多くない。

コミュニケーション能力

一方で、あまり外部では知られていないものの非常に重視されるのが、コミュニケーション能力だ。ここでいうコミュニケーション能力は、人の信用を得る力、人の心を動かす力のことだ。弁舌さわやかにものを語る能力や、言葉巧みに議論を進める能力ではない。

いくらハードスキルに強くても、コミュニケーション能力のない人は、PEで働かない方が賢明だとさえいえる。というのも、人から信頼を得られないような人間が、投資先企業の人に受け入れられ、投資を実行することは困難を極めるためだ。仮に、オークションなどを通じて投資ができたとしても、そのようなコミュニケーション能力が低い人がファンド側にいると、会社経営陣と信頼関係を築き上げ、組織内の課題解決を行っていくことが難しくなる。

ただでさえ、PEで働く人はその前職が投資銀行だったり戦略コンサルだったり商社だったり銀行だったりで、大学も日本であれば東大や慶応卒と、世間一般からすれば、「鼻持ちならない」感じがする人が多い。そのような人が、実際に高飛車な仕事スタイルをとったり、会社の人を馬鹿にしたりすれば、どのような事態になるのかは目に見えている。

海外の超一流投資ファンドの入社面接は非常に厳しく、面接では徹底的に知的素養をチェックされるが、その後のテストは、食事会なのだという。入社志望者とレストランで食事をしながら、料理を持ってきてくれる人や受付の人に対してどれくらい丁寧であるかというのが、評価項目として存在しているそうだ。

このように、コミュニケーション能力がスキルとして必要な仕事であるため、PEで働いている人々においては、鼻持ちならない人の数は周囲が想像しているより随分と少ない。むしろ、様々な業種業態の投資先企業の社員と腹を割って話せるようなチャーミングな人たちが集っているという印象が個人的にはある。

マネジメントに関する知識・経験

そして、最後に重要なのが、マネジメントに関する知識と経験だ。すなわち、投資先企業の経営陣と、経営の目線に立って議論を行い、必要な課題解決を行っていく能力ということもできる。場合によっては、投資先の経営陣および従業員を意欲づける、起業家精神といったものさえも必要となる。

この能力に関しては、PEファンドで働く若手の多くが苦労することになる。そもそも事業経営をしたことがない人々にとっては、会社を背負って事業を行ってきた経営者らと同じ目線で物事を考えるのは容易ではないためだ(念のため述べておくと、PEファンドが経営サポートを通じて行うのは、経営そのものでは決してない)。

経営に関する知識は経験知・身体知であって、本を読んだり、経営者の様子を見たりすることで身につくものではない。実際に、自らが組織の長となって、その組織の経営をしてみることを通じて、はじめて身につく能力である。ある人は、「だから、PEファンドにいる若手は、どこかのタイミングで一度社長を経験してみて、それからファンドに戻ってくるのが良いのではないか」と話していた。個人的には、一度ファンドを離れて、起業をした後にまた戻っていくというのもありうる選択肢なのではないかと考えている。

PEファンド後のキャリア

最後にPEファンド後にどのようなキャリアを進むことが多いのかについても書いておこう。金融やコンサルの世界に戻っていく人はどちらかといえば少数派で、筆者がインタビューした限りでいうと、多いのは次のような仕事だといえる。

まず、ハードスキルを磨いた結果としての次のキャリアとして、事業会社のCFOやヘッジファンドへの転身がある。ビジネスを理解しつつ、財務に強い人材は日本企業にはあまり存在しないため、PEファンド出身者は事業会社のCFOとして重宝される傾向にある。また、投資先とのコミュニケーション等に気を遣わず、純粋に知的な好奇心を最大限に満たしたいという人の中には、ヘッジファンドという選択肢をとる人もいる。

次に、PEファンドで働いていると、投資家にリターンを還元するという最重要任務とともに、事業への興味や事業運営のやり甲斐に気づくことも多い。結果として、より深く事業の中に身を置きたいという思いから、プロ経営者に転身しようという人や、自ら起業するような人もいる。

それ以外としては、その後のキャリアをゆっくりと考えるために留学という選択肢をとる人々もいる。

結びに

実際にPEで働いてみて著者が一番意外に思ったのは、PE業界の中にはいわゆる「いい人」の比率が高かったことだ。実際に著者が入社する前には、働いている人々の経歴を見て、とても頭が切れて舌鋒鋭く批判を繰り広げるような人々の集まりなのではないかと思っていたが、全くそんなことはなかった。多くの人が宴会芸を一つや二つ持っていたり、年末の忘年会で行われる新人芸大会のクオリティが異常に高かったり、といった印象のほうが強く残っている。これは特定のファームにおける固有の特徴ではなく、意外と各社ともにこういった三枚目的なカルチャーのところが多く、それが日本という場所においてこのビジネスをする人々にとっての必要な進化の形であるのかもしれない。

著者プロフィール 慎 泰俊(しん・てじゅん)

五常・アンド・カンパニー 代表取締役
モルガン・スタンレー・キャピタルおよびユニゾン・キャピタルを経て現職。2007年にNPO法人のLiving in Peaceを設立し、カンボジアやベトナムなどで日本初の「マイクロファイナンス貧困削減投資ファンド」を企画するとともに、国内児童養護施設の支援を実施。Global Shapers(世界経済フォーラム)などに選出。囲碁六段、本州縦断1,648kmマラソン完走。東京生まれ東京育ち。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。

◇主な著書
『15歳からのファイナンス理論入門』(ダイヤモンド社) 2009年
『ソーシャルファイナンス革命』(技術評論社) 2012年
『外資系金融のExcel作成術』(東洋経済新報社) 2014年